もしも二人が幼馴染だったら

 高校生になって初めての夏休み、幼馴染の凪桜なおが突然私の家に泊まりたいと言い出した。

 小学生の頃はお互いの家によく泊まりに行ったものだけれど、中学生になると部活やら勉強やらに追われてそれどころではないみたいな状況が、続いていた。

 なので凪桜の口から久しぶりに泊まりたいと聞いた時は、正直驚いたけれど、幸い高校生になってからお互い部活にも入っていなく、テスト前以外は無理に勉強をする必要はないので、即座にオッケーと返事をすることができた。

 その時の凪桜は、心底嬉しそうに喜んでいた。私はそんな凪桜に「そこまで喜ぶ?」なんてツッコミを入れたりもしたけれど、内心では私も喜んでいた。

 ただ心配な点が一つある。

 それは凪桜が成長しているという点だ。

 何を当たり前のことを言っているのかと思われるかもしれないけれど、これは私にとっては重要なこと。だって私が知っている夜の凪桜は(いやらしい意味ではなく)小学生までの凪桜だ。

 そんな成長した凪桜と一緒に、一緒の部屋で一夜を過ごす。

 こんなことが私にできるのだろうか。

 否、できるできないじゃない。

 やるしかないのだ。


 そして当日、凪桜は昼頃、家に来た。

「こんにちはー」

 玄関で出迎えた私と母に挨拶を終わると、慣れた様子で家に上がる。

 泊まりはなくともよく遊びには来るので、今のところ変な感じではない。

 靴を揃えて、一日分の着替えが入った袋を手に持ち私の部屋がある二階へと足を進める。

 部屋につくやいなや凪桜は、私が普段寝ているベッドに勢いよくダイブした。

「私今日このベッドで寝るね」

 なんでなんで、なんで私がいつも寝てるのわかってるのにベッドのなの! ダイブするぐらいは許すけど、寝るのはダメ!

「凪桜には布団用意しといたからそっちで、寝てよ」

 なんとか反抗の意を示すけれど、凪桜はそんなこと気にしていないみたいだ。

「なーに。雪火ゆかもしかしてベッドのどっかに恥ずかしい物でも隠してんの?」

「ないない。そんなものないよ!」

 流石にあれが見つかったら恥ずかしくて、羞恥死してしまう。そんな言葉があるのかは知らないけれど。

「慌てて否定するところが怪しいですな〜。ここかな? それともここかな?」

 それから数十分凪桜は、私のベッドを隅々まで捜索した。

 結果は見つからなかったので、セーフとする。まぁベッドを中心に探している間は見つからないと思うので一安心。

「ね。何にもなかったでしょ? だからさ布団で寝ようよ」

 これで諦めてくれるだろうと思っていたのだけれど、普段はそこまで頑固ではないのだけれど、今日の凪桜は何故だか頑固だった。

「嫌だね。私はこのベッドで寝る。もう決めたの! だからその──」

 照れた様子で、ゴニョゴニョと何かを言ったので、聞き返す。

「何?」

「だから! 私と同じベッドで寝よって言ったの!」

 合点がいった。普段頑固じゃない凪桜が頑固になった理由が。

 そりゃ昔はよく同じベッドで寝たりしたけれど、今はもう高校生、体も大きくなり二人で入ればぎゅうぎゅうだろう。

 隣同士で、体くっつけて寝るなんて恥ずかしいどころの騒ぎではないし、なによりそんなぎゅうぎゅうになったら絶対に仰向けになってしまう。

 そしたら凪桜が確実にあれを見つけてしまう。

 私が頭を抱えて悩んでいると、凪桜はベッドの上から言ってきた。

 上目遣いだった。

「ダメ?」

 可愛すぎた。

 凪桜が可愛すぎた。

 今すぐにでも写真に納めたい。

 それでその写真を壁紙にしたい。

 そんなことが脳内を駆け回り、私はため息を吐く。

「はぁー。いいよ、一緒に寝よ」

 まぁあれは、間を縫って別の場所に隠せばいいもんね。

「ホント? やったー!」

 喜んでる姿を見れたので、よしとする。


 それから数時間、隠す場所を変える時間なんて私には訪れなかった。

 それだけならまだしも、寝る時間にはまだまだ早い時間なのに、何故かベッドで寝ながら話そうということになってしまった。

「何あれ?」

 ベッドに仰向けになった凪桜の第一声は、それだった。

 天井に貼られた一冊のノート。

 私は慌てて言い訳を探す。

「あ、あれなんだろ〜妹が貼っちゃったのかな〜」

「雪火妹なんていないじゃん」

 やってしまったここに来て痛恨のミス、人生の失敗の中でトップ十には入るかもしれないぐらいのミスだ。

「やっぱりあったんじゃん。恥ずかしいやつ。それじゃあ失礼してと」

 凪桜は背伸びをしてノートを手に取った。

 こうなってはもう止められない。なので、私はもう諦めて覚悟を決めた。

 なんか今日私諦めてばっかりな気がする。

 凪桜は手に取ったノートのテープを綺麗に剥がして、ノートを開いた。

 そこには私が自分で、描いた百合の恋愛漫画が描かれている。それも主人公は私自身だ。

「何? 主人公、雪火と同じ名前じゃん」

 なんて凪桜も最初はどうやってバカにしようとか考えていたのだろう、少し半笑いでページをめくっていたのだけれど、ページをめくるにつれて表情は、笑から照へと変化していった。

 すると凪桜は、照れた表情をノートからこちらに向き直し、ノートを指差す。

「なんでヒロインの名前が、私の名前なの? なんでヒロインの外見とかまんま私なの? ていうかこのキャラ私だよね?」

 私は首を縦に振ることしかできなかった。

「そのとおり⋯⋯です」

「そのとおりじゃないよ! ちょっとは訂正して、私のほうが恥ずかしいじゃん」

 凪桜の表情は、かぁーっと赤く染め上げられていく。

「それにこの漫画結構ガチで、二人とも恋愛してるし、なんなの、なんで雪火も私と同じような妄想してるの!」

「え?」

「あ⋯⋯」

 その瞬間二人の間では時が止まった。

 そして再び動き出す時、凪桜の訂正が入った。

「ち、違う違う。妄想っていうのはその、漫画にしたりとかではなくてでですね。ただ脳内でわたし雪火が付き合ったらどうなるのかなって、軽く考えたりしただけです。はい」

 言い訳を聞いて、覚悟を決めていた私までも、顔が熱くなる。

 ここでなんと返しをすればいいのかわからない私は、恥ずかしさを寝て忘れればいいのでは、と思いつき提案する。

「も、もう寝よっか」

「そ、そうしよう。そうしよう」

 そして一つのベッドに女子高生二人が、ぎゅうぎゅうづめになりながら入った。

 その数分後、凪桜が言ったのだった。

「付き合う?」

 いつのまにか冷静になりつつあった私は、軽く返事をするのだった。

「うん。そうしよっか」

 数秒の沈黙の後

「これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 という会話がなされ、お互いに眠りについた。

 

 次の日、凪桜は、昼頃に私の家を出た。

「じゃあまた明日ね」

「うん。また明日」

 こうして、凪桜が私の彼女になって一日目のお泊まり会は幕を下ろしたのだった。

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雪火と凪桜のもしも tada @MOKU0529

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