第8話 心の解放、子守歌
美久は、カマドから目を離さなかった。こころに触れたままだ。
「嫌だ〜。若い女に対する年寄りのひがみよ……。最悪だよね。男からのあの『やりたい、値踏みの視線』なんて、何十年も前から、投げられたこと無いわよ。きっと……」
それを聞いたヌルは、
「止めんか! 聞きたくない」
〈パンッ〉
と、両手を打ち鳴らした。
それでも、美久は強気だ。
「あぁ、恐い。島の男たちが皆奪われそうなので、嫉妬してるのよ。襲ってきそうよ。わたしがあなたを守るわ。安心して……どう、私と愛し合ってみる?」
美久は、カマドの耳元でそう呟き、ふざけた目付きを向けた。
カマドの口元には、微かに笑みが零れた。
「イヤ、それはよしとく」
「そうなんだ、残念」
美久は、カマドから毒による体の痛みと、心の苦しみから解放されたような、緊張が抜けていくのを感じていた。
カマドは、美久の瞳の中で何を見たのだろうか。そこに写った自分の汚れきった顔を見たのかもしれない。その意識は美久の目を通して世界、そして世界の果てへと引っ張られていくようだ。
美久は、その顔を布で綺麗に拭き取った。
「うっ、あぁ、ううぅ」
カマドは何か憑きものが離れたかのよう、少女のように激しく泣き崩れた。
美久は、ゆっくりと彼女の縄を解いていった。
周りの家長、親族は全く動かない。
カマドは美久の前で体を丸めた。
「うげーっ。お母さん、助けて、お母さん」
咳を続け、多量の血を含む物を嘔吐した。
美久の着物は黒く染まってた。カマドの背中を優しくさすり続けると、お互いの体は微妙に揺れ始めた。 美久の口先が僅かに動いた。周りの人がわからない言葉だが、母なる神が憑依したような
「おぉ、ここで、それか。見事だ。われの怒りを対比にして利用したのか」
左横にいたヌルはそう言うと、自然と両手を合わせていた。
カマドは幸せそうな表情を浮かべては、美久の腕の中で静かになった。
美久は、背中に誰かが手を当てているのを感じた。左横にいたヌルだろうか、その手に、不思議とかなりの熱を感じた。その熱に覆われ、飲み込まれていくように眩暈を感じた。
自分からカマドへと許しを伝えるかのようだった。
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