第7話 到来

春。

花粉症が辛い伶はこの時期は不機嫌。

薬を飲むと眠くなり、飲まないとくしゃみ・鼻水が止まらない。


そんなある日、いつものA店が混んでいて、行く敦司もいる団体がB店に来た。


暫くは若い女の子達で賑わう席。

敦司には最初にいらっしゃいませと声をかけただけ。

ある時間から伶もその席につくことになった。


「お邪魔しますー」


さりげなく敦司の近くには座った。


敦司は仕事の話をしていた。

そんな時の敦司は周りはあまり目に入っていない。

誰が隣に座ろうと、チラッと見てすぐ会話に戻る。そんな感じだった。


暫くして、伶は敦司の隣に座った。

敦司はお酒の酔いもあって、少し柔らかい空気を保っていた。


「こんばんは、元気でしたか?お久しぶりですね」


「あ、伶さん、ほんとにお久しぶりになっちゃって」


と敦司は苦笑いを浮かべた。


返信がなかったのと、二ヶ月連絡を取っていない事で、これは無理かもな……という思いがあった伶は緊張していた。

緊張のせいで、体温がスーっと下がっていく感じ。両手が氷のように冷たくなっていく。


敦司はゴールデンウィークに家族と旅行で遠出をする話を聞かせてきた。

いいですね、なんて会話をして、敦司に合わせる。

そんな話が終わった時、伶が切り出した。


「そういえば、最近あのお店には行ってますか?最近お土産に串焼きを持ってきたお客様がいたんですけど、冷めるとやっぱり美味しくなくて、お店で焼きたてが一番だと思いましたよ」


心臓がバクバクしている。

そうなんだ。と言われたら話が終わってしまう。


「最近行ってないなー。好きでよく行ってたんだけど。一人でも行くくらい。最近鰻も食べてないなぁ、大好きなんだけどね」


「一緒に行って日本酒飲みながら串焼き食べたいですね」


伶は軽く言ってみた。

行きたい、連れてっと言ったら、はぐらかされそうで怖い。


「そうね〜、機会があったら行きたいね」


お酒の力か、敦司の答えは前向き。

伶は少しほっとしていた。


そんな会話をしていたら、お開きの時間が来てしまった。


(今日は話す時間が少なかったな)


前とあまり変わらない敦司の態度と時間の足りなさに、伶は少し残念と思うしかなかった。


(でも連絡先知ったから、明日お礼を兼ねてメールしよ)


そんな気持ちで次の日の昼に、敦司にLINEを送った。


「昨日はB店でお世話になりました。お席について、お話させて頂けるのは嬉しいです。ありがとうございます。

一緒に串焼き食べながら日本酒出来たら嬉しいです。」


敦司からの返信は夕方過ぎだった。


「こんにちは。お久しぶりでしたね(汗)俺も楽しかったです。

伶さん相変わらず眼力美人でドキッとするね(汗)

串焼き行きたいね〜。休み明け相談しましょう。」


嬉しい内容の返信だ。

伶は少しほっとした気持ちになった。


(少しは敦司さんに自分を印象づけることが出来たのかな。)


「眼力圧かけすぎですか笑?大丈夫ですかね笑。ワタシ、単純なので、褒められるの嬉しいです。」


こんな会話で終わった。


まだまだ敦司の事はつかみ取れない。

敦司がどんな人間なのか、伶にはまだ分からなかった。

ただ、何故かものすごく気を使ってしまう自分がいる。

他のお客様に使うものとは違う何か。

近づいたと思って浮き足立つと、ふっと背を向けてしまうような感覚。


でも、これは指令。

担当のお客様を掴むチャンスがきたんだから。

と伶は敦司とまずは食事=同伴をする!という目標を決めた。


敦司は熟女好き。

伶は四十代前半。敦司と歳も近い。敦司の好きな部類にはいる。

今は敦司と仲良くなるために力を注ぐ事を決めた。





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それでも…… 夢女 @mtmt1021

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