第83話 勇者、七つの悪徳を知る



 数日後、ようやく城内の全てを片付ける事ができた。

 まだ傷跡が残っていたりするところもある。

 ……俺が開けた大穴は、応急処置で塞がれた程度だが。


「アルベーリ、七つの悪徳の事なんだが……?」

「ふむ、説明は必要か」

「そうだな、特に今回戦った嫉妬の……インヴィディアとか言ったか……あいつに関してはな」


 とりあえずで、適当な鉄板や石を積んで塞がれた穴を見つつ、アルベーリと話す。

 一応は執務室の体裁を整えられた部屋には今、俺とアルベーリしかいない。

 フランを始め、リィムとマイアはドラゴンに執心だからな……フランとリィムは良いんだが、マイアがどうも金の事を考えてそうで、少し怖いな。

 ……下手な事をして、ドラゴンを怒らせなければ良いんだが。


「嫉妬……つまり他人の事を羨み、妬む感情だな。今回はロラント王国の宝具が原因だったようだが……」

「感情に関しては理解できるさ。誰にだって他人を羨んだりする事はあるだろ?」

「まぁ、そうだな……。しかし、万能勇者として何でもできるカーライルも、誰かを羨む事があるのか?」

「まぁ、な……」


 嫉妬……誰にだってある感情だ……それを無くす事はできないのだろう。

 俺にだって、その感情を抱いた経験くらいある。

 もし勇者にならずに、もっと自由な生き方ができたら……とかな。

 勇者になって、いろんな場所でちやほやされたりはしたが、常に誰かに見られているようで、自分の好きな事をできない。

 魔王国に来て、頼まれ事……というより仕事か……はするが、結構自由に動かさせてもらっているからな、今ではそんな感情はほとんどない。


「ロラント王国の宝具が原因というのは?」


 アルベーリからの問いには曖昧に答え、原因となっていた事を聞く。


「人間に職というものを与えるからだろうな」

「職を……?」

「魔族は生まれ持った能力だけで生きている。才能がなくとも努力で何とかする者もいる。だが、人間……特にロラント王国の人間達は、宝具より授かる職というものに頼り過ぎているのだ」

「言われてみれば……そうかもな」


 今まで、あまり意識した事は無かった。

 ロラント王国に生まれた者として、儀式で職を授かるのは当然の事だったからだ。

 全ての人間が授かるわけじゃないが、それによって生きる方向性が決まる事が多いのは、確かだろう。


「授けられる職の選定基準まで我にはわからん。……誰かが自分が欲しかった職になる。思い通りの職にを授かることができなかった……。こういった感情は、必ず生まれていたはずだ」

「そうだな……」


 俺が儀式をした時、勇者になれた事と、その後のあれこれで他人を気にする暇は無かったが、記憶にある中では、思い通りの職が授けられず、悔しそうにしていた奴もいたのを覚えている。


「宝具はそもそもが、そういった感情を糧にしているのだ。人間、魔族、全てを含めた人の感情をな。そして長い年月の間、繰り返し行われる儀式の中で、嫉妬の感情だけが解消されず、奥に沈殿するように溜まって行ったのだろう」

「そうか……それで溜まりに溜まった嫉妬によって、インヴィディアが具現化したんだな。しかし、何故それがルインに? しかも、勇者の力を持っていたようだ」

「宝具から発生した事だから、だろうな。宝具ができる事ならインヴィディアにもできる。つまり、あのルインとやらに、欲しがっていた勇者の力を授ける事によって、内側に入り込んだんだろうな」


 ルインからはっきりと言われた事はないが、あいつも勇者の力を欲して嫉妬していた人間って事か。

 それを利用され、勇者の力を得る代わりにインヴィディアにとりつかれたのだろう。

 内側に嫉妬の塊である存在が入り込もうとする……入った事で精神的にも狂って行ったのかもな……出会った頃のルインは、先日戦った時のような言動がおかしい人物では無かった。

 狂わされたのか、自分で狂って行ったのかは、わからないが……。



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