第49話 訓練  17 赤緑青

疲労で思う様に身体が動かない。

でも、死にたくなんかない。

だから、進んで訓練を受けるつもりだよ。


そんな事を想いながら、ミュラー少尉に案内された部屋に入った。

独特の雰囲気 ・・・・ 何となく病院の検査室みたいな雰囲気だった。

真ん中に移動寝台があり、それを囲むように ・・・・ なんだろう。

検査器具というか、見たこともない装置が置いてある。

その装置から何本も電線と思われるものが繋がれており、きれいに結束されて部屋の端まで続いている。そして、壁の下には電線の接続函だとおもう。

そこへと繋がっていた。

その壁には、真ん中にカーテンが掛かっていた。

なんだか不自然なカーテン、何かを隠している気がする。


「疲れはどんな感じかな」

「はい。 正直、くたくたです。

 でも、いけます。

 訓練は受けます」

「よし、ではまず靴と靴下を脱いで裸足になりなさい。

 上着を脱いで、上半身はだかでそこに寝なさい」


言われた通りに靴を脱いで、上半身はだかになる。

そして寝台に横になると、ミュラー少尉は僕の体のあちこちに何やら器具を取り付けていく。

電極だよな、これ。

額に4か所、頭頂部に何か当てられる。

たぶん ・・・ 電極だ。

そして耳たぶに何か挟まれる。

ふむ ・・・・ 脳波をいろいろと調べる?

両の手首、足首に何やら電極を取り付けられる。

胸にも4か所、貼り付けられる。

これは心電図の電極?

いったい何が始まるのだろう。

なにか医学的な検査か?

でも妙に仰々しい。

額の電極は脳波? たぶん脳波だよな。そして胸は心電図?

まちがいなく、何かの検査だね。

質問は受け付けないと最初に言われているから ・・・・

まあ、じっとしていた方がいいよね。

ここまできたらビビっても仕方ない。

僕は自分にそう言い聞かせた。

 でも ・・・・

やっぱり ・・・・ 不安だよ。



「不安そうな顔だね。

 心配はいらない。

 いいかい、説明する。

 よく聞いてくれ。

 最初に言っておく、質問は禁止だ。

 なにも聞かないでくれ。


 だから神経を集中して、僕の説明を聞きたまえ。

 今からある種の検査をする。

 そして、それは訓練でもある。

 この『 圃場 』での基礎となる訓練になる。

 基礎訓練が一定の練度に達すれば、この『 圃場 』での本格訓練へと移行する。



 始める時に、君の眼を守る為のガーゼをのせるからね。

 なぜ、眼を守るガーゼを乗せるのか。

 その理由は、これからドーム状の発光器具を君の頭全体に被せる。

 アタマがすっぽりと入る大きなになっている。


 それには、音も出るようになっている。

 そして眼を閉じた状態で、君の顔に強烈な光りを当てる。

 いいかい、眼を開けると強烈な光りだから、眼を傷める。

 間違って眼を開けた時、眼を守る為にガーゼを乗せるからね。

 まあ、ある程度、光を通すが遮光帯の役目をするガーゼだ。

 それでね、そこの壁にカーテンが掛かっているが、窓になっている。

 そこから君を観察しながら、光と音だね、それを君に与えていくことになる。


 眼を閉じた状態で、強烈な光りを当てるとだね。

 たとえ瞼を閉じていても明るさは感じられる。

 ああ、赤い光りだ、青い光りだとね、誰でもちゃんわかる。

 それでだ。

 光りを当てて、君がどんな風に感じているか、君の身体反応を ・・・・

 まあ、身体の微弱電流を電極でひらって、隣の部屋でそれを確認する。

 それで、あの窓から、君の反応を観察しながら僕がいろいろと質問をする。

 

 君はそれに答えたまえ。

 口頭で回答したり、身体動作で ・・・ つまり、右手を上げろとかだ。

 そのあと、こうしなさい、あーしなさいと指示をだす。

 君はその通りにしたまえ。

 いや、大したことは言わない。

 寝ている状態を保ったままだからね。

 その状態で出来ることしか言わない。

 だから、何も心配はいらない。

 たぶん、今から何が始まるのかと不安だと思う。

 大丈夫だ。

 もう一度言う。

 何も心配はいらない。

 光と音を君に与えて、君がどんな反応を観察する。

 光は強烈な光だ。

 瞼を閉じていたも明かりを感じるほどのね。

 だから、眼を閉じたままの状態を保ちたまえ。

 光と音を感じて、私の質問に答えたまえ。

 理解できたかい 」

「はい、理解できました」

「よろしい」


ミュラー少尉はそこまで言うと、壁に掛かっているカーテンを開けて寄せていく。

そこに窓があった。


「僕は隣の部屋のその窓から君を見ている。

 大丈夫だと思うけど、万が一なにか ・・・・

 例えば、悪心なんかがあれば申告したまえ」


はい、と返事した途端に、両の目にガーゼを乗せられて僕の視界は妨げられる。

少尉の言った通りに目をつむっても光は感じられる。


「それじゃ、発光装置を乗せるからね。

 試験音が鳴るから、最初はある程度の音量だから。

 音が聞こえなくなったら、音消えましたと言ってくれたまえ。

 それで、音量の確認をしていくからね」


僕の頭の方に何かが移動していく雰囲気。

どうやら試験装置がアタマに来たみたいだ。


「始めるよ」

「はい」


ザザァー    ザザァー   ザザァー    ザザァー   ザザァー


波の音?


波の音だった。

それが聞こえる。


「なにが聞こえている?」

「はい、波の音が聞こえています」

「よろしい」


うん?

波の音だよな。

うん。

波の音だよ。


でも ・・・・


あれっ?

別の音 ? !

別の音が混じっている?


それは 小さな小さな音

トーン トーンと言う音?

そう。

うん。

混じっている。


申告する?

んにゃ、気付いているかと質問された時に答えたらいいよ。

今はくたくただから、波の音を聞くだけでも疲れが取れる。

身体を休める方を優先しよう。

そうだね。


僕は僕にそう答えた。


眼を瞑っているけど ・・・・

明るくなっていく。


紅い ・・・ そう赤みを帯びた色 ・・・


夕日の紅色だよな ・・・・

そうだね。


まるで日が暮れる海岸にいてる感じ ・・・・

波の音が心地いい


自然と深呼吸になっていく。


移動寝台に寝た時、なにが始まるのか。

不安だった。

でも、今ではその不安感は消えている。

波の音を聞いていると不思議と ・・・・ 落ち着く。


今の僕は ・・・・


『 夕焼けを見ながら  僕は海岸に寝そべっている 』


そんな感じだった。


ここちいい。


不安感はどっかへ行っていた。


まあ 圃場にいるけど 僕はとにかく夕焼けの海岸で寝そべっている。

紅い光と波の音に ・・・・ 身を委ねた。


波の音が小さくなっていく ・・・・


それにつれて ・・・・


あの トーン トーン と言う音が ・・・・


姿を現してくる ・・・・


不思議と心地いい ・・・・


唐突にミュラー少尉の声が来る。

「なにが聞こえている。

 今、どんな感じになっている?」


「はい、波の音が消えていき、トーントーンという信号音が聞こえています。

 感覚的には波の音が聞こえている時は、夕焼けの海岸にいる気分でした。

 今は夕焼けの空を見ながら、不思議な音を聞いている--そんな気分です」

「よろしい。

 引き続きいろんな音がする。

 君はのんびりとその音を聞いていたまえ。

 特に何かを意識することはない。

 のんびりと自然なままに音を聞きたまえ。

 これから色々と変化する。

 その変化を ・・・ そうだな。

 君にはこの言葉が最適になると思う。

 変化を楽しみたまえ」


へっ?

楽しめって?

楽しめないよ。

身体全体くたくただよ。

まあ、いいや。


そう思っていたら、あの信号音が小さくなっていく。

別の音が聞こえてくる。


ちょろちょろという水の音?

波の音から、小さなせせらぎ? 小川?

とにかく水の音だった。

そして紅い色から明るい緑へと、瞼越しに感じる光りは変化していく。

まるで ・・・・ まるでそれは林の中で感じる木漏れ日のような光りだった。

紅い夕日の光から、ちらちらとする木漏れ日のような緑色の光に変わっていく。


僕は明るい林の中でのんびり寝そべり、近くにある小川のせせらぎを聞いている。

そんな感じだった。

これはこれで心地よかった。

ちょろちょろと聞こえる水の音と供に野鳥の囀りも小さく聞こえてくる。

僕はのんびりとした。

ミュラー少尉の言う通りに楽しもう。

気が楽になる。

何分ぐらいこれが続くのかな。

のんびりと楽しもう。

そう思って、気を楽にしたら、身体のこわばりと疲労感がゆるくなっていく。

ありがたい。

僕は林の中で寝そべった。



風の音だった。

それが聞こえる。

瞼越しの光が明るい青になっていく。

さわさわという梢の音 ・・・ 遠くで野鳥の囀り ・・・

まるで草原に寝そべっている感じがする。

青い青い空 ・・・・


ゆったりとしたひゅーとした風の音。

心地いい。

風の音を聞くだけで、なんだかここちい風が吹いているような感覚。

錯覚だよな。

現実には僕は圃場で検査を受けている。

まあいいや。

楽しもう。



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では開始します

基本誘導開始 ・・・・




脳波 擾乱波から安定へ

光誘導---第二階梯へ

光誘導 第二階梯へ入ります


脳波一挙に安定二波出現

安定二波強度強まります

呼吸・脈、共に光誘導に同調中


5分経過


同調率0.4から0.55へ


脳波安定三波出現


光誘導にさらに同調中


呼吸双安定へ

脳波安定三波強度強まります

同調率0.6から0.75へ


経過時間は?

経過時間は7分です


おかしい?!


おかしい 同調率がなんでこんなに高いんだ

0.8か うそみたいな数値になっている 

間違いだろ

何も訓練していないのに なんでこんなに高いんだ

まるで半年間訓練を積み重ねたみたいじゃないか

今日、まったくの初めてだろ


10分経過


最初からこんなに同調率が高い奴なんていないぞ

機材の校正は?

ちゃんしている

間違いない

でもこの安定率は異常値だよ

こんな奴いるのか

だが現実に目の前にいる

再度、計器の校正を確認する必要がある

今回は仕方ない

念の為に明日は予備機を使用して再度比較確認しよう

これが本当ならね、たぶん、1か月かからない


15分経過

同調率0.83

呼吸安定同期 ほぼ完全同期 同じく0.81


ふむ

興味深いが、示されている諸元は信用できないな

機材の校正を確認しよう

これが本当なら訓練の最終段階、つまり、2週間程度で訓練終了になる


   一旦中断する

   いや、このまま続けたほうがいい


   もしかしたら ・・・・ もしかするかもな



念の為に、安定中心から状態強制 ---優楽--- から、---騒乱--- へ移行させる

それで同調率の変化を見ようじゃないか


その移行についてもしっかり確認しよう

もしかするか ・・・・・ どうだろう


もし ・・・・ そうならば ・・・・ それはそれで悪いことじゃない


つまり

我々は興味深い試料を手に入れたんだ


暖色光誘導開始 ・・・・・

安定三波 ・・・・・ おかしい ・・・・・ そのままです

全く乱れません 安定を保っています


今、光誘導強度を下げていきます


二段階下げました


安定二波発現 三波も発現したまま


もしかしたら、このまま入れ替わない?


暖色誘導 そのままの状態を保ってみよう


経過時間は?

ただいま18分です

経過時間を区切りのいい5分ごとに知らせてくれ

了解しました


 では、ただいま20分経過中、これより5分ごとに報せます



25分経過 状態を維持し続けています


おもしろい

この子は誘導訓練を受けているとしか思えないな


光誘導の強度を二段階下げる

状態変化に注意してくれ


30分経過 安定二波の強度そのまま 三波はただいま低下中

呼吸・脈ともに安定双安定状態を保っています


ほう ・・・・ 興味深いね

全体60分で誘導をそのものを停止する、状態変化をしっかり監視してくれ


35分経過 光誘導停止用意 一段下げてくれ


安定二波強度落ちます 三波も弱波へ移行


暖色誘導 初期値へ下げてくれ


はい、初期値へ移行しました


40分経過 安定二波 三波 発現状態そのままです


変化しない?

ならば、止めてみよう

暖色誘導を停止して、音響誘導も停止へ


暖色誘導・音響誘導も停止しました


45分経過 安定二波 強度・中 三波強度・弱へ移行


光誘導停止しても、準位は下がるがある程度維持するか


 ・・・・ つまり 彼は訓練しなくてもいい ・・・・


それを明日から確認か ・・・・ 問題は 護衛の二人だな


60分で声をかけて、通常覚醒させる 状態変化を注視してくれ





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作者です

大変遅くなりましたが 49話をお届けします

また体調を少々崩しています

夏至の翌日から原因不明の発熱

CTや血液検査等50項目にも渡る検査しましたが

CT 何の影もなく異常なし 特に肺臓はOK

血液検査ぎりぎり基準値以内 中には基準値を超える値もありますが

特におかしいところはないと

ただ、白血球が基準値を超えていました

医師の説明ではこの程度の変化は日常範囲 白血病ならもっと大きくなるとの事

小水細菌培養検査するから、紙コップいっぱいに小水を入れろ

これにはびっくりしましたね 結局異常なし


医師から よくわからん の言葉 原因不明でした

発熱したら解熱剤を飲むという対処療法をしています


そんなこんなで 色々と生活に支障がでています

すきな酒も現在飲めていません

アバンギャルディさんのダンスを見て『ちから』をもらっている状態です

遅筆 ご理解のほど よろしくお願いします

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従軍記 海軍特務士官候補生 もも太郎冠者 @hayata1958

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