第12話 命の源

若武士は頭を振った。


「本島はそんなに良いところではない。私は、逆にこの島に希望を見い出しに来たのだ」


美久は、身体を彼に向けて訴えるように、


「小さい島にいると息苦しくて。本を読めば読むほどもっと外の世界を見てみたいという欲求に駆られます。貴方様は、恵まれているからそんな風にしか思えないのよ。それに神人かみんちゅになると、島から出られないので、今なら……」


と、言った。


「はっはっ……」


若武士の笑顔は、その場では初めてだった。


「女の身で、外を見たいとは面白い」


美久は無言のままだ。


「中山は、琉球全土に休戦を約束している。それで今は平静さが戻っている……。そうだな、外へ出るには、今が一番いいかもしれないな」


美久は胸の前で腕を組み、すーっと大きく息を吸い込んだ。


村長は二人の間に割り入ってきた。


「美久、この方に島を御案内しなさい。くれぐれも粗相のないようにな」


「承知しました」


と軽く頷いた。

 

若武士は白馬に勢いよくまたがり、手を伸ばしてきた。

 

美久は、素早く反応した。


「このような狭い島で馬を使うのは、どうでしょうか」


「馬の気持ちが分かるそなたと一緒に乗ってみたいのだ」  


「……」


自分の右手が自然に、その言葉に合わせていた。すぐに勢いよく引き上げられ後ろへと。どうしてそうなったのか、不思議だった。


しばらくして振り向くと、警備の武士等は馬を使わず、村長も駆け足で追従していた。


若武士の身体は前のめりになった。美久がクバの樹木の前で馬を止めたからだ。右手で強く馬の腹部を押しただけで、馬はその意味を理解したのだ。


目前の森は、神秘的な雰囲気を漂わせていた。奥はうっそうと茂っていた。木々や大きなクバの葉で覆われて水分を含み、『生命の源』の様相を呈している。


「ここからは入ってはいけない聖地です。人の生命を意味する精霊の集まる場所、母となる女だけが、許される場所なのです」


「ならば、ここに……」


若武士は馬上から木々の奥に目を奪われている。 馬を降り、強引に足を踏み入れようとした。


我を失い、そこに引きずり込まれて行くように見えた。

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