叶わない
恭ちゃんは綺麗に焼けた餃子を分けてくれて、ぐちゃぐちゃになってしまった餃子も2人で食べた。見た目はあまりよろしくない餃子だけど、恭ちゃんと食べたからとても美味しく感じた。
…私のせいでお姉ちゃんと喧嘩したのかな。恭ちゃんは優しいから私を放っとけなかったんだよね。
分かっている
大丈夫、勘違いなんてしないから
幼馴染として心配してくれてありがとう
もう少し、待ってね。いつかお姉ちゃんとお幸せにって笑顔で言えるまで…
「若葉、怪我見せろ」
『お願いします』
恭ちゃんから離れられない私を少しの間だけ許して下さい。
「腫れてるな」
『で、でもそんなに痛くはッイタ!!』
「…痛いんじゃねーかよ」
『お、押さなくても…』
恭ちゃんは腫れているところを容赦無く人差し指で押してきた。軽く押されただけなのに想像以上に痛くて目に涙が溜まる。そんな私を見て、恭ちゃんは意地悪そうに微笑み “悪かった悪かった” と私の頭をポンポンと撫でた。恭ちゃんはまるで壊れ物を扱うように優しい手つきで、湿布と取れないようにテーピングをしてくれた。
「この眼鏡」
小坂くんから貰った伊達眼鏡。恭ちゃんは私についているそれを取ると、ジッと何か考えこむように見ている。
『あの
「前から小坂と仲よかったか?」
言葉を遮られた。恭ちゃんは眼鏡を睨みつけており、小坂くんのことが気になるみたいだ。
…昔、クラスのリーダー的存在の男の子に虐められたことがあるから気にしてくれているんだと思う。
『怪我の手当てしてくれたの。こ、小坂くん優しくて…私の顔見てもからかわないし、私と関わったからクラスでヒソヒソ話されているのに隣の席に来てくれたの。だからいい人!』
私は頭が悪いかから、小坂くんの優しさを上手く伝えられない。自分でも何言ってるんだと思いながら、小坂くんのことを話した。
「顔見られたのかよ…チッ」
『えっ?』
小さな声で聞き取れなかったけど、舌打ちは聞こえた。不機嫌になってしまった恭ちゃんに何を話せばいいか分からず、何か言おうとして言葉が出てこなくて口をパクパクさせるだけになる。そんな私を見て、恭ちゃんは深い溜息を吐いた。
呆れさせてしまった…
恭ちゃんやお姉ちゃんだけではなく、小坂くんにまで迷惑をかける私に呆れたのかな。嫌なことを考えてしまって自然と視線が下がった。恭ちゃんの呆れた顔を見るのが怖くて、顔を上げれない。
「ハァ…土曜日、眼鏡買いに行くか」
『……えっ?』
「眼鏡、買いに行くぞ」
私は驚いて、下げていた顔をバッと上げた。恭ちゃんは相変わらず不機嫌そうだった。
買い物一緒に行きたくないのに無理に誘ってくれているのかなと思って、私が返事に困り黙ってしまう。
すると、恭ちゃんは小坂くんに貰った眼鏡を乱暴に机に置いた。その音に、肩がビクリと飛び跳ねる。
「それとも、これが気に入ったのか」
恭ちゃんは射抜くような冷たい目で私を見ている。初めて見る冷たい表情に私は戸惑い、囚われたように目を離すことができない。何か話さないといけないのに何を言っても怒らせてしまいそうで言葉が出でこない。
『き、恭ちゃ…ん?』
やっと絞りだした声は自信なさげに震えていた。
「まさか小坂に惚れたのか」
…ほ、惚れた?私が小坂くんに?
どうしてそうなるんだろう。小坂くんは友達だ、何でそんなこと言うの。
私が好きなのは…恭ちゃんだよ。
そう言いたくても伝えられない、伝えてはいけない。伝えてしまったら、もう二度と幼馴染には戻れないから。
『恭ちゃんから貰った眼鏡が壊れて…私が不安になっていたら小坂くんがこれをくれたの。小坂くんは大切な友達だよ』
話していたら涙が出て来そうになった。でも、ここで泣いて恭ちゃんを困らせたくないから何とか拳を握り締めて耐える。
そんなこと恭ちゃんにはお見通しだったみたいで、“強く言いすぎた、悪かった” と謝ってくれたけど、苛立ちは収まらないみたいだった。むしゃくしゃした気持ちをぶつけるように、乱暴に髪の毛を掻き乱した。
「土曜日、迎えに来るから」
『うん…』
恭ちゃんはそれだけ言い、自分の家に帰って行った。恭ちゃんがいなくなったリビングはとても静かで寂しく感じた。食べ終わった皿を洗って、自分の部屋に駆け込んだ。自分の部屋はリビングよりも狭いから寂しさも少しは紛れた。
土曜日…か
1人になって考えてしまうことは、やはり恭ちゃんのこと。
一緒にご飯を食べてくれて嬉しかった。怪我の手当ても丁寧にしてくれて、壊れた眼鏡を一緒に買いに行ってくれる約束までしてくれた。
恭ちゃんは優しすぎるよ
諦めないといけないのに、諦めれない。恭ちゃんから離れないといけないのに、どんどん離れられなくなっていく。
ねぇ、恭ちゃん
私が小坂くんに惚れたって言ったら、恭ちゃんは応援をするの?
私に好きな人ができたら、もうお世話をしなくていいから楽になる?
考えれば考えるほど、自分が惨めだ。
恭ちゃんはお姉ちゃんが好きで、お姉ちゃんも恭ちゃんが好き。私に入る余地なんてないのに何を期待しているんだろう。
…もう一層のこと、私に優しくしないで
好きでいるのは苦しいから嫌いになりたい
ねぇ、恭ちゃん…
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