第6話 美久の力
美久は、奥の部屋に移動した。
風呂敷に包んだ荷物を広げ、母親と共に身支度を急いだ。
内側に赤、外は白の
手渡された朱色の箱を、手の平で押し返した。
母は、小首を傾けて、
「えっ、神人の道具でしょ?」
と、訊ねた。
美久は即答した。
「いらない。そんなもの」
母は美久の両手を握りしめ、ゆっくりと心に話しかけるように、
「ヌル様は、同じことを二度したのよ。それでも上手くいかないので、貴方に期待しているの」
「わかってる」
美久は頷いた。
* * *
音を立てずに、すーっとヌルの傍に座した。
その美久をヌルは横目で見るや、カマドを視線で示した。
「
ヌルの表情は渋い。
屋敷の中心をなす重苦しい居間で、皆は壁を背に座していた。
吐き気を催す匂いが充満する中、美久は表情一つ変えず、柱に縛られたカマドの前に座った。
カマドからの視線は美久の目、深淵を探し続けてくる。黙然と口は
ズバッと激しい気が、美久に投げかけられた。
唯一、美久の傍にいたヌルにそれが伝わったのかその時、軽く身震いしていた。
美久は、ここで使う気持ちを整えた。
(あぁ、カマド姉さん。何度も浜辺で一緒に遊んでもらった。ありがとう……。今度は、わたしが何か、頑張らないと……)
やがてカマドの目から僅かな瞬きが発せられ、美久は言葉を返した。
「わたしは、美久です。カマド姉さん、わかりますか。あなたの力になります。どうか私の話を聞いてください」
吐血で汚れた服の上から、右肩を躊躇もせずに触れた。するとビクッと両目が大きく見開いた。
「ほっといて。わたしは、死にたいの」
目をそらさず頷いた。
カマドは続けた。
「あの人には、別の女がいる……。今度帰ってくる時には、その子どもを連れて来ると言っていた……。きっと女も一緒よ。私はどうなるの! その女、呪い殺してやる。二人とも、地獄に落としてやる。歯で骨を噛み砕いて、ぐちゃぐちゃにするわ。その散らばった肉を鳥に食ってもらうのよ」
ヌルが突然、「気が狂っておる」と、吐き出すようにそう返答した。
しばらく沈黙がその場を支配した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます