第337話
突然出現した彼らから遠ざかる方へ走った俺とガスランは、集落のすぐ外に身を隠した。そして木の陰から彼らの姿・様子を窺うと同時に、集落に入ってきた一人一人についてしっかりと、鑑定などのスキルを駆使して確認していった。
揃って灰色のローブを纏っている魔族三人の内訳は女性一人に男が二人。振る舞いを見て、この紅一点の女性が明らかに一行の指揮官なのだろうと思った。魔族は全員がヒューマンに見せかけるための変装をしていて、それは王都アルウェンで捕らえた魔族と同じ手段によるもののようだ。おそらくは特殊な染料で肌の色や髪の色を変えている。瞳の色は女性だけは赤いままで、そのことが以前ドニテルベシュクに引き渡したレイティアを思い起こさせる。
ヒューマン六人は男性ばかりだ。全員が冒険者のような軽装備に剣や短剣などを帯びているが、その六人の統一感のある装備になんとなく軍人っぽさを感じる。
そして薄いベージュ色の簡素な服装のエルフの二人は子どもだ。
俺達が保護したホムンクルスとそっくりな顔立ち。しかし見た目で言えば10歳程度の男の子で、あの男の子よりも身体は大きい。最初に見た印象で二人をクローン人間のように思ってしまったが、よくよく見比べてみると顔つきや表情に若干の違いがあることが判る。生を受けた経緯は人為的なのかもしれないが、異なる人格、個性は有るのだろうと俺はそんなことを思った。
しばらく様子を見ていると、魔族三人は一軒の家に入った。
少し遅れて残りの者達も、馬の世話を始めているヒューマンの二人を残し、男の子二人もヒューマンの男達に促されながらやはり一軒の家の中に入った。
俺はガスランに目配せをして、
「馬の傍に居る奴らに近付いてみよう」
と、そう囁いて木の間を移動し始める。
集落の周囲の木々に隠れながら進み、厩で馬の世話を続けているヒューマン二人の声が聞き取れそうな距離まで近付いて俺は耳を澄ませた。
「……にしても、相変わらず何をやってるのかさっぱり分からないよな」
「考えても仕方ないさ。俺達は命令に従って子ども達を見張るだけだ」
「そうなんだけど、あの子ども達はどこから連れてきたんだ?」
「しっ、声が大きい。詮索するような話をあの女に聞かれたら面倒だ。一人逃げたことを知った時の怒り方は普通じゃなかっただろ。変に刺激しない方がいい」
ここまで聞いて、俺はガスランの方を振り返った。
頷いているガスランに、やっぱりここだったんだという意味を込めて俺も頷きを返した。
その後は、ヒューマン二人の会話の内容に特に気になるようなことは無く、ただ彼らはどうやら全員が徹夜明けのような状態で、家の中に入った者達はすぐに寝てしまっているだろうということと、二人は馬の世話が終われば見張りに付くのだということが分かってくる。
そんな二人が集落の入り口に最も近い家の壁にもたれかかるように座り込んだことを確認した俺とガスランは、一旦集落から距離を取り森の中で腰を下ろした。
水筒の水を飲みながらガスランが言う。
「シュン、あのエルフ達も実際はホムンクルス? 少し年上みたいだったけど」
俺も子らを見た瞬間からそのことをずっと悩み続けている。
「だろうと思うんだけど…。正直、確信はない。さっきも言った通りエルフにしか見えないんだよ。ドニテルベシュク並みの偽装なのか、実際にエルフなのか…。近くで時間かけてもっとじっくり見れるといいんだけどな」
馬に乗った彼らが突然現れた所から先は、俺の探査で感知できない程の巧妙な隠蔽と結界が施されているのだろうと推測している。詳しく調べたいと俺は思っているのだが、そこに何が有るか何かが待ち構えているのか。当然ながら皆目見当もつかない。
そういう訳で、そこの調査はせめて闇に紛れるべく夜を待つことにして、俺達は一旦エリーゼ達が待つ廃坑へと戻り始めた。
◇◇◇
見覚えのある馴染みが深い探査の反応には気が付いていた。
森の中を走りながら、後ろに続いているガスランに聞こえるように声を上げた。
「ステラが、廃坑に近付いて来てる」
「さすが。予定通り」
「だな。てかステラ一人じゃないけど」
「メイド軍団?」
「そう。ロフキュールに居た人。ステラと二人で来てる」
エリーゼ達が居る廃坑にはステラ達の方が先に到着して、俺とガスランが帰り着いた時には女子四人はすっかり寛ぎモードになっていた。
「変わりは無いよ」
と、エリーゼが開口一番に俺にそう言う。
エリーゼがホムンクルスの男の子のことを言っているのは分かっているが、俺も直接男の子の状態を確認する。
ニーナがステラ達にここまでの道中でのことを説明しているので、その話を遮ることはせずに微笑み頷き合うことで再会の挨拶とした俺達も、ステラの隣に座った。
ステラ達は、大陸東の沿岸部を南下してここまでやって来た。ニーナからの話に続いて、公爵軍の東部侵攻をその目で見てきたステラ達が戦乱の情勢を話してくれた。
そして、その話にも一応のキリが付くと、その後は俺達の目の前でまだ横になったままでいるホムンクルスの話へと話題は移って行く。
鑑定などで精査してみた結果と、この男の子が居たと思われる集落に行ってみたこと。他にも同じような子が居ると思われること。更には、隠蔽され探査が阻害されている領域がある話と共に、夜になったらそこの調査に行くつもりだと俺が言うと、ステラは席を立った。
「明るいうちに、私もそこ見てみるよ」
「あー、そうだな。ステラの目で見ておいてもらおうか」
と、俺はそう言って地図を取り出した。
廃坑の外に出て、俺が地図で示した方向を向いたステラは超遠隔視を行使した。
肉眼の視線も、やはりその方向に向けたままのステラが言う。
「家があるね。その少し南…」
「集落から林道を南に約200メートル。その辺が境界になっていると思う」
コクリと小さく一度だけ頷いたステラは目を閉じた。超遠隔視スキルに集中している様子。
そして、しばらくするとそのまま眉をひそめた。
「隠蔽と幻影だよね、これって…」
「そうだな。基本は動的隠蔽だと思う。中の揺らぎを一切感じさせない類」
再び目を開いたステラは、それでもまだ視線は動かさずに言葉を続けた。
「ハッキリとはまだ見えないけど、境界からそのまま道なりに100メートル進んだ所に、何か在る気がする。岩と言うか土を盛ったようなものかな。高さ10メートルぐらいの。そう、小さなドームみたいな感じ」
隠蔽と阻害の結界は、その小ドームを中心に張られているとステラは言う。
「夜の偵察に私も付いて行くよと言いたいとこだけど、でもシュンは私にやらせたいことがあるんでしょ?」
ステラはスキルの行使を止めて俺の方に顔を向けている。
俺はその問いかける視線に真っ直ぐ、肯定を意味する視線を返した。
「さっき言った通り、あの子のMPを全回復させてみたいと思ってる」
ステラは軽い溜息を吐いた。
「ふぅ…。ドレインの反転てことだよね。以前言われた後、実は試してみたんだよ。でも…」
「難しそうか?」
「難しい。どう制御すべきなのか見当が付かない。そもそも、これまで私はドレイン自体、滅多に使ってこなかったからね」
ステラと初めて会った頃、自身の真祖という生い立ちに忌避感があり、ドラキュラみたいな行為は嫌なんだと言っていたことを俺は思い出す。
試しに…。と俺は話し始める。
「試しに、俺にドレイン掛けてみてくれないか。対抗できるだろうとは思うから、最悪なことにはならないと思うし」
「うーん…。シュンなら抵抗できるんだろうとは思うけど…。でもね、自分で言うのもなんだけど私のドレインって、かなりえげつなくて規格外だよ。リュールの記憶によると真祖の究極のドレインは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます