当日

さて、今俺は合コンの待ち合わせ場所である居酒屋の前に来ている。

約束の時間になっているのだが坂下の姿が見えない。

坂下の携帯に連絡を入れてみたのだが反応がない。


女性陣と合流して先に店に入っておくか。しかし、相手の連絡先は聞いていない。

こちらで姿を補足して、それっぽい女性に声をかけ確認を取る必要がある。

自分から知らない女性に声をかけるなど、今まで経験のないことだ。

自分にとってはハードルが高い行為だがやむを得ない。


周りを見渡してみたところ、誰か待っているように見受けられる女性二人組の姿が目に入った。片や小柄でガーリーなベージュのトレンチコートを着ている童顔の女性。片やブラックのダッフルコートを着ている肥満体型の…いや、肉付きのいい大柄な女性。


他に誰かを待っているような人間は見えないし、声をかけてみることにした。

女性慣れしていないので、心臓が口から飛び出るかと思うほどドキドキしている。


「こんばんは。もしかして坂下からの紹介でお約束してる方ですかね?」


「え…、あ、はい。あなたが松尾さんですか?」


小柄な女性が返事をしてくれた。

どうやら当たりだったようだ。


「そうです、僕が松尾です。はじめまして。実は坂下がまだ来てなくてですね、連絡も取れないので先にお店に入ろうかと思っているんですがいかがでしょう」


「え…、あ、はい。そうですね。わかりました。」


かくして、女性陣二人を連れて先に居酒屋に入ることとなった。






居酒屋に入り席についたものの、この二人、顔を俯かせたまま何も語らない。

こういうのは男性からきっかけを作るものなのだろうか。

なにせ、こういう場は初めてなので勝手がわからない。

兎にも角にも、この静寂を何とかしなければなるまい。


「えーっと、自己紹介からはじめましょうか」


「僕は松尾さとると言います。坂下と同じ職場で働いています」


小柄な童顔の女性が口を開く。


「え…、あ、はい。はじめまして。私は神谷ゆいっていいます。看護師です。」


肥満体型の大柄な女性も続いて口を開く。


「私は神谷と同じ職場で働いています。山田かなこです。」


名乗ったあと女性二人は顔をうつむかせ、再び沈黙が場を包む。

二人揃って恥ずかしがり屋なのだろうか。


俺も話すのは得意な方ではないので困った。

さて、一体どうやって切り込めばいいのか…

一般的に、合コンってこんな感じなのか?


携帯電話が鳴りはじめた。画面を見ると坂下の名前が表示されている。

もうすぐつくのだろうか。よかった。一人では荷が重いと思っていたところだ。

助けてくれ坂下。


「すいません、今起きました…1時間後にそちらに行けると思います」


嘘だろ坂下。







「えっと、看護師の方なんですよね。交代制だったりしますかね、僕らの仕事も交代制なのですが、生活リズムが不規則になるので大変なんですよね」


何とか共通点を見つけて会話を繋ごうと試みる。


「え…、あ、はい。そうなんですよ!」


小柄な神谷の目に光が宿る。よし、正解だったか。

これをきっかけに顔を上げてまともに話してくれるようになった。


小柄な神谷は仕事で悩んでいることがあるらしく、

相談に乗るような形で会話を進めていった。


小柄な神谷が話すようになり、その姿を見て安心したのか、

大柄な山田も続いて話してくれるようになった。


大柄な山田は、インターネット文化にどっぷり浸かっているらしく、

最近ではもっぱら●コ●コ動画の鑑賞にはまっているようだ。

俺もネットサーフィンが趣味なので、話が合い思いの外盛り上がった。


俺が喋るのが大半だったため、酸欠になったのか、顔と手が痺れている。

合コンってこんなに大変なのか。


しばらくして、坂下が到着した。ハァハァと息を荒げている。

時計を見ると、電話があってから1時間どころか2時間近く経過している。

もはやラストオーダーも終わり、店を出る時間である。


大変な思いはしたが、女の子と仲良くなったしひとまずは許してやろう。






会計を済ませ、店を出て、今日のところは解散することとなった。

お互いの連絡先を交換し、次の約束を取り付けることができた。


「今日は楽しかったです!ありがとうございました!また会いしましょう!」


小柄な神谷ゆいは見た目が可愛らしく、俺の好みなので、あわよくば彼女となってくれれば嬉しい。大柄な山田かなこは俺の好みではないが、趣味が合うのでいい友人になりそうだし、上々の成果を得ることができたのではないだろうか。


はじめこそどうなることかと思ったが、頑張った甲斐があった。




「松尾さん…」


帰り道、坂下が浮かない顔で語りかけて来た。


「今日は遅刻してしまって本当に申し訳ありませんでした。ついでと言ってはなんなのですが、今のうちに謝っておかなきゃならないことがあるんですけど…」


大遅刻してきたこと以外にまだ何か謝ることがあるのか。


「ちっちゃい女の子の、神谷、いたじゃないですか。実は…僕の彼女なんですよね」


嘘だろ坂下。嘘だと言ってくれ。

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二対二 マツムシ サトシ @madSupporter

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