「白い半紙・・・」
低迷アクション
第1話
酒の席で知り合った大学の後輩が久しぶりに帰った故郷で“奇妙な事”に遭ったと
言う。
彼は上京してから3年ぶりに実家へ帰省した。特に家族と仲が悪いという訳ではない。ただ、何となく帰りそびれていた。そんな感じだったと言う。実際、帰ってみると、家を出る時と何ら変わらない両親と兄弟に(最も、電話やLINEで常に近況は聞いていたが)
すぐに打ち解け、リラックスできた。実家の周りの風景もほとんど変わらず、まぁ、3年という月日は、考えてみれば、それほどの変化は起きないだろうという事が、肌で実感できた。
帰省には5日の余裕があった。その3日目の事だ。夕食を終え、自室に戻ろうとすると、母親が呼び止めた。振り返る彼に母は静かに、白い紙を渡す。何処にでも売っている習字用の薄い半紙だったと言う。
「ああ、これね。寝るとき枕元に置いてね。別に大した事じゃないんだけど、そうすると、よく眠れるから」
「何それ?おまじない?快眠グッズは必要ないよ。酒と飯で爆睡だぜ?」
「うん、そうだけど…とにかく持っていって」
母に押し付けられるように手渡された半紙を見て、後輩は首を傾げた。家を出る前に、
こんな事は無かった。両親は、おまじない等の話を好む人種でもない。
渡された紙を持ち、部屋に戻る頃には、酔いも手伝って、すぐに忘れ、机の上に半紙を置くと、彼はそのまま眠りについた…
深夜、耳障りな音で後輩は目を覚ました。2階の廊下に響く、その音は、床に寝そべって、自室へ這い進む“何か”だと言う想像が一気に思考できる。
音はどんどん大きくなり、部屋の前まで来た。やがて、ドアにぶつかるように音が
軋み始め…不意に止んだ。
しばらくの無音…後輩が唾を飲み込んだ時、目の前が真っ暗になった。いや、部屋は元から暗い。人の手が、それも、ぬめりのある手が自分の顔に載せられている。
更に手は、不気味に蠢動し、後輩の顔の上でのたくるように動き出した。
彼は叫び、布団から飛び出る。だが、手は離れない。母の言葉を思い出した。
手を伸ばし、机の上の半紙を、何とか掴む。闇雲に放った数秒後、ようやく、
不気味な手が顔から離れた。すぐに電気をつけて、振り返ると、枕元にグシャグシャに丸められ、黒く汚れた半紙が転がっていた。
後輩はその日に都内へ帰った。両親は
「時々、ああいう事が起きるようになった。でも、紙を置けば大丈夫だから」
とだけ、後輩に話した。彼は今後の帰省を本気で悩んでいる…(終)
「白い半紙・・・」 低迷アクション @0516001a
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