第1話 朝練



 四月の桜の花びらが舞い散る季節。

 ある日、中央心木学園に通う小学生ぼく達は、異世界へと転移した。

 

 始まりの季節に、何者かの思惑で突然異界の地へ放り出された僕達は、同じ学校に通っていた生徒達と合流。

 終わりが迫る異世界で、何とか生き抜かなければならない事になった。


 しかし幸運な事に、僕達を保護してくれた女性……セルスティーさんは良い人だった。

 聡明で、博識で、良識のある人物。

 それだけでなく一定の地位と権力(のようなもの)も持っていた。


 だから彼女の庇護を受けた僕達の未来はそこそこ明るかった。

 そのまま、親鳥の羽の下で自分達の事を考えるだけだったなら、まだ楽だっただろう。きっと、危ない事態にそう直面することなく、平和に生活できたはず。


 けれど、僕達のリーダーである少女……結締姫乃、姫ちゃんは違ったようだ。


 自分にできる事を探すために、セルスティーさんと共に安全な町から旅立った。(僕や他の者達もそんな姫ちゃんに同行することになった)


 その後、紆余曲折あって世界の東端に転移したり、暗殺組織や憑魔(その世界のおっかない化け物)と戦う事になったりしたが、何とかやってこれていた。


 それもこれも頼もしい主人公のおかげだ。


 姫ちゃんは、いつでも優しくしっかりみんなを導いてくれる。だから僕達は、異世界にいても安心して過ごせるんだと思う。


 ついこの間まで普通の小学生だった姫ちゃんの成長ぶりには目を見張るものがあった。


 状況が落ち着いたら何か、できる事をしてあげたいとは思うけれど……。


 まだまだ僕達の前にはトラブルの気配が絶えなかった。







 シュナイデル城 客室


「ふわぁー」


 僕達の今の拠点は、東領という領地にあるお城の中。

 お客様用に用意された一室だ。


 その部屋には、仲間でありリーダーである姫ちゃんと、そしてツンデレ枠の少女……方城未利ほうじょうみり、天然マスコットの少女……希歳きとせなあが過ごしている。


 男女の比率が激しく一方に偏っているけど、このパーティーメンバーは全員、そういう事には頓着しない性格だったらしい。


 ずいぶん前から部屋を分けたらって言ってるんだけど、今だに僕も彼女達と同じ部屋で寝泊まりしている。


 大人になったら、色々もめるんだろうなぁ、なんて思いながらもベッドを整えて希少。


 窓のカーテンをあけて、朝日をあびた。


 先日の襲撃で、城はボロボロになってしまったけれど、僕達の客室が無事だったのは幸いだ。


 城に努めている兵士達も、離れたところに立っている兵舎が無事だったので、寝泊まりする場所には困っていないようだ。


 軽く伸びをしながら、今日一日やるべき事を頭に思い浮かべる。


 僕達がこなさなければならない課題はたくさん。


 個人の戦力アップに、エンジェ・レイ遺跡の解析、氷裏やアスウェルやアイナなどの危険人物への対処策の検討、漆黒の刃や聖堂教の調査。


 のんびりできる要素がまるで思い浮かばなかった。


 元の世界に帰還できるめどは立ちそうだけど、終止刻の解決には問題発生が見込まれていて、僕個人の問題の解決も見通しが立っていない。


 冷静に考えたら頭痛がしてきそうな案件ばかりだ。


 そんな風に窓の外を眺めながら、考え事をしていると声が聞こえてきた。


「う……ん、あ……。起きてたんだ」


 この声は姫ちゃんだ。

 振り返ると、ベッドの上でのびをしている姫ちゃんと目が合った。


 ちょっと照れ臭そうにしながら、挨拶してくる。


「おはよう、啓区。今日も色々頑張らないとね」


 僕はそれにいつも通りの笑顔で答えた。


「おはー。だよねー。そろそろ未利やなあちゃんも起こして、朝練といきますかー」



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