第82話 勇者、奥の手を使う



「それは……跳ね返す君か!」

「真・魔境ですよ、アルベーリ様!」


 呼び方は何でも良いんだがな……その跳ね返す君だか真・魔境だかに跳ね返された魔法は、インヴィディアを直撃。

 ルインの体は、確実にボロボロになって行っている。

 ……さっきは俺の魔法で腕も焼いたからな……入れ替わった時多少治ってたように見えたが、それでもこのダメージは小さくないだろう。


「くっ……そんな物まで用意していたとは……まさか、私が具現化する事を勘づいて……」

「いや、ただ単に偶然作ってしまったから、持ってただけなんだけどな?」


 戦慄しているインヴィディアには悪いが、前もって備えてた……なんて事は一切ない。


「魔法が効かないのであれば……これしかなかろう! はぁぁぁぁぁぁっ!」

「ちょ、お前!」


 自棄になったのかなんなのか、インヴィディアは剣を持ち力を溜めて、周囲へ無差別に剣気を飛ばし始めた。

 何かを狙って、というわけではないから、今の所誰かに直撃をして……とはなっていないが、もし俺以外に当たったらこの威力……ひとたまりもないだろう。


「くそっ……アルベーリ、皆を集めろ!」

「……動けない者に対して、結構な物言いだな……。仕方がない……こんな時に動かなくて何が筋肉か! ふぬぁぁぁ!」


 アルベーリがよくわからない事を叫びながら、見る影もなくボロボロにされて行く執務室内を。瞬時に移動。

 動けないリィムとマイア、その様子を見ていたフラン……ついでにドラゴンも連れて、俺の後ろへ移動させる。


「シールド! フルチャージ!」


 段々と狙いが定まって来ている凄まじい威力の剣気を、俺の前に展開させたシールドで受け止める。

 身体強化が使われて、さらに増幅されたシールドは、連続して打ち付けられる剣気を受け止め、激しい音を鳴らしていた。


「ふぅ。これなら大丈夫だろう」

「……いや、部屋が大丈夫ではないのだが……?」

「……まぁ、後で修理してくれ」


 剣気は未だ打ち続けられている。

 無尽蔵に飛び回るそれは、俺達以外の部屋にある物、全てを無残に切り刻む。

 ……アルベーリが悲しそうにしているが、もう以前の執務室の見る影もないな……。


「どうだっ! どうだっ! どうだぁぁぁっ!」

「……うるさいな」


 叫びながら、延々と剣気を吐き出し続けるルイン……もといインヴィディア。

 さすがにそろそろうるさくて、嫌になって来た。

 さっさと終わらせる事にしよう。


「どうするのだ?」

「剣気には剣気で、だな。こうするんだ……ぬぅん……」


 シールドの後ろ、安全地帯で剣を持って腰を落とし、力を溜める。

 身体強化まで使ってるから……。


「ちょっと見晴らしがよくなるが……すまんなアルベーリ」

「な、ちょっちょっと待ってく……」

「はぁぁぁぁぁっ!」


 身体強化を加え、力を込めて剣を袈裟斬りの動きで全力の一振り。

 後ろでアルベーリが何か言っていた気がするが、それは無視だ。


「どうだ! どうだ! どうぬわぁぁぁぁぁぁ!」


 気持ち良く剣気を飛び散らせていたインヴィディアは、自分の放っていた剣気をかき消しながら、飛来する巨大な一閃剣気に飲み込まれ、叫び声を上げながら、ルインの体と一緒に消滅して行った。


「……ちょっと、威力が強すぎたかな」

「ちょっとどころではないだろう! 何なのだあれは!?」

「何って……身体強化も含めた、一閃剣気だが?」


 普通の剣気とは違って、全ての物を切り裂いて、ただひたすら直線に進む剣気の事を、俺は一閃剣気と呼んでいた。

 まぁ、今まで身体強化をほとんど使って来なかったし、何かに対して使ったのは初めてなんだけどな。

 俺が剣気を放った先は、斬るどころか、空間ごと削り取られたようになっていた。

 城の壁も突き破ったなぁ……外が見える、景色が良いなぁ……。


「とはいえ、さすがにここまでする必要は無かったか?」

「……はぁ、相手が七つの悪徳であるのならば仕方なかろう。奴らは、体の一部が欠損したくらいでは、すぐに再生させると聞いた事がある」

「完全に消滅させるのが一番って事か?」

「そうだ。……そうなんだが……これはさすがになぁ……」


 インヴィディア相手に手加減をしていたら、すぐに再生するらしい。

 落ち込んだ様子を見せるアルベーリを見ながら、一閃剣気はやり過ぎたと思った考えを消した。

 アルベーリには悪いが、これくらいでちょうど良かったと思う事にしよう。


「う……終わったの?」

「……静かになったなのよ」

「あぁ、終わったぞ。ルインもいなくなった」


 俺の事を偽勇者と呼んだ事はどうでも良いが、自分の事を勇者だと言い張っていたルイン。

 インヴィディアに支配されていたからなのか、どこか狂っているようにも感じた。

 もう、行いを悔いる事もなかっただろうから、苦しまずに消滅させるくらいで良かったのかもしれないな。


「勇者……七つの悪徳……か。世界には色々なものがあるんだな……」


 そう呟きながら、消し飛んだ壁から見える外を見て、俺は感傷に浸った。


「おい、何を終わった事のような顔をしているんだ。片付けを手伝え!」

「アルベーリさんがやった事ですからね! ちゃんと片付けないと!」

「瓦礫がいっぱいなのじゃ」

「熱で溶けてる? いえ、違うわね……どういった事があれば、こんな事ができるのか……」

「カーライルのやる事なのよ。理解するのは不可能なのよ」


 全てが終わった事のように思えていたが、まだ終わってなかったらしい。

 アルベーリとフランの叫びに呼び戻され、仕方なく俺は、自分とルインがしでかした事の後片付けを始める事にした。

 ……これだけ色々散らばって片付けが面倒になるなら、別の方法で倒した方が良かったかもしれないなぁ……。



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