第107話 聖剣

 雷撃散弾銃の改良点を考えていた俺は、エリーゼの視線を感じて現実に引き戻される。うん、宝箱そのものの鑑定は済んでいる。トラップの類はなさそうだよ。


「一応、少し離れて警戒態勢で」

 俺のその言葉でエリーゼが距離を取ったのに合わせて、ニーナとガスランも離れてから剣を構える。


 宝箱をゆっくり開ける。中には剣が一振りと魔導書。


「「……」」

 沈黙は俺とエリーゼ。ハッと息を呑む音はニーナから。ガスランは大きく目を見開いているだけで無反応。


「魔導書…」

 エリーゼが呟いたのに頷いて、鑑定した結果を言う。

「闇の魔導書だよ。呪いの類は無し…。このダンジョンでは2冊目だな」

 呪いなど余計なものは一切なし。本物の魔導書である。


 おおッ! とニーナが我慢しきれずに声を上げる。もう笑顔満開である。


 そして、剣。

 鑑定スキルを疑ったことは初期の頃を除いてないのだが、これはちょっと…。


「シュン、剣は? どういう剣なの?」

 ニーナはレアアイテムゲットが初めてだとさっき言ってた通り、興奮状態。そしてガスランも魔導書にはそうでもなかったのだが、この剣にはとても強い興味を持っているのが判る。

 ガスランがそうなるのは当然な気がする。何故ならそれは…。


「この剣の銘は、ガンドゥーリル。エルフの聖剣」

「なっ!」

「……?!」

「…聖剣。エルフの…」


 俺は剣を手に取って、まずはそのまま見つめる。さっきから何度も鑑定をし続けているのだ。見た目は極めて質素である。装飾の類はほとんど無いに等しい。

 ゆっくりと鞘から抜いた。

 俺は思わず声が出る。

「これは…。すごい」

「「「……」」」

 皆、声が出ない。俺も声が掠れている。

 その刃の美しさ、存在感はまさに圧倒的。


 鞘に戻して、皆に言う。

「ちょっとこれは、落ち着いて考えたいな。フレイヤさんに相談してみたいし」

「うん。その方がいいかもね。国宝級以上の業物な気がする」

 ニーナはそう言った。

 

「ガスラン、抜いてみて」

「え?」

 エリーゼに言われて、ガスランは戸惑いを見せる。興味はとても強いのだが、たった今見た剣の凄さに圧倒されてしまっていて、最早訳が分からないと言った感じになっているのだ。


「そうだな。ガスランが一番ふさわしいのは間違いないし」

 俺はそう言ってガスランに剣を渡す。


 ガスランはおずおずと剣を受け取って、深呼吸してから剣を抜いた。完全に抜いてしまった時、ガスランの女神の指輪が輝き始めた。

「ガスラン両手で持ってみて」

 俺がそう言うと、ガスランは鞘を足元に置いて輝き始めた指輪がある左手も剣の束に添えた。

 すると、指輪の輝きが剣全体を覆い始める。


 ああ、これが正解なんだ。ガスランの為の剣だったんだ。

 俺はそんなことを思っていた。


 覆われていた輝きが薄れると、剣は何事もなかったように元のままである。しかし、鑑定には違いがあった。

「エルフの聖剣ガンドゥーリル。魔を切り裂き打ち砕く剣、と鑑定には出てるよ」

 もう少し見えている情報もあるがここでは言わないでおく。


 俺はガスランに尋ねる。

「ガスラン、使い方は理解した?」

「うん。少し解った」


 この剣は斬撃を放つことが出来る。ガスランが手にしたことで変化して、俺の鑑定にも見えてきた情報にそれがある。


 ガスランにダンジョンの壁に向かって斬撃を撃たせてみると…。

 ズシュウンッッ!!

 簡単には傷が入ることが無いはずのダンジョンの壁に深い亀裂が走っている。

「凄い!」

「凄い凄い!!」

 エリーゼはニッコリ、そしてニーナは大喜び。


 そんな二人に俺は追加の情報を言う。

「それだけじゃない。ガンドゥーリルは魔法を斬ることができる」

「は?」

「えっ、今なんて?」


 俺はライトの魔法で光球を目の前に浮かべる。

「ニーナ。このライトを剣で斬ってみて」

「いや、無理に決まってるじゃない。子どもの頃から何度もやったことだし」

 と言いながらもニーナは真剣な顔で剣を抜いて斬りかかるが、剣は光球をスッと通り過ぎるだけで当然変化はない。

「じゃあ、ガスラン」

 ガスランがガンドゥーリルで斬ると、光球は砕けて一瞬で消えた。


「エリーゼ、ガスランに風を当ててみて。弱い奴でいいから。ガスランはそれを切り裂いてみて」

 ヒュッと吹く風がガスランに当たる寸前、ガスランが一刀両断。すると風は消失。

 ニーナがごくごく弱めと言ってガスランに向けて放った炎も、ガンドゥーリルは無効化した。


「どの程度まで、その魔法無効化が効くかは検証が必要だな。もし力比べみたいな感じだとすると、ガスランのステータス次第なのかもしれない」



 ずっとボス部屋で話し続けていて、そろそろ場所を変えようかと思い始めている。なんだかもう安全地帯に戻って横になりたい気分。皆も同じような感じ。


「じゃあ、ガンドゥーリルはガスランの剣ということで、魔導書の扱いを決めよう」

 俺がそう言うと、ガスランがえっという顔をして俺を見た。

「俺が、持ってていいの?」


「当たり前でしょ、さっきの光は剣に認められた証でしょ」

 ニーナが言ってることは少し違うんだが、否定はしないでおく。

 俺もエリーゼもニーナの言葉に頷いてニッコリ微笑んでいるので、ガスランはとても嬉しそうに、でも少しはにかんだ笑いを見せて言う。

「皆、ありがとう。大切にする」

「うん、早く使いこなして私をもっとびっくりさせてね」

 エリーゼはそう言って、ガスランの頭を撫でる。

 ニーナはガスランの耳元で、良かったねガスラン。と言って微笑んでいる。


「さて…。闇だから、扱いは難しいけど…。ニーナ、使って」

「え? シュン欲しかったんじゃないの」

「うん。欲しいって言うか、知りたいという知識欲なんだけどな。どっちにしても、光魔法師はあまり闇は使わない方がいいというのは事実らしいんだよね」

 女神が言ってたことなので、間違いはない。ただ使いすぎなければいいとも言ってたけど。まあ、ここはニーナに闇属性を持たせるのが正解な気がした。


 実は魔導書は初めてなのと言うニーナに、魔導書の使い方をエリーゼがレクチャーする。そう言えば、お金持ちの公爵家の姫君なんだしこれまで魔導書を買おうとしたことは無いのか少し疑問にも思うが、それは置いておく。


 以前エリーゼが使った時と同じように魔導書が光り始める。光の魔導書と違うのはその色合い。青、紫の鮮やかな光が迸る。ニーナがページを開くとその光がニーナを包み込んだ。グルグルと巡り輝くさまは色合いこそ違うがエリーゼの時と同じ。

 その時、俺の身体から光が走る。

 あ、またなのか…?

 俺からの光がニーナを包んでいる青と紫の光に重なるようにして絡み合い、俺とニーナを二人とも包み込んでしまう。

 ニーナは驚愕の表情。俺は心配ないと声をかける。


 ひとしきり白い光と青と紫の光の乱舞が続いて、それはゆっくり静まっていくようにして弱まり、やがて消えた。


 闇魔法Lv4


 いきなりレベル4なのか。これって多分だけど俺のステータスの知力のせいだな。


「闇魔法レベル2になってる。2からなんて魔導書だからなのかな」

「まあ、それも有るだろうけど、多分ニーナの知力の高さのせいだと思う」

「そっか…。ああ、闇魔法で出来ることが何となく解る…。

 て言うか、シュンさっきのは何? 一緒にグルグルなってたけど?」

「魔導書は稀に二人に作用する時があるらしい。最初の一人だけじゃなくて」

「え? という事は…」

「俺にも闇魔法が発現した」

「だけど光魔法師は…」

「まあ、光の方のレベルを越えなければいいんじゃないかな」


 驚いたのはそれだけじゃなくて、今回は魔導書は消えていない。どうにもこうにも理解できないことが多い。



 安全地帯に戻ってからは、食事を摂ってその後は思い思いに過ごす。ガスランは熱心に剣を振り続けている。振っている様を見た感じだけだが、ガスランには凄く合ってる剣だと思う。重さ、長さといいバランスといい、まるで誂えたかのように。

 ニーナは多分闇魔法について考えてるんだろう。何やら難しい顔をしてブツブツ独り言を言ってる感じ。


 長椅子に座ったエリーゼが俺に寄り添った状態で囁く。

「シュン、皆の戦力の底上げが出来そうだね」

「うん、いいことだよな」

「闇は、シュンはレベル幾つなの?」

「レベル4」

「何が出来そう?」

「重力魔法はいけそうな気がしてる。ニーナも使えたら、すごくいいと思う」

「皆でまた特訓しないとね」

「うん、忙しくなるぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る