二対二

マツムシ サトシ

機会

俺は高校を卒業をして、大学に進むことなく、就職した。

地元から比較的近い場所にある工場のオペレーターとして働いている。


別に成績が悪いわけでもなく、

華々しいキャンパスライフというものへの憧れもあったのだが、

「高校を卒業したら自立しろ。大学の金を出す余裕はない。」

と親から言われたこともあり進学は諦めた。


社員寮は破格の安さで、給料は同年代よりも高い。

仕事も面白いし、現状には概ね満足している。


しかしながら、かねてより実現したいことはまだできていない。


––彼女だ。彼女が欲しい。


ドキドキキュンキュンしてみたり、一緒にいて安心…みたいな感覚を味わってみたい。ギュッとしたり、チュッとしたり、ガバーッ!とかしてみたりしたいのだ。







「なあ、坂下くんさ。女の子の知り合いいる?」

「何ですか、藪から棒に。どうしたんですか。」


「いやね、今まで彼女ができたことなくてさ。合コンってのも経験したことがないんだよね。もしよかったらセッティングしてくれないかなー?なんてね」


後輩の坂下にダメもとで投げかけてみた。

坂下は大卒である。キャンパスライフを謳歌している。

したがって、少しくらい女っ気のある生活を送っているはずだ。

偏見が混じっているのは認める。だが、確実に俺よりはツテがあるはずだ。


「えー…、彼女ができたことない、なんて絶対嘘でしょ。松尾さんイケメンじゃないすか。」


俺が最後に通っていたのは男子高校である。女っ気はない。

さらに言えば、俺は半ば引きこもりでありインドアライフに勤しんでいたし、

人付き合いは多くなかった。


「いいですけど…、あまり期待はしないでくださいね。」







あれから数日ほどたった。坂下にお願いしたことも忘れかけていたのだが、休憩時間中にタバコをふかしていると坂下が俺に話しかけてきた。


「松尾さん、お疲れ様です。この前お願いされた件ですが、女の子の都合がつきましたよ。ただ、人数が集まらなくて2対2になっちゃいますけど。松尾さんと僕、女の子二人になりますけど大丈夫ですかね」


「マジか!ありがとう!全然大丈夫!そのまま話を進めちゃって!」


「ういっす。今度一杯おごってくださいね。」


そこまで期待してなかったのだが、見事に約束を取り付けてくれたようだ。

初めての合コンだ!正直言って、女性と無縁の人生を送ってきたので、何を話したらいいのかよくわかっておらず、不安がこみ上げてきたりもしたが、ひとまずは機会を得ることができた。


ありがとう坂下。

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