家族の風景

「旦那様、お帰りなさいませ」


 馬車から降りるとシルビアがアイリーンを伴って、迎えに上がるのが見えた。


「ご無事でなによりです」


「…シルビアは大げさだ」


「何も大げさではございませんよ!近頃は国境から数マイルの屋敷にも魔物が押し入ると聞きますよ?まあ、ウッド家ほどの小商いの屋敷にわざわざ押し入ろうという魔物もないとは存じますが…」


 シルビアはそういうとふふと笑った。


「………」


 主人の前でのこの言いよう。だがそんな無頓着な明るさにアイル自身、実のところ救われる面もないではない。


「お嬢様も最近は家事をこなせるようになったんですよ、ねえ?」


 アイリーンはこくりと頷いた。


 アイリーンも当初より少しずつ感情の起伏を表に出す様になってきた。シルビアやアイルにも人並みに興味を示すようになり、人形の様だった見目にも日ごとに少しずつ子供らしい表情の変化が加わっていた。


「…言葉は話せるようになったのか?」


「それはそのうち、ですよねぇ!」


「…ん…」


 そういうとアイリーンはまた一つ頷いた。


「…このご時世に呑気なものだ」


「よそはよそ、うちはうち、ですよねぇ?」


 アイルの皮肉も意味が分かっているのかいないのかアイリーンがまた無言で頷くのを見て、アイルはやれやれとため息をついた。

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