土曜日

ついに…今日は恭ちゃんと約束をした土曜日。

午前中は部活があるらしく、午後から行く約束をしている。眼鏡を買いに行くだけだから、そんなに気合いを入れるのも変だよね。

と、朝から何を着ていくかずっと悩んでいる。可愛いと思って買ったけど着る勇気のなかったレースのワンピース、普段着のTシャツにボーイフレンドのデニムのコーデを壁にかけて睨みつけるように2つを見比べる。

悩み抜いた末に、無難なTシャツとデニムにした。

…可愛らしいワンピースを着る勇気が私にはなかった

Tシャツにデニムパンツ、髪の毛はストレートにヘアアイロンをした。小坂くんから貰った眼鏡をかけて、前髪を下ろしたて準備は終わった。


「お邪魔します」

玄関の扉が開く音が聞こえ、恭ちゃんの声がした。私は急いで2階の自分の部屋から玄関まで恭ちゃんを迎えに駆け足で行った。

『恭ちゃん、部活お疲れさま!』

「あぁ…悪い遅くなった」

よく見ると恭ちゃんの髪の毛が濡れていて、家に帰ってシャワーを浴びて急いで来てくれたのが想像ついた。

『髪の毛乾かさないと!』

私は恭ちゃんの腕を引っ張ってリビングのソファに座らせ、急いでドライヤーを恭ちゃんに差し出した。

…あ、あれ?

恭ちゃんは持ってきたドライヤーを見ているだけで、受け取ってくれない。差し出したドライヤーをどうしようかと困っていると

「めんどくせー、乾かして」

『えっ?』

「若葉が乾かして」

『あっ…了解です!』

…びっくりした

驚きすぎて、始め恭ちゃんが何を言ったのか理解できなかった。私が髪の毛を乾かして貰うことはたくさんあったけど、恭ちゃんの髪の毛を私が乾かすのは初めてだ。というか、人の髪の毛を乾かすこと自体が初めて。

緊張してきた…下手くそだったらどうしよう

手にドライヤーを持って固まっていると、恭ちゃんが堪えきれなかったのか肩を震わせて笑い出した。

「ハハッ…髪乾かすだけだろ」

『ゔ、そうなんだけど…人の髪の毛乾かしたことないから…』

きっと困惑した顔をしているんだろうなと自分でも分かる。そんな私を見て、恭ちゃんが更に笑っている。笑われて恥ずかしい反面、珍しく笑い転げている恭ちゃんを見れて嬉しいと思ってしまい、自然と顔に熱が集まる。

「下手くそでも気にしねぇから乾かして」

『う、うん!』

…聞いてください、恭ちゃんが可愛いんです。

いつもクールでかっこよくて頼りがいのある恭ちゃんが、髪の毛を乾かしてと子どもっぽく甘えているんです。きゅんとしすぎて胸に突き刺さるような痛みが襲いかかる。

赤くなっている顔を見られないように、ドライヤーに電源を入れて恭ちゃんの髪の毛を乾かし始めた。綺麗な黒色の髪の毛は、痛んでいなくさらさらで柔らかい。そして恭ちゃんのいい匂いが漂ってきて…と変態のようなことを考えてしまうのを、頭を振ってそんな考えを振り払った。

無心に髪の毛を乾し続け、乾いた頃には顔の火照りも治まっていた。


『じゃあ、行こう!』

「…ちょっと待て、その格好で行くつもりか?」

『え、うん。…変…かな?』

「…ハァ、部屋行くぞ。」

『えっ、恭ちゃん!?』

溜息をついた恭ちゃんに私の腕を引かれ、私の部屋に連れて行かれた。恭ちゃんはクローゼットの中を見て、服を色々を物色している。いつも見られているから特にクローゼットを見られることに抵抗はないけど、何を渡されるのだろうと落ち着かない。

そして、あろうことか、恭ちゃんはクローゼットから、最初に悩んでいた勇気がなくて着れなかったワンピースを渡してきた。

『これ…着る勇気がなくて…』

「いいから、着替えろ」

『…はい』

有無を言わさない恭ちゃんの雰囲気に、私は恐る恐るワンピースに着替えた。

全身鏡に映るワンピースを着た私はとてもじゃないけど似合っていない。可愛らしいレースのワンピースが、地味な顔の私とミスマッチにもほどがある。

…こんな可愛いいワンピースなんて着れないよ

「若葉、こっち来い」

『恭ちゃん…やっぱりワンピース似合ってな

「いいから来いって」

 …はい』

恭ちゃんの側に行くと椅子に座らさせられた。伊達眼鏡は取られてしまい、髪の毛も慣れた手つきでアレンジをし始めた。やってもらっているので何も反論できなくて、ただ動かないように大人しく椅子に座って終わるのを待った。

顔を隠していた長い前髪は綺麗に編み込まれ、眼鏡もないので顔が丸見えの状態になっている。

『恭ちゃん…前髪が…』

「変じゃないから大丈夫だ」

『…嘘だ』

「ほんと。…だけど、俺と出る時以外するなよ」

『恥ずかしすぎてできないよ!』

恭ちゃんは変じゃないって言ってくれたけど、鏡を直視できない。こんな格好絶対に似合ってない、もし学校の人とかに会ってしまったら笑者になってしまう。

そんなことを考え鏡の前で悶えていると、恭ちゃんが近づいてきた。

「ほら、行くぞ」

優しく微笑んだ恭ちゃんは、私に手を差し出している。

…幼い頃はよくこうやって、手を差し出してくれていた。小さい頃も鈍臭かった私の隣にいつもいてくれて一緒に歩いてくれてたんだ。

それが、いつの日か恭ちゃんが一歩前を歩いていた。手を差し出されることはなくなり、腕を掴まれ引っ張られるようになった。

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