34話 決戦(2)

「ぐっぐっぐっ、さすがに俺のこの姿には驚いたよな。そうだ、俺は――」


 前口上が長そうなのでとりあえず攻撃してみることにする。

 まぁ、いきなり本体を狙うのはかわいそうだから足下を……。


 ドゴォォォォォォン!!


 爆発魔法を軽く使って威嚇をしてみる。

 ただ、軽い爆発魔法も耐えられなかったようであっさり吹き飛んで壁に激突していた。


「ぐ、な、なんだやつは……。いや、落ち着け……。あれはきっと開始早々驚かせようとやつが全力で魔力をためていただけだ。それならばやつはすでにほとんど魔力が残っていないはず……」


 ゆっくりと起き上がってくる魔族。

 なるほど……、やっぱり弱い攻撃だと耐えてしまうんだ……。まぁ、当てるつもりはなかったんだけど……。

 使ったのが爆発魔法だったから爆風で飛んでしまったのかもしれない。


 あれっ、案外魔族って弱いのかな?


 よく考えれば種族が違うだけでただの人だもんね。

 それならあまり強い攻撃をしたら駄目かも。

 カリナ先輩からも絶対殺すなと言われてるし……。よし!


 気合いを入れ直すと向かってくる魔族に対して今度は火の魔法を使ってみる。


「えいっ!」


 手のひらに火の玉を生み出して、それを投げつける。

 初級魔法ファイアーボールと言われるものなのだが、魔族はそれを見て笑い声を上げていた。


「くくくっ、やはりもう初級魔法を出すくらいしか魔力が残っていなかったか……。それならばあとはいたぶり殺してやる!」


 手で火の玉を払いのけようとする。

 しかし、火の玉が手に触れた瞬間に手の先が消えてなくなって、魔族はその場にうずくまっていた。


「グ、グォォォォォ……。ど、どういうことだ? な、なぜ初級魔法がこれほどの威力を!? はっ、も、もしかして、俺の油断を誘うためにわざと弱い魔法に偽装したのか!? それならばもう騙されんぞ!」


 魔族が危険を察して後ろに飛んで距離を開ける。


「くくくっ、もう油断はせんぞ! 最上級魔法で仕留めてやる。覚悟しろ! 漆黒に染まりし闇よ。今、かの者を消し去る力とならん――」


 魔法を使おうと詠唱を始める魔族。

 使おうとしているのが最上級魔法と言うこともあり、魔力を込めながらの詠唱は非常にゆっくりとしたものだった。


 詠唱なんて相手の隙を作らないと自分が無防備になるだけなのに……。


 でも、今攻撃してしまうとあの魔力が暴発して魔族の人……死んじゃうよね?

 うーん、やっかいだなぁ……。


「出でよ、最強の闇魔法。深淵の闇ダークネス!!」


 魔族の手からすべてを無に帰すと言われている闇が生み出される。

 実物は手のひらサイズの小さな闇の玉だけど、触れたら生命力を吸収して、すぐに死に至らしめるという魔法だった。


「くくくっ、これは触れたものをすべて殺す最強の魔法だ。今のうちに泣きわめていておくといい」


 魔族がにやりと微笑む。

 それほどに自信がある魔法のようだ。でも、なんだか威力が弱くないかな?


 最上級魔法と呼ぶにはそれほど威力がない気がする。

 もしかして、これはおとりで別の攻撃を仕掛けてきているとか……。


 意識を集中させるために目を閉じる。


「リーノ、逃げろ!! それは危ないぞ!」

「……逃げて」


 カリナ先輩やマシェが大声を上げているのが聞こえる。

 ほかに観客席にいる人たちは混乱しながら逃げ惑っている様子だった。


 でも、感じる気配はその程度だった。


「あれっ、えっと……」


 もしかして、本当にこれだけしか出していないのだろうか?

 それにしてはあの勝ち誇った顔に違和感しかなかった。


「すみません……、ちょっといいですか?」

「何だ、遺言でも残しておくのか?」

「いえ、もしかして、さっきの魔法ってこれだけ……なんてことはないですよね?」


 すると、魔族は一瞬驚いた表情を見せるがすぐに笑い出す。


「くくくっ、俺を逆上させて魔法を解かせようとする腹か……。その程度の罠にかかる俺ではないわ!」


 なんか勘違いさせちゃったみたいだ。

 とにかくこの魔法が発動している限りはこっちの話も聞いてくれなさそうだな。


 とりあえず手に魔力を込めて、相手が放った闇の玉を掴む。そして、握りつぶしてしまった。


「はぁっ!?」


 魔族が思わず声を漏らす。


「ど、どういうことだ。あれは俺の最強の魔法……、なんであっさり握りつぶされているんだ!?」

「えっと、本当にこれだけ……だったんだ――」


 これならもう無力化しても大丈夫そうだね。

 僕は再び手に魔力を込める。


 大体初級魔法の半分くらいの魔力でいいかな?


 そして、思いっきり魔族を殴りつけた。


「ぐはぁっ……」


 魔族は血を吐きながら再び壁に激突して意識を失ってしまった。


 ただ、再び意識を取り戻したときに暴れられても面倒か……。


 とりあえず、拘束はしておいて……、あとはさっき魔族が使った生命力を奪うやつ……。あれの魔力版はできないかな。


 少し自分の中の魔力を調整して……、魔力を奪うイメージを強化して……よし、これなら……。


 僕は手を前に突き出すと光の玉が飛び出してきた。

 あとは、これを死なない程度に魔力を吸収し続けるように調整して……。

 よし、これで終わりだね!


 ようやく魔族を倒し終えると後ろにいるカリナ先輩やマシェに向かって大きく手を振っていた。


「終わったよー!」


 すると二人は駆け出してきて、思いっきり僕にしがみついてくる。


「馬鹿やろう……。なんで最上級魔法を手で受け止めるなんて無茶をしたんだ……」

「無事でよかった……」

「えっと……、やっぱりあれは最上位魔法で間違いなかったのですか? もっと弱い魔法だと思って次の攻撃を警戒してたら、あぁ動くのが一番かなって……」


 僕の反応を見て、一瞬呆然とするカリナ先輩。

 ただ、マシェは頷いていた。


「やっぱりリーノはそうだよね……」

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