第86話 Bランク

 ところで、ゴブリンがあれだけの集団を形成しているというのは、奴らには大きな拠点があることを意味している。

 そして、そこにはゴブリンが自分達の数を増やすための、規模の大きな苗床がある可能性が高い。それが無ければ、あそこまで数を増やすことは出来ない。

 最終的にはその拠点を潰すことを目的として、ギルドのヴィシャルテン支部が中心となってゴブリンの拠点を探す調査団が結成された。俺達がニーナの馬車でヴィシャルテンを発ったのと同じ日に、彼らはその調査に出発している。


 スウェーガルニから見ると、真東にヴィシャルテン、真北にドリスティアがある。ヴィシャルテンからドリスティアを直線で結んだその間は、標高はそれほどではないものの起伏の多い山々や森、川が障害となっていて街道は全く整備されておらず、当然ながら人が切り開いて住んでいる地域など皆無の文字通り未開の地と言える。

 今回のゴブリンは、ヴィシャルテンから北西の方角のこの未開の地から現れたと推測されている。調査団はゴブリンが侵攻してきた跡を逆に辿り、この方角へと進んでいるはずだ。



 俺達の事を言うと、ヴィシャルテンでゴブリン襲来を退けた時の戦いでレベルが上がった。それは俺とガスラン。もう俺はそれほどではないが、まだガスランはレベルアップ時のステータスの上昇に、すぐには感覚が馴染まない様子。もちろん本人が一番解っている。


 そういう訳で訓練である。

 もっとも、それが無くても久しぶりにみっちりやりたいという感じに全員がなっていた。それぞれが何かしらの必要性を感じているという事。

 なので明日は朝から走って剣を振って、とにかく身体を苛め抜く予定。


 と、そう思ってたら、夜になって宿に来客。

 もう気配というか、すぐに判ってたので逃げたかったんだけど、それなりに付き合いが出来てしまった間柄なので、無碍にもできない。

 そう、ニーナとその仲間たちである。


「評判通りのいい宿ね。シュン」

「あ、うん。俺達のホームだよ」

 一階の食堂でニーナの相手をしているのは俺。姫の護衛二人とエリーゼとガスランの、合計四人は別のテーブルでイリヤさん特製のパイを頂いている。それにしても、護衛二人からガスランはモテモテな感じ。ちょっと羨ましい。


 ニーナはただ俺達とお茶したかっただけと言っていたが、しばらく雑談のような会話をして夜のお茶会が終わったところで、彼女がここに来た真意が解る。

 じゃあ、と言って俺達が席を立つとニーナ達はイリヤさんの元へ。何だろうと思っているとイリヤさんが言う。

「はい、ニーナさん。鍵です。案内しますね」

「え?」


 ニーナ達は今日からこの宿に泊まるんだと。

 エリーゼとガスランはニーナの護衛二人から聞いていたようで、びっくりしたのは俺だけ。

 俺はニーナへ小声で言う。

「姫様が、庶民の宿に泊まって問題ないの?」

「冒険者だもの。安い雑魚寝の所に泊まったこともあるから問題なしよ」

 あ、そうですか…。


(シュン、気にしたら負けよ)

 俺の耳元でそう囁いたエリーゼは、もう開き直ってる感じ。



 翌朝は、夜の共同作業の効果ばっちりで、俺もエリーゼもスッキリ爽やか。

 そして三人でストレッチに始まりランニング、筋トレ、剣の素振りなどの訓練を行う。宿から離れるランニングこそ付いて来なかったが、ニーナがじっと俺達の様子を見ている。

 俺達は、訓練を見られることは時々あるので気にしない習慣がついているんだが、ニーナが静かだと少し不気味である。


 午後からはギルドの演習場。貸し切りにまではしていないので、空いてるとこで始める。ここでは、俺はほとんど指導ばかり。エリーゼは剣だけでもガスランとそこそこやり合えるので。

 最後は魔法の訓練。ガスランは祖母のアルネが時空魔法の使い手だったから期待してるんだけど、先に火魔法が発現しそうな気がするとフレイヤさんが少し前に言ってた。エルフは100歳過ぎてから新しい属性が発現する人も居るらしいので、気長に続けさせる事にしている。

 エリーゼは光魔法。ライトはすぐに出来てたけど、クリーンも雷もという感じなので一つに絞るように言ったら、今は、雷魔法習得に向けて頑張っている。



 新しい魔法についてはともかくとして、いい訓練が出来たと三人で割と納得して訓練は終わり。演習場の横に在るベンチの所で汚れを落としたりお茶を飲んだりしていると、ギルドの女性職員が俺達の所にやってくる。

「シュンさん、アルヴィースに指名依頼が入ってますので、帰りにフレイヤさんの所へ寄って貰えますか?」

「はい、解りました」

 俺はそう答えて、職員の女性に会釈をした。


「誰からだろ」

 エリーゼのその疑問は三人に共通したもの。


 ギルドの建物に入って、ギルドマスター室に行けばいいかなと思っていたら、フレイヤさんは表に出て来ていた。俺達に気が付いてフレイヤさんは言う。

「あー、来たわね。三人ともカード出して。三人揃ってランクアップよ」

「……」

「私もまた?」

「解りました」


 ガスランだけ妙に素直なのは、相手がフレイヤさんだからだ。俺はガスランの初恋なのだろうと密かに思っていたりする。絶対に、本人にも誰にも言わないけど。


 それはさて置き、俺とエリーゼは晴れてBランク。ガスランはDランクに。

 言われてすぐ思ったのだが、ヴィシャルテンでのゴブリン撃退がかなり評価されているんだろう。

 そして、パーティーランクもBランクということになる。パーティーのランクは決められ方が少しややこしくて、パーティーのメンバーの最高ランクと必ずしも同じという訳ではない。メンバーの中の最高ランクが複数人居ればそのランクがパーティーランクとして適用される。逆に言うと、最高ランクが一人だけであった場合はその一つ下のランクになる。


 カードの更新は他の職員に任せて、フレイヤさんは

「治癒室に行きましょうか」

 と言う。


 頭の中に疑問符。でも、取り敢えず付いて行けばいいかとぞろぞろと治癒室へ。


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