エピローグ
魔族を倒したと言うことで僕たちはなぜか国王様に謁見させられることとなった。
「お、おい、倒したのはリーノだろう……。なんで私たちまで……」
ガチガチに緊張している様子のカリナ先輩。
その一方、平然としているように見えるマシェ。
ただ、よく見ると顔はこわばっており、微妙に肩をふるわせているようだった。
なんでそこまで緊張することがあるんだろう?
僕はいつもと変わらない様子で現れる人を待っていた。
「よくぞ来てくれた。小さな勇者達よ」
王座に座った初老の男性が手を広げて歓迎してくれる。
するとマシェとカリナ先輩は膝をついて頭を下げていた。
えっ、な、何?
僕は一人立ったままでいるとカリナ先輩が小声で言ってくる。
「おいっ、ここは敬礼する場面だぞ……」
「よい、それよりも此度の魔族討伐、ご苦労であった。そなた達にはぜひ褒賞を授けたいと思い、ここに呼んだのだが……」
国王はまっすぐ僕のことを見てくる。
「何か欲しいものはあるか?」
「えっと、私たちは特に何もしていないのですけど……」
カリナ先輩が小さく手を上げて答える。
すると、国王は笑い出していた。
「ほっほっほっ、チームメイトが戦っているからと魔族の戦闘中も側を離れなかったと聞いておるぞ。近くにいるだけで危険な魔族相手に……。それは十分褒賞に値すると思うがいかがじゃろうか?」
そこまで言われるとカリナ先輩もそれ以上言い返すことはできなかった。
すると今度はマシェが手を上げる。
「……私は冒険者になるからいい」
「ふむ……、それなら冒険者ギルドの方には融通を利かせるように儂から伝達しておこう。これで面倒な手続きはなくなると思うぞ」
「……んっ」
マシェはそれで満足したようで一歩下がっていた。
「わ、私は……その……王宮騎士を志望していまして――」
カリナ先輩が慌てふためきながら言っている。
こんなに動揺しているカリナ先輩をみるのは初めてだな……。
「ほう……、そなたの戦いははじめから見させてもらっていた。それほどの武の者が我が騎士に加わってくれるなら是が非でもないことじゃ。では騎士長よ、この者が卒業したらそなたに預けるぞ」
「御意に」
あっさり自分の要望が通ってしまい、カリナ先輩は目を輝かせていた。
「さて、最後に実際に魔族を討伐してくれた……名はリーノ……といったな。そちは何がほしい」
僕の欲しいもの?
……えっと、今の学園生活を送れたらそれでいいんだけどな。
「僕は特にないです、今の普通の学園生活が送れたらそれだけで満足ですから」
その答えを聞いて一瞬国王は固まる。
そして、大きな声で笑い出してしまった。
「そうかそうか、今の生活が『普通』の生活か……」
何がおかしかったのだろう?
僕は一人大笑いする国王に首をかしげていた。
「わかった、それならば卒業後に何をして働きたい等はあるか?」
「うーん、そうですね。多分以前と変わらずに冒険者になると思いますけど……」
「それならば、Sランク冒険者の称号を授けよう。どうじゃ、この待遇は」
国王は満足そうに頷いている。
ただ、僕はもうSランクなんだよね……。
それにそれがばれたら普通の生活は送れないみたいだし……。
「いえ、それはお断りさせていただきます」
「な、なぜじゃ!?」
驚きのあまり国王は席から立ち上がった。
「だって、Sランク冒険者だと普通の生活が送れなくなりますよね?」
にっこりと微笑みかけると国王は乾いた笑みを浮かべていた。
「そうか……、それなら今後そなたが欲しいものを何でも与えると約束しよう」
◇
それから僕たちは学園に戻ってきた。
ただ、学園内ではまるでスターのように扱われてしまった。
まぁ、大会で優勝したんだからこうなるか……。
しばらくしたら落ち着くよね。
そう思っているとシーナが近づいてきた。
「リーノ君、マシェ、おめでとう。見ていたよ」
嬉しそうに笑みを見せるシーナ。
「でも、二人にはだいぶ引き離された感じがあるよね」
「……そんなことない。実力はほぼ互角……」
実際にマシェとシーナの二人が戦うとほぼ五分で、戦い方に優劣をつけがたい感じだった。
「でも、マシェは冒険者としての待遇を約束されたでしょ……。だから――」
シーナがにやりと微笑むと僕の手に腕を絡めてくる。
「しばらくリーノ君の指導は私がもらうね」
「……そ、それはずるい」
慌てた様子のマシェが反対の腕を掴んでくる。
そんな二人の様子を見て僕は苦笑を浮かべる。
ただ、それと同時に心地よい満足感も得られていた。
これが僕の望んでいた普通の生活……なんだろうな。
「それじゃあ、リーノ君を賭けて勝負よ!」
「……望むところ」
シーナとマシェが二人、訓練場に向かっていく。
そんな二人にため息をつきながら僕もその後を追いかけていった。
6歳のSランク冒険者だけど、普通の学園生活を送ります 空野進 @ikadamo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます