第263話
ダンジョンフロントのギルドの出張所。
会議室に入った俺は、凄い勢いで飛びついて来たシャーリーさんを受け止める。
「シュン! 会いたかったぞ!」
「元気でしたか? シャーリーさん」
シャーリーさんは少し涙ぐんでいる。
ウィルさんがガスランと拳を合わせて挨拶。
セイシェリスさんとエリーゼ、ニーナが抱き締め合う。
クリスとティリアも代わる代わるエリーゼ達を抱き締めて、そして俺とガスランを見てニコニコ微笑む。
そんな再会を喜ぶ挨拶とレヴァンテの紹介が終わるとフレイヤさんが皆に座るよう促し、収納からケーキを取り出して皆の前へ並べ始めた。タイミングを合わせたようにギルドの職員が入って来てお茶を配ってくれる。
セイシェリスさんは改めて俺達を見て言う。
「なんだか、アルヴィースは皆逞しくなった気がするね」
「もう大変だったのよ。いろいろ」
ニーナが笑いながらそう応じる。
「セイシェリスさん。話したいことはたくさんありますし、聞きたいことも多いでしょうが、今日はこれが最優先です」
俺はそう言うと第10層のマップを出してテーブルに広げた。
そして俺は、ゲートの仕組みなどについて説明をする。
「ふむ、大体分かったわ。やっぱり一度その10層ゲートまで自力で行く必要があるのね」
「そういうことですね」
「以前行ったのは、その分岐の割と近くだと思う」
と、セイシェリスさんは自分のマップを取り出して広げた。
マップはいろんなメモも記されている物で、ゲートがある広場へ向かう長い下り斜面の通路はそれには載っていないが、確かにその通路へ繋がる分岐の辺りまでは踏破したような印が付いている。
シャーリーさんがそのマップを見ながら言う。
「そこまで行ったのは、10層攻略の最後の日だった。武器の傷みが激しくて潮時だなと話して引き上げたんだ」
「そうだったね」
これはティリア。
セイシェリスさんはそんなティリア達を見て頷いた。
「今回はそんな事が無いようにスピードと効率重視で進むことにするわ。武器の予備も物資も今回は大量に持ってるしね」
「10層に降りたら、このルートで進めば割と楽だと思います」
俺はそう言って、セイシェリスさんに渡す為に用意していた同じマップをもう一枚取り出して説明を始めた。
◇◇◇
バステフマークの五人は、フレイヤさんからの依頼でゲートの調査を行うギルド職員を連れて行くことになった。これは俺達にも同じことが依頼されて、俺達が連れて行くのはフレイヤさんとあと数名になるだろうとのこと。
すぐにダンジョンに入ると言うウィルさん達と10層での再会を約して、俺達は一旦街に戻る。フレイヤさんと一緒なのでギルドの馬車だ。
馬車に乗ってすぐにフレイヤさんが言う。
「レイスとそのフィールド階層は確かに気になるわね。レイスはまた出てくることは無いのかしら」
「絶対にとは言い切れませんが、おそらく大丈夫だと思います。扉が開いた後に生成された安全地帯は、どうやら特別製のようです。と言っても、まだ詳細には解析しきれてないんですけど」
エリーゼが俺の腕をちょんちょんと突いて言う。
「どうしてレイスはあの扉の前から動かなかったのかな?」
「理由は分からないけど、呪縛魔法の起点の近くでしか動けてなかったのは事実だな。あの魔法の起点は扉の所だった。呪縛魔法は光を吸収してしまっていたし、やっぱり光は苦手なんだと思うよ」
俺がエリーゼにそう答えると、呪縛魔法の近く…? とフェルが首を傾げる。
レヴァンテはそんなフェルを見て微笑んでから話し始める。
「シュンさんの今の話を捕捉するようなラピスティの推測ですが、ゲートがあった広場の入り口4か所に在った幻影を憶えていますか? あの幻影の光魔法はレイスの侵入を防ぐためのものではないかとラピスティが言っています。そしてレイスの呪縛魔法はそんな光の影響を防ぐ意味合いもあったのだろうと」
フェルがハッとした顔になってレヴァンテを見る。
「だったらもしかしてレイスには光をぶつければ良かったの?」
「光ならなんでもいいという訳ではないと思います。あの幻影は特殊なものでした」
なるほど、と俺は妙に納得している。
「ふむ…、その可能性はあるかも。確かにあの幻影は変だった。光量の割に使われてる魔力は多かったんだよ。そして意味不明な魔法式、というか魔法の部分が在った。人に何か害があるとかそういう類じゃなかったんだけどな」
死霊系の魔物の弱点はまずは光だ。そして火。但し上位の個体になるとその話には疑問符が付く物ではある。だが、光や火を嫌うのは確かなことらしい。上位個体は耐性は持っているけれど、ということなのだろう。
ぐっと身を乗り出して俺を見たフェルが言う。
「シュン、今度行った時に解析して」
フェルは真剣な表情だ。
「おう、多分じっくり調べれば分かると思う。光に関して
「うん。だよね。そして私に教えて」
と、俺がそう思いながらフェルに頷いて笑うとフレイヤさんとエリーゼも笑っていた。
その日はフェルも双頭龍の宿に泊まらせた。どうやら今回のダンジョンのこの騒ぎに関して騎士団も対応を始めたらしく、忙しくしているのだろうリズさんは家に帰っていなかった。
◇◇◇
翌日、朝からの訓練をこなした俺は、朝食を食べてからはフェルにレヴァンテを付けて訓練を続けさせる。フェルのステータスの上昇がとんでもないというのが改めてよく解った。
「午前中いっぱいぐらいは、それ続けろよ」
「解った!」
俺が指示したのは体幹を鍛える訓練の延長のようなもの。動き過ぎる身体をフェルが持て余していることを俺はレヴァンテに説明して、見ておいてくれと頼んだ。
「シュンさん本当にフェル…、を大切にされてるんですね」
レヴァンテは、優し気な微笑を浮かべると俺だけに聞こえる小声でそう言った。
フェルと呼び捨てることにはまだ抵抗がある様子なのが分かるが、随分と慣れてきたようだ。
「可愛い妹分だからな。それに、俺達は全員フェルの面倒を見ると決めた時からとことんやると決めてるんだ」
それからは、俺とエリーゼはベルディッシュさんの店に行って補充する物資の調達などなど。ガスランとニーナも街の商店を巡って買い出し。
午後になってベルディッシュさんの店に全員が集まる。
「最初にフェルの防具を調整するぞ」
そう言ったベルディッシュさんの言葉にフェルは満面の笑みを見せる。
注文していたフェルの防具が予備も含めて出来上がっていた。これは俺達のとほぼ同じ物。要所要所にアダマンタイトを使っているというとんでもなく貴重なもので、その意味では俺達の防具よりもいい物だと言える。
「ハッキリ言ってメチャクチャ高級品だぞ。前代未聞もいいとこだ」
フェルの防具に実現して欲しいその仕様を説明した時に、ベルディッシュさんは呆れ果てて俺にそう言った。
そして、俺達の武器や防具のメンテなども済ませてからギルドへ行く。昨日までのダンジョンでの成果の買取り依頼を済ませてから全員でギルドマスター室へ。
フレイヤさんは職員が持って来た成果物の一覧を見て言う。
「相変わらず大量だったみたいね。査定は時間かかりそうよ」
「はい、よろしくお願いします」
いつものことでもあるし、俺はそう答えた。
「先に更新の処理してしまうわね。フェルちゃんとレヴァンテはカードを出して」
もうフェルはニコニコと緩んでしまって締まりがない顔。
「ふふっ、レヴァンテはCランク。フェルちゃんはBランクよ。二人とも2ランクアップ。おめでとう」
やった! とフェルが声を上げた。
ミュミュー…
モルヴィがフェルに頬ずりをしながらゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶ。
そんなフェルとモルヴィに微笑みながらフレイヤさんは続ける。
「シュン君達が一緒だったという点を割り引いても、貴女達をDランクとかEランクに置いておくわけにはいかないわ。むしろ、もう一つずつぐらい上でもいいと私は思ってるの。この調子で頑張ってね。だけど安全最優先よ」
そして今回は、フレイヤさんからの提案でフェルとレヴァンテ二人ともアルヴィースへのパーティー登録をした。
これはフェルのような若過ぎるBランク冒険者が無所属のような形で居るよりもいいという話。実状としては準メンバーのような扱いだが、カードにアルヴィースという名前が刻まれている事にはとても大きな意味があるとフレイヤさんは言う。
「ちゃんと正式なメンバー扱いされるように、これからも頑張るよ」
フェルは表情を引き締めてそう言った。
「うん、アルヴィースにこだわる必要は無いけどな。自分のやりたいことや目標をしっかり考えて、まずは学校の勉強を頑張ってくれ」
そして翌日の10層行きの打ち合わせを始めていたら、ギルドにやってきたリズさんを含めた騎士数名がギルドマスター室に通される。
部屋に入ってきたリズさんはフェルの無事な姿を見て安堵の表情を見せた。ニーナが街に戻ったことはすぐに街の衛兵や騎士団に情報が伝わっているので、フェルも戻ってきていることは知っていたはずだが、やはり顔を見て安心したようだ。
「ちゃんとシュンさん達の言うこと聞いてた?」
「それはもう完璧!」
ミュー…
「ホントかな? あとで殿下に聞いておくぞ」
「リズ、それは大丈夫よ」
ニーナが笑いながらそう応じた。
リズさん達騎士団がギルドにやってきた理由は、もちろんダンジョンのことだ。
そして俺達がフレイヤさんを10層に連れて行く予定だと聞くと、リズさんは自分達も同行させてほしいと言ってきた。
「転移ゲートなんてこれまで例が無いことですし、騎士団としてもその状況を把握しておきたいと考えています」
「いざとなったら騎士団も10層に飛べるようにしておくのは必要な事ね」
ニーナは納得した顔でリズさんと騎士達にそう言った。
◇◇◇
リズさん達騎士団の準備も整い、揃って俺達はスウェーガルニ街区の門を出る。
もう日が暮れようとしているが、ダンジョンフロントの宿に向かう為だ。
二度の改修整備を経て小街道といってもいい程に綺麗になった街区からダンジョンフロントへの道は、馬車が速い速度で走ることが出来るようになっている。
馬車の中で俺はベルディッシュさんから筐体を受け取ってまだ手を付けていなかった爆弾の仕上げをすることにした。爆弾は当然ながら魔石を交換することがない使い捨ての魔道具なので、魔法の定着は直接筐体と魔石そのものに施していく。
興味深げにそんな様子を見てくるフレイヤさんに説明をしながら、俺はどんどん爆弾を仕上げていった。
「シュン君、爆弾は一体幾つ持ってるの?」
「あー、秘密です。と言いたいとこですけど、フレイヤさんなんで特別にぶっちゃけると、俺は500個ぐらい持っています。今仕上げてるのを合わせるともう少し多くなりますね」
「え? 500?」
「そうです」
ここでニーナが口を挟む。
「私も500個ぐらい持ってるわよ。帝都でシュンが魔道具作りに目覚めて、その勢いで爆弾もガンガンに作ってたから多いのよ」
「あの時はクリーン魔道具ばかり作ってて飽きたから、気分転換だったんだよ」
エリーゼが笑いながら突っ込む。
「気分転換にしては多かったけどね」
「……」
フレイヤさんは無言で首を振ってため息を吐いた。
翌早朝、宿をまだ暗いうちに出てダンジョンに入るいつものパターンで、俺達は再びスウェーダンジョン第1層へと降りた。
同行者はフレイヤさんとギルドの職員が二名。そして騎士団からはリズさん含めて五名。
第1層はフェルとガスランが無双してすぐに踏破。魔法はほとんど使わずに進んでいる。そして第2層も同じように進んで行く。
「体力が無さそうなギルドの職員も意外と付いて来れてるな」
「足手まといにはならないとフレイヤさん言ってたから、そういう人選したんじゃないかな」
魔物の回収をしながら俺とガスランはそんなことを話している。
第2層最奥の安全地帯で昼休憩。食事や休憩の時は任せて欲しいとリズさんから言われていたので、俺達は待っているだけ。
俺の所に食事を持って来てくれたリズさんが小さな声で言う。
「ダンジョンに入る前は戦闘も少しは手伝おうと思っていたんですけど、あんな続けざまの瞬殺ぶりを見てたらそんな気持ちは無くなりました。相変わらず、さすがアルヴィースですね。そしてフェルもレヴァンテも凄いです。私達が手出ししたら邪魔になるだけだということがよく解りました」
戦闘に関しては全てこちらが行うと事前に言っておいた。
リズさんが言う通りで、冒険者の戦い方に慣れていない騎士は邪魔になるからだ。
しかしそれにしても、フェルはこの前この浅い層で戦わせた時と比べても雲泥の差で、この短期間でとんでもなく成長していることがよく解る。
「そうですね。フェル強くなりましたよね」
「それ、シュンさんが言いますか。強くしてる張本人なくせに」
と、リズさんが笑った。
その日は第4層最奥の安全地帯まで進んでテントを設営。俺達にしては遅いペース。さすがに今回は同行者のことを考えてペースを落としている。
この安全地帯は、ダンジョンの入場が停止されている影響だろう。停止前から入っていて滞在している冒険者も居るが、前回通った時よりもかなり人数は少ない。
「ダンジョンの出現構成がまた大きく変わったのではないかという噂が流れてるみたいですね」
少しそんな冒険者達と話をしてきた俺がそう言うとフレイヤさんは眉を顰めた。
「全てではないけど情報公開はしてるのよ。入り口にあんな扉が出来ていたら隠しようがないでしょ。でもそうね。ダンジョンに居る冒険者には知る術はないわね」
そしてフレイヤさんは、冒険者達の方に向かって大きな声で話し始めた。
「冒険者の皆、ギルドのフレイヤよ…。ここに居る人だけでも聞いて頂戴。先行した調査チームから話を聞いた人も居るかもしれないけど、改めて今ダンジョンに起きていることを説明しておくわ」
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