第18話 神の使い

腰からほどいた二本のおびを使って、彼の太股と膝を止血した。


従者等は為すすべも無く、言われるままにするしかなかった。


村長も傍で、柄を持ちながら震えている。


美久はしゃがみ込み、刀先を親指と人差し指で摘まんだ。


刃は日の光を反射しオレンジ色となり、柄も赤糸が目立って輝いた。まるで美久の意志に従って、太陽の光が、その千代と呼ばれる刀に染み込んでいくように見える。


「さあ、早く切れ……」


と、その言葉を合図に、美久はその足に刃先を近づけた。


ふくらはぎに海蛇の歯の跡があり、その二点間を繋ぐようにサッと切り込みを入れた。


「うっ」


賢龍は毒による熱さと刀による痛みが加わったのか、極まって声を発した。


プシュッと、血が勢い吹き出してきた。


その切り口に美久は唇を当てて毒の混じった血を吸い込み、砂浜に吐き出した。


「これも剣術、お任せください。千代はすばらい刀……。持ち主を助けようと、わたしに身を任せています」


右の太股、その奥へと血が滴り落ちてゆく。噛まれた場所から、腫れて変色した血管をたどっては、刀で切り込みを入れ吸い出した。


「毒は、大きな血の道には流れ込んで行かなかったようです」


と、彼に声を掛けた。


「そうか……」


賢龍は冷や汗をかきながら頷いた。


美久は、ふと自分の下唇が痛み出したのを感じた。絡み合った時の転倒で小さな傷がついていたのである。


しかし、毒を吸い出す作業を繰り返し続けた。


砂浜に赤色が足され染み込んでいくようだ。


左手の掌で浜を叩いた。賢龍に襲いかかる死を、み嫌い抗議するものに見える。


『命が去っていくのを止める儀式』


神人の儀式の一つだった。


「おおーっ 見事じゃ」


村長は感極まったような声を発した。


美久は賢龍の膝から刀を遠ざけ、静かに唇を離した。そしてそのまま賢龍の足の上に倒れ込んだ。徐々に意識が遠のいて行くのを抑えきれない。


騒ぎを聞きつけた村人たちが集まってきているようだ。


「美久!」


(あぁー、お母さん)


「どうしたのじゃ。何が」


(ノロ様……)

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