第11話 北の者

美久は、彼が言わんとしている事柄に察しがついた。

 

右手を握り締めて、


「あなた達、私の父を殺した北の者。決して許さない。悪いと思うのなら、生き返らせて。父を返して……」

 

と怒りの目を向けた。


すると、彼は地面を指差し、


「戦さだぞ! この島さえも巻き込まれていたのだ」


と睨み返してきた。


美久は物怖じせずに続けた。


「この島の男たちを何人殺したのよ。その刀で何人切り刻んだのよ!」


彼から目を離さずに問い詰めた。


「これ、美久! 口を慎みなさい!」


と、村長は大声を発した。


若武士は、


「私の親族、そして多く友人も、この世を去っていった…… すべて戦のせいだ。北を守る為に……それが戦だ。中山が憎い。お前らも、そこの民であろう。わたしは、お前の父、お前さえも憎むことができるぞ」


「えっ」


涙で潤んできた彼の目を見るとこれ以上、責めることはできなくなった。


沈黙がその場を覆った。


激しく打ち始めた鼓動が、美久の体を揺らしていた。


急に、その張り詰めた緊張した雰囲気を、粉々にするかのように、鳥たちが飛び立っていった。


皆、それに視線を奪われ東の空へと、

 

若武士は問い尋ねてきた。


「ところで、お前はここで何をしている?」

 

美久は一歩近寄り、


「この家の奥に、小さな部屋があります。本島から取り寄せられた書物を、そこで整理しています」


「漢文が読めるのか?」


「ええ、村長から漢語を習いました。今日も、本島から船が来るということで、朝からここで仕事をしていました」


「そうか。漢語が読める娘がこんな小さな島にいたとはな」


彼の両目を見つめて、


「私は、この島から外に出たことがありません。本の中の世界しか知りません。島からあの鳥たちのように飛び出して、自分の目で大きな町を見てみたいのです」

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