第9話 若武士

水平線から上った太陽が真上にくると、その光は海面をすり抜け、海底を照らしだす。


島にいるほとんどの人が、南の海岸沿いに集まっていた。唯一、底が人力で掘られ、港になっているところだ。


巨大な船が、宙に浮いているように見えた。黒と白を基調とし、帆の色は黄色に染められ、停泊した船先には目玉のような印がある。この港とは釣り合いが取れないほど大きい。

 

美久には、初めて目にしたものだ。


(こんなにも大きな船に、誰が乗っているの?)


港から遠く、珊瑚礁を避けるようにいかりが下され、帆が閉じられた。


島では普段は小さな漁船か、浅い浜辺でも利用できる帆を立てたサバニを利用していた。そのため、港と名が付いていても海底を深く掘った湾ではなかった。


鼻息荒い大きな白馬に乗り、長刀を左腰に差した騎士を先頭に、後方に三騎が続いて浅瀬に上陸した。狭い空間に閉じ込められていた馬たちは、今にも駆け出さん勢いだ。彼らは、必死にそれを鎮めている。


黒色の着物を羽織った明らかに身分の高そうな若者を中心に、武士の姿をした取り巻きが三人。白馬に乗った若者だけは武士特有の髪型をせず、後ろへと伸ばしてまとめている。まるで無法者の海賊の棟梁に見える。だが身のこなしに品格さが感じられ、鼻は高く容姿端麗な顔立ちをしている。


島の村長が村人等の前に立ち、彼らを出迎えた。


「これは、白馬とは珍しい」


そう告げた村長に、リーダー格の一人が紙のようなものを手渡していた。


恐らく、彼らの遡上が書かれているのだろうと、美久は思った。


村長はそれを一読したあと、その馬の白い肌が本物であることを確認するか如く、首筋辺りを手で触れては指先で擦った。実は削り落とせるもので、本来の馬に白の漆か何かを塗っているのではと、疑っているのだ。


若者の口元が緩んだ。


「明国から買い入れた。これも交易のなす所以だ。様々な生き物が手に入るぞ」


「しかし何故、あなた様がこの島に?」


ニライ根元カナイに一番近いとされるこの島を一目、見たかった……朝日を伴い、金色の光の中にある姿を見たとき、身震いしたぞ」


村長は、再び頭を下げた。


若者は、ゆっくりと馬を降りた。


その動作に若者特有の覇気が無いのを、美久は感じ取った。周りの静けさに同化していたのだ。


彼に続いて、他の騎士らも同じ行動を取った。


「……我ら三人だけ上陸させてくれ、残りは船に置いておく」


「承知いたしました」


「それにしても静かな島だ。船や我らを好奇で見に来る青年らが少ない……」

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