第84話 勇者、魔王国で生きて行く



「宝具がこのままロラント王国にあれば、また感情が凝り固まって七つの悪徳が生まれる……なんて事にならないか?」

「それは大丈夫だろう。宝具から生まれた存在であり、宝具そのものでもあるインヴィディアが、カーライルによって消滅させられた……その時点で宝具は破壊されているか、使い物にならなくなっているはずだ」


 イヴィディアと宝具は繋がっていたため、消滅した事で宝具も無効化された……という事か。


「それだと、ロラント王国はこれから大変だろうな」

「そうだな。とは言え、人間は知恵を働かせて何かを生み出そうとする面白い種族だ。しばらくの混乱は避けられないだろうが、何か新しい事を始めるだろう」

「それもそうだな……」


 これから先、宝具がないために勇者をはじめとする職が生まれることは無い。

 その代わり、人間は別の事を見つけて歩んで行くだろう。

 ロラント王国やこの魔王国以外でも、人間が国を作って統治しているのだし、混乱はあってもなんとでもなるものだろうな。


「奴が俺に対して、イレギュラーと呼んでいたのは?」

「それに関しては、我もわからんな。ただ……」

「ただ?」

「本来は万能勇者という職を授けられる……という事が無いのではないか……とな。勇者の力を持ちながら、全ての職の力をもつかえる……人間一人が抱えるには大きすぎる」

「それは確かに、な……」


 万能勇者の力……人間に授けられる職、全ての力が使える勇者。

 身体強化と勇者の力でインヴィディアを消滅させたように、組み合わせる事で協力過ぎる力を発揮する事ができる。

 だが、俺が全ての力を使いこなせていないように、人間がこれを使いこなせる事は無いのかもしれない。

 そう考えると、本来万能勇者が人間に授けられる事は間違いで、あり得ない事……と考えられる。

 イレギュラー……か……宝具にも間違いはあるのかもな。


 宝具と繋がっているインヴィディアも、同じように身体強化ができたのかもしれないが、ルインの体が弱っていたからな、剣気を使うのが一番やりやすかったんだろう。

 それとも、もしかすると……勇者にこだわるルインの体だからこそ、ほとんど魔法を使う事をしなかったのかもしれない。

 もし、同じように全力で様々な力を使っていたら、この魔王城は消えて無くなるくらいの戦い、だったかもしれないな。


「あー! カーライルさん、ここにいた!」

「カーライルと裸のオジサン……ちょっと絵にはならないわね……」

「お金の匂いもしないなのよ」


 アルベーリとの話しを終えたあたりで、フランがいつものように騒ぎながら窓から入って来る。

 いい加減、窓から入って来るのを止めて欲しいんだが……リィムやマイアまで一緒になって……。


「……なんだ、何か用か?」

「仕事ですよ、仕事! どうやら北西の国境付近で、魔物が大量発生しているみたいです!」

「今度は、また私も付いて行くわよ。修行にもなるだろうしね……先日の戦いでは役に立たなかったし……」

「マイア、あの戦いは普通の人間じゃ付いていけないなのよ。気にしないなのよ。でも、私も付いて行くなのよ。カーライルといると、お金の匂いがするなのよ!」

「妾も行くのじゃ。面白そうじゃからな」

「北西か……あの魔物だな。報告は聞いているぞ」

「はぁ……また変に喋ったり、悲鳴を上げたりする魔物だったりしないだろうな?」

「何でその事を!? 遠くの事がわかるんですか、カーライルさん!」

「いや……今までの事を考えて、適当に言っただけなんだが……」


 嫉妬のインヴィディアはもういない。

 宝具が無い限り、もう具現化はしないだろう。

 だが、アルベーリは七つの悪徳と言った。

 つまり他にも六つの悪徳があるという事だ。

 それらがどんな存在で、具現化する可能性があるのかはわからないが、魔王国にいる限り、関わる事は早々ないだろう……。

 応急で塞がれた穴から、冷たい風が吹き込んでくるのを感じつつ、平和な騒ぎが起こっている部屋の中を見ていた……。


「へっくし!」


 ちょっと、吹き込んでくる風が冷たいな……そんな中でブーメランパンツ1枚だけのアルベーリはよく平気だな……。

 と、思ったら、鳥肌が立ち、小刻みに震えていた。

 ……寒かったのなら無理をせず、服を着ればいいのに。

 アルベーリのこの癖と、フランのネジが外れた行動は、七つの悪徳よりも手に負えないな。

 ……こういう奴らと付き合って、気楽に生きて行くのも、良い事なのかもしれない。



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勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~ 龍央 @crim122

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