第10話 異国の武器

村長は、対岸に見える本島の山々に目をやりながら返答した。


「島の多くの男達は、中山の兵士として戦い、死して戻されました。無事かどうかも分からない者もおります……」


美久には、その理由が分かっていた。久高島の若者は日頃、漁業を営み体が鍛えられていたため、すぐに兵士として徴用されたのである。漁師は集団で船を出し沖の網を扱うので、リーダーの意見に従わないとうまくいかない。それは軍隊の構造と似ている。また農民と違って、荒っぽい気性は最前の兵として有効であるとして、中山は利用したのだと。


若者は嫌なことを思い出す表情で、


「中山の先王、武帝ぶていを打ち負かした巳志はし。あいつらの兵の扱い方は乱暴だ。更には、異国の武器をも使う」


「……」  


一人小柄な若武士は、場を取りなすように切り出した。


「私達の事は内密で」


「もっ、もちろんです。礼はそれなりに、よろしくお願いしますよ。さあ、こちらへ……」  


若武士等、三人は馬を引きながら村長に導かれ、村落へと向かった。


彼らの目前には平穏な島の風景が広がっていた。平坦な地面が広がり、太めの木々が所々群れ、その中に屋敷が隠されている。左手奥に高地、それを覆うように原生林が密生していた。


そんな島の雰囲気は、戦場を駆け抜けたはずの馬のいななき声が地面を響き渡ると、一気に吹き飛んでしまった。


一行は村の大屋敷に導かれた。貴重な木材を多用したこの島で一番豪華な家だ。

 

若武士は、その屋敷側の大木に、白馬を結びつけようとしたが馬は落ち着かず、手に負えないようだった。


その嘶きを聞いた美久は、馬に寄り添った。


「波に揺られ、とても疲れているわ。まだ足元がふらついている……」  


と、白馬の首筋に優しく触れ、胸元を軽く叩くように撫でた。額をしばらく抑えると、目を細めて息遣いが静かになった。


若武士は目の前の出来事が信じられないという口調で、


「そなたは、いったい誰に馬の扱い方を習ったのか?」


「父です……剣術も、私の体に染みついています。父は中山の騎兵として二年前、戦死しました。北との戦いでと、聞いています」  


若武士は深く息を吸い、目を伏した。


「我々は……休戦中だが、それは気の毒だ」

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