第48話 訓練 16 決意3
はぁ はぁ はぁ ・・・・
息が切れる ・・・ 足が 足が 重い ・・・・
いちにぃ いちにぃ いちにぃ ・・・・
「ほら、どうした。
ただの段差運動だ。
もちっとがんばれ」
中尉が涼しい顔でがんばれという。
うそだ。
中尉もそれなりにしんどいはずだ。
首回りが汗でびっしょりになっている。
なのに、僕には余裕綽綽の顔で声をかけてくる。
くそっ ・・・
なんでそんなに涼しい顔なんだよ。
ザッ ザッ ザッ ザッ ・・・・・
靴音が ・・・・ ものすごく ・・・・ 忌々しい。
中尉の涼しい顔がものすごく腹立たしく感じる。
なぜなんだ。
なぜそんな涼しい顔ができるのか、不思議だ。
そして、そのことがものすごく忌々しい。
中尉、お願いです。
僕を見ないでください。
中尉の涼しい顔がものすごく腹立たしいです。
くそっ・・・・
足が痛い ・・・・ 背中が痛い ・・・・
ふくらはぎがパンパンになっている。
ふくらはぎだけじゃない。
身体中の筋肉がパンパンになって、悲鳴を上げていた。
がんばれ、オレ。
軍隊に入ったら、訓練は常にある。
体力錬成は当たり前だ。
おぼれて死ぬなんてまっぴらごめんだ。
だからやるしかない。
右足が ・・・・ み みぎあしが ・・・・・
だめだ いてぇ 右足が攣る。
「みぎぃあしがぁ つりましたぁ」
「おーし、休め。
養生しろ」
軍靴を脱いで、親指を引っ張る。
ひぃぃぃぃ、いてーよ。
くそっ、足がカキンカキンに固まっている。
ひぃぃぃぃぃぃ、いてーよ。
足の裏をぐりぐりと揉み込む。
固い固い何かが張り付いている感覚。
訓練が始まってまだ三日なのに、僕の身体は悲鳴を上げている。
どーする ・・・・ でもやるしかない ・・・・・
もう一人の僕が ・・・・・ ぽつりとつぶやいていた。
うるせーよ わかっているよ いちいちそれを言うために ・・・・・
出てくるな 鬱陶しい
黙って見とけ
僕は僕に怒鳴りつけた。
もう一人の僕が怒りを露にして睨め付けてくる。
かまうものか。
僕は僕を無視した。
「手伝ってあげよう」
突然に声が掛かる。
ミュラー少尉だった。
少尉はカキンカキンになっている僕の右足をむんずと掴むとぐいぐいと揉み込んでくれる。
でも ・・・・
痛い、 ・・・ ただただ ・・・ 痛い。
僕は自然と歯を食いしばっていた。
ある程度、揉み込んだら右足の親指を引き上げる様にして、筋の強張りを伸ばしてくれる。
いてぇぇぇぇよ
これも地味に痛い。歯をくいしばって耐える。
そうやって、強張った筋肉からの痛みに耐える。
足の裏のカキンカキンになっている部分をゴリゴリと揉み込んでくれるが、
その痛みに「ヒィッ ・・・ 」とのけぞってしまう。
「中尉、残念ですがこの辺が限界ですね。
彼は大学で、脚力を鍛える機会がなかったみたいですね、
彼の足はけっこう限界に来ていると思います。
彼の筋肉の強張りからみると、要注意です。無理は禁物です。
基礎体力を得る前に、筋断裂なんかの怪我の恐れがあります。
足を冷やして、養生のあと、銃器訓練へと移行するのをお勧めします」
ミュラー少尉は仕方ないなと言う表情で、そう中尉に勧告してくれる。
「いいかい、最初の一カ月は注意しなさい。
急に運動する事で、怪我の発生は最初の一カ月に多く発生する。
一カ月を超えると、なんとかなるから。
この訓練は君の為の特別訓練だ。
この意味 ・・・・ わかるよね。
生き残る為の基礎体力養成、常に頭で意識してくれ。
しっかりと目的意識を持って、訓練に励んでくれ。
最初の一週間は、特につらいと思う。
それと水分補給はしっかりとしたまえ。
汗をかくからね、脱水状態になれば余計に足が攣るからね」
ミュラー少尉が子供に諭すように、助言してくれる。
結局のところ、1時間の大休止になった。
伍長さんが食堂から氷の入った布袋を持って来てくれる。
「冷やせ」
氷で冷やすと、足の痛みは少しは楽になる。
ありがたい。
軍隊の訓練で足が攣ったら、氷を用意してくれるなんて、こんな優遇はないよな。
とにかく休憩して、次の訓練に励もう。
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「ゆっくりでいい。
しっかりと狙え。
最初は正確さを身につけろ。
狎れたら早く撃てる。
それよりもまずは正確さだ。
いいか、両の腕が上がらなくなるまで訓練するからな。
六発撃つと、つまり全弾撃ち尽くすと銃を交換する。
交換用に3式拳銃を10丁用意してある。
発砲しすぎて熱く持てない、だから訓練中止、何てことはない。
10丁の拳銃を巡らすからな。
弾を込めるのはしなくていい。
それは俺たちがする。
お前さんは、ただただ ・・・ しっかり狙って撃て」
中尉は涼しい顔で僕に銃を手渡してくる。
ひぇ ・・・・ いったいどれだけ撃てば両の腕が上がらなくなるのだろう。
下半身は段差運動でクタクタになっている。
次は上半身を鍛えるという訳か。
生き残る為には、僕は僕の肉体を一定水準以上のモノにしなければならない。
その事については、何の疑問もない。
やるしかない。
僕は防音具を耳に着けて、銃の安全装置を確認し、そして、それを外した。
両足を肩幅程度に広げ、右足を半歩前に出す。
ゆっくりと銃を持ち上げ、膝をかるく曲げて少し腰を落とす。
肘をかるく曲げ、銃口を的に向ける。
中佐の教えのままの動作。
そして ・・・・ 前方の的を観る。
人の上半身を象った的だった。胸の部分に3重に〇がある。
3重円の真ん中、照星、照門 ・・・・ 重なるように狙いをつける。
よし。
撃鉄を引き上げる。
撃鉄が最上位点でカチリという音ともに固定される。
用心金に沿わしていた人差し指を、引き金へと移動。
引き金の感触を確かめつつ、3重円の真ん中に狙いをつける。
3重円の真ん中 ・・・・
パンと言う音 ・・・・・・・ 同時に両の手に掛かるズンという衝撃 ・・・・・
まるで花火みたいな音だけど ・・・・・
ズンという衝撃は、人を殺めるには充分な威力 ・・・・・
ダメだ ・・・・・・
深く考えるのは止めよう。
考えても結論 ・・・・ 何て ・・・・・ 出ない
今は ・・・・・ 生き残る為の技術を身に着けよう。
死にたくない。
だから こそ ・・・・・
身を護る ・・・・・
それに集中しよう。
・
・
・
・
・
・
はぁはぁはぁ ・・・・
しんどい ・・・・
疲れた ・・・・
もう一度、僕は狙いを定める。
照星と照門、そしてその延長線上に的が来るように ・・・・・
ぶれる ・・・・ 狙う ・・・・ ぶれる
狙う ・・・・
そして、撃つ。
ドンと言う両手に掛かる衝撃 ・・・・
よし。
もう一度、ゆっくりと両の手を上げて、狙う。
しんどい ・・・・
猛烈に重くなってきた銃。
狙う ・・・・ ぶれる ・・・・ 狙う ・・・・
だめだ うまくいかない。
一度、銃を下げる。
もう一度、持ち上げる。
狙う ・・・・ ぶれる ・・・・ よし。
撃つ。
両手に掛かる衝撃で親指の付け根が痛い。
こめかみがジンジンとする。
何発撃った ・・・・・ ?
わからない
たぶん ・・・・・
訓練弾3箱と半分?
いや5箱ぐらい撃っている。
400発ぐらいか、500発ぐらい ・・・・ たぶんそれぐらいだ。
正確な数なんて ・・・ わからない。
疲れた ・・・・
たかだか1モル(約940g)もない、わずか0.8モル程度(約750g)の重さの銃。
そんな重さの銃だけど、持ち上げるのが苦痛になってくる。
背中をトントンと叩かれる。
中尉が防音具を取れというしぐさ。
「ほれ、がんばれ。
銃を構えろ。
もう、だめか。
もちっと踏ん張れ。
目の前には ・・・・ お前を殺そうとしている敵だぞ。
死にたくないなら ・・・・ 撃て」
くそっ ・・・・ かんばれ、おれ。
銃が ・・・ 重くて重くて ・・・ 持ち上がらない。
くたくただった。
アタマも朦朧としている。
狙って 狙って ・・・・ 的がぶれる。
狙って ・・・ 撃つ。
はじめて外す。
人型の的にかすりもしなかった。
手の平が痺れる。
指が強張っていた。
背中の筋肉がなぜか痛い。
いや、背中だけじゃない、全身筋肉痛だった。
また、肩をトントン叩かれる。
中尉だった。
防音具を外せの身振り。
「外したな。
たぶん、疲れでこれからの銃器訓練は危険が増す。
だから、銃の訓練は止めだ。
次の訓練へと移る。
食堂へ移動して、10分ほど休憩にしよう」
たすかった。
全身に疲労感。
しんどいよ。
特に背中の筋肉が ・・・・ 広背筋と肩が異様に痛い。
疲労困憊だった。
・・・・・
食堂へいくとものすごくいい匂い。
軽食の用意がされていた。
ジャガイモのスープとベーコン、そしてパンだった。
疲労困憊の
ものすごくおいしい。
どんなに食ってもいいと言われても、パーペキに疲れているとあんまり入らない。
とりあえず、自分の分だけで充分。
背中の痛み ・・・・ 筋肉痛がひどい。
ミュラー少尉が僕の足と腕を診察してくれて、マッサージをしてくれる。
ありがたいけど、モーレツに痛い。
ひぃぃぃとなさけない声が勝手に出てしまう。
結局、30分の休憩になった。
ミュラー少尉が僕の顔をうかがっている。
僕は少尉の眼を見つめながら、「いけます、大丈夫です」というと満足そうな表情。
「次の訓練は僕が担当する」
ミュラー少尉はそう言って僕を案内してくれた。
新しい訓練室だった。
それはプールへ続く階段の下の階にあった。
無茶苦茶にしんどいけど、軽い食事をとったので気力は戻っている。
やるぞ。
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読者のみなさまへ
お待たせいたしました
半年ぶりの投稿になります
体調もかなり回復しました
朝 あんなにたくさん飲んでいたお薬も
3錠までに減りました
再開に当たり できるならば
読者のみなさまからの反応が欲しいです
よろしくおねがいします
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