第81話 勇者、嫉妬の悪徳と邂逅する
「嫉妬の具現者だと……? 七つの悪徳……か」
「何だそれは、初めて聞いたぞ?」
何か思い当たる事があるのか、未だに動けないアルベーリが呟いたのに気づき、そちらへ近付く。
「全ての感情ある生き物により生まれる、罪へと導く欲望や感情の事だ。それらが一つの場所に集まる事で、おぞましい怪物が生まれる……と聞いた事がある。実際に見たのは初めてだがな」
アルベーリの説明を聞く間、ルインの形をした者はこちらを睥睨するように見ている。
「高慢、物欲、嫉妬、怒り、色欲、貪食、怠惰……これら七つの悪徳は、人の強い感情を集めて具現化するらしいのだ。……こいつは嫉妬と言ったな……嫉妬……インヴィディアか」
「そう、私は勇者への羨望、切望、そして嫉妬を具現化した者、インヴィディアだ。人間の儀式宝具を媒介に、この世界に具現化したのだ」
「儀式宝具……あれか」
ロラント王国にある、儀式に使う宝具。
あれによって、王国の人間は職を授かる。
俺も万能勇者という職は、その宝具からもらったものだ。
「悪徳……か。人を罪へと導く者という事なら、放っておいちゃいけないよな?」
「それは……そうだが……」
「たかがイレギュラー如きが、何ができるというのだ?」
「さぁな。けど、お前をこのままにしてはいけないという事はわかる」
ルインの体を使っているインヴィディアは、先程から背筋に嫌な汗が流れるくらいの気配を周囲にまき散らしている。
アルベーリの説明にあった通りなら、あまり良い者じゃ無い事は確かだ。
……このままにしてはおけないだろう。
「ふん、すこし分をわきまえぬ力を授かったとて、私に敵うとでも思ったのか? 痴れ者が!」
「くっ!」
「ほう、今のを消すか……」
ルインの体で、ルインの使っていた剣を振り、ルインよりも強力な剣気を放つインヴィディア。
さすがにこちらも手加減している余裕は無く、全力で剣気を放って相殺する。
「ならば……もっと私を楽しませてみろ!」
「……それはごめん被る。ボディストレンクサン」
ルインの体で、狂気に取り付かれた表情をしながら叫ぶインヴィディア。
それに対し軽く呟き、俺は今まで、どんな戦いでも使って来なかった魔法を発動させる。
「身体強化魔法だと!?」
「これを使った後は、疲れるから使いたくは無かったんだが……仕方ないな」
身体強化魔法……魔法で無理矢理体を強化し、通常ではあり得ない力を発揮する魔法。
確か……現在この魔法を使える人間はいなかったんだったっけか? まぁ、使った後、体が軋んで痛みが残る後遺症があるから 使えない方が良いのかもな……俺も使いたくは無かったんだが……。
「こざかしい……その程度の魔法で……はぁっ!」
「ふっ!」
「くそ……はっ! ふっ! ……これでどうだ!」
「は、ふ、とや」
忌々しそうに呟いたインヴィディアが、再び剣気を放つ。
それを、事も無げに振った剣でかき消した俺。
その様子に業を煮やしたインヴィディアは、さらに力を込めて剣気を連続で放って来た。
……身体強化を使った以上、この程度は剣気で対応するまでも無い。
片手で持った剣を事も無げに振るうだけで、襲い掛かる剣気は全てかき消されて行く……。
「ぬぅ……ならば魔法はどうだ! 魔法が使えるのは貴様だけでは無いのだぞ! ブリザードランス!」
「……さすがに魔法は厄介だなぁ……と言ってもこれがあるか」
「何だと!? ぐおぁぁぁ!」
ルインは魔法が使えなかったはずだが、今は嫉妬の悪徳とかいう、インヴィディアが支配しているからだろう。
無数の氷の槍を作りだし、それらを全て俺に向かって放った。
剣気と違って、これをかき消したりするのは無理だ。
とは言え、俺には以前、偶然だが作ってしまった盾がある。
左手に持っていたバックミラーの残骸で作った盾……それを迫りくる氷の槍に向かって突き出すだけで、全てインヴィディアに向かって跳ね返って行った。
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