第85話

 俺達は、街やギルドへの説明など面倒なことをニーナに押し付けて宿に戻っていた。

 隠しようがない雷撃砲の跡については、たまたま持ってた高価な魔法兵器だとでも言っておいてくれとニーナに言ったら、盛大に顔を引き攣らせて

「シュンに貸しだからね!」

 とそう言っていた。


 その雷撃砲レールガンが残した跡を消火活動をしながら辿った俺とニーナは、ゴブリンキング達が居た辺りを探しまくって、やっとキングの残骸を見つけた。そいつの大きな魔石が、傷は多少あるが残っていたのは幸いだった。そしてそれはニーナに進呈。手間賃代わりと言って。


 俺の雷撃砲で消し飛ばしたゴブリンは約100体。その前に門周辺でやったのは、衛兵たちによる死体の回収なども進んでいたので正確には数えられなかったが、こちらは約150体だろうと思う。拉致されかけていた人の救出後にガスランとエリーゼがやったものはそこそこ回収出来ていて、俺達も全くのタダ働きという訳ではない。

 今回、倒したゴブリンの数は非常に多い。でもかなりの数が逃げてしまっている。バラバラに逃げてしまったゴブリンを追うのは効率が悪いが、あとはヴィシャルテンの冒険者ギルドが何とかするだろう。

 実際、既に追撃の依頼が出ているようで、いつもは安いゴブリンの討伐報酬が、今だけの特別割増価格とのことである。


 街は突然のゴブリンの大群の襲来で、戦争が始まったかのような様相だ。撃退したと伝えられても人々の不安と恐怖は高まったままだった。宿の中の雰囲気も同様だったが、夜の食事からは出せると言われて俺達は宿で夕食を摂ることにする。


 そして俺達が宿の食堂で食べ始めた時、タイミングよくニーナと護衛二人が戻って来た。ニーナは俺達に気が付いて、俺達の居るテーブルに向かってくる。


「ニーナ、お疲れさん」

「ニーナ、お疲れさま」

「ニーナ、お疲れ」

 俺とエリーゼとガスランの、お疲れさま三連発が発動。


「な~に、呑気にご飯食べてるのよ!」

「腹減ったから」

「お腹すいたから」

「ニーナも食べればいい」


「食べるわよ!」



 その後、食事を終えて少し機嫌が直ったニーナは部屋に来てほしいと言う。

 ま、こっちも話は聞きたいので行かないという選択肢はない。アウェーだけど。


 被害は、死亡が五名と負傷者は約40名。女性への性的暴行は無し。

 駆け付けた時には既に手遅れの人が居たから、死人が出ていたのは解っていた。


「ウェルハイゼス公爵家を代表してお礼を言わせていただきます。アルヴィースの迅速な対処のおかげで、多くの人が救われました。本当にありがとうございました」

 ニーナは、姿勢を正し凛とした表情で俺達にそう言うと、深々と頭を下げた。

 後ろに立つ護衛の二人も最敬礼である。


「いや、冒険者としての義務を果たしただけだから。まあでも、気持ちは受け取るよ。被害が抑えられたことは本当に良かった」

「ええ、亡くなられた方は気の毒ですが、あのキングが率いる大群までもが押し寄せていたらと思うとぞっとします」


 そして、アルヴィースの三人とニーナが先頭に立ってゴブリンを殲滅していったのは衆目の中での事で、当然周知の事実になっていて街から特別報酬が出るらしい。


「えっと…、ニーナ。それは辞退と言うか、亡くなった人の遺族に渡してくれるか」

「フフッ、シュン達はそう言うと思ってたわ。私もそれがいいと思う、了解よ」

 ニーナはニッコリ微笑んだ。


 その後、ギルドと街の合同調査が始まるということなどひと通り聞いて、じゃあ、と部屋を出ようとするとニーナが言う。

「そうだ。乗合馬車はしばらく運休みたいよ」

「やっぱりか…。護衛募集している商人でも探すしかないかな。こんな時でも移動しなきゃいけない商人が、探せば居るだろう」

「明後日の朝出発で良かったら、スウェーガルニへ行く馬車を知ってるわよ」

「おっ、それはいいな。紹介してくれ」

「もちろん。公爵家の馬車だからね。大丈夫よ。料金も要らないし」

「……」



 スウェーガルニへの道行は特に問題はなく順調だった。ゴブリンの姿を遠目でも見かけることは無く、探査でも時折数匹が遠くにうろついていた程度である。

 それにしてもさすが公爵家の馬車だ。揺れの少なさが段違い。こんな馬車に乗りなれてしまったら通常の馬車には乗れなくなってしまいそうだ。


 馬車の中では、ニーナの質問に答える形で話をした。もちろん肝心な部分は話せないのだが、探査スキルの事とレールガンにニーナは興味津々なのでまあ大した問題は無いと言える。

 気配察知スキルは一般にもよく知られているものなので、探査はそれの進化版だと言うと、取り敢えずは納得してくれた。嘘ではないので俺にやましいところは無い。

 レールガン、雷撃砲については雷魔法の発展形だと説明。作り上げるのにかなり苦労したということと、雷魔法はバステフマークのセイシェリスさん直伝のものだと説明した。嘘ではないので俺にやましいところは無い。


 便利な探査だがダンジョンでは限定的だという事なども話した。まあ、その辺なら俺達の秘密に近付く部分ではないので、俺も気楽なものである。

 あと、休憩場所や野営場所で当然のようにクリーンボックスを出したら、これにはかなり関心を持たれてしまい、中に設置した魔道具について質問攻めにあうが企業秘密という一言で終わらせる。

「シュン、これは貴族に売れるわよ。かなりの値段でも買う人は多いと思う」

 ニーナはそんなことを言うが、

「こんなので商売するつもりはない。ニーナも人に言ったりしないでくれよ。俺は目立つのは嫌いなんだ」

 と答えておいた。

 それにしても、恐るべし女性のクリーン好き。


 予定通りにスウェーガルニに到着。変わりがない街の様子に俺達は安心する。

 馬車はギルドへ直行する。ニーナは、フレイヤさんにヴィシャルテンのギルド長と話した内容などの伝言があると言うので入り口で別れる。俺達はそもそもの受けていた依頼の報告である。

 大量に回収したゴブリンを見せてあっという間に報告は終了。依頼の報酬はその場で出るがゴブリンの魔石などの買取査定については数が多いこともあり後日という事になる。ゴブリンの魔石は安いうえに相場にそれ程変動もない。数が多いため解体に時間が掛かるという事だね。


 さて、依頼の報告など取り敢えず完了した俺達は、ニーナはフレイヤさんとまだ話をしているようだが宿へ帰ることに。

「明日はノンビリしたいね」

 双頭龍の宿へ帰る道すがらそう言ったエリーゼの言葉通りに、ガスランも賛成という事なので一日ノンビリ休もうという事にした。



 ヴィシャルテンがゴブリンの大群に襲撃されたことは、既にスウェーガルニにも伝わっていた。代官から住民へ警戒の呼びかけがあったらしい。最も近い街という事もあり住民の不安も増しているようだ。そして街の周辺に軍も出動して巡回を行っていて、街としての警戒レベルがひと段階上がっている。


 休日にしているが午後になって、エリーゼがヴィシャルテンのお土産として買っていた物をフレイヤさんとミレディさんに持って行くと言うので、俺とガスランもそれに付き合う事に。と言うか、エリーゼは行くのに俺達が顔を出さないとか、フレイヤさんが怖いので。

 しかもヴィシャルテンでああいう事があった後だし。話はニーナがしているだろうけど、やっぱり心配は掛けてると思うので。


「おかえり三人とも。無事でよかったわ」

 ギルドマスター室でフレイヤさんはお茶を淹れてくれて、俺達に微笑むとそう言った。

 エリーゼが土産に買っていたケーキを出し始めると、フレイヤさんは

「ミレディの分もあるんでしょ? 丁度いいから呼びましょう」

 と言って自ら呼びに行った。


 やって来た、いつも通りの美しさで輝いているミレディさんは、女性被害が無かったことに心から安堵していた。俺が雷撃砲を撃つ前にエリーゼとガスランが奪還した人は女性だったので、そのことを知ると、間に合って良かったと。

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