第83話
俺達は結局、馬車は降りずにそのままヴィシャルテンまで行くことにした。ゴブリンの群れを歩いて探す手間もなく依頼は達成できたし、久しぶりに行ってみる事に。一行の責任者がせめてものお礼と馬車の乗車賃をタダにしてくれたのもあるが、ガスランにヴィシャルテンを見せてあげようと思ったからだ。
着いたのは夕方、日の短さのせいで既に街は灯りがつき始める頃。それでもガスランは、スウェーガルニとはまた異なる街並みに視線は釘付けである。
「懐かしいね、シュン」
エリーゼも以前の事を思い出したのか、少しはしゃぎ気味。
宿を取ってから食事へ出かける。宿の食事でも良かったのだが、普段食べない料理を味わう為に外で食べることにした。
ヴィシャルテンはパスタの店が多く、そういう店のほとんどはデザートとしてケーキの類も充実している。店の人に三人でお腹いっぱい食べたいならばと勧められて、具沢山のパスタの特大盛を注文して小皿に取り分けて食べる。料理がテーブルに届いた時には量が多すぎるかもと思ったのだが、ガスランが居たのでその心配は無用になった。
「ガスラン、よくそんなに食べれるね」
エリーゼがお腹を押さえながらそう言うとガスランは答える。
「まだ食べれる」
その言葉に俺とエリーゼは顔を見合わせて笑う。
しかしエリーゼは、そうやってお腹を押さえながらもまたメニューを見始めていて、どのケーキを注文するか悩んでいる。ガスランもエリーゼが見ているメニューを覗き見て、指差してそれがどんなものかエリーゼに質問している。
それにしても、君たちの胃袋は一体どんなになってんですかね。もしかして亜空間と接続してませんか。
「シュンは? …要らなそうね」
「うん。俺はもう飲み物だけでいい。別腹も、もうお腹いっぱい」
エリーゼが注文している内容を聞いただけで、うげっと思ってしまう俺。
宿に帰る道すがら、
「美味しかったから食べ過ぎた~」
エリーゼはそう言って満足そうである。
土産用にと、ケーキを大量に追加注文するほどケーキの味も良かったみたいだ。
そして俺とエリーゼは、夜の共同作業もたっぷりと時間をかけ充実した結果で終えて翌朝スッキリと目覚める。顔を洗って着替えた後、朝食の為にガスランに声をかけようと思ったら部屋には居なかった。
少し探査で探すと、すぐに居場所は判明。
「あれ? 先に行ってるのか」
「そうね」
朝食は宿の食堂で摂るので、俺とエリーゼは階下の食堂へ。
食堂に行ってみるとガスランが入り口で待っていた。そのすぐ傍に三人の女性が居てガスランは何か話しかけられている。
ガスランは俺達に気が付くと、すぐに近付いてきた。
「シュン、エリーゼ。おはよう」
「おはよう」
「おはよう、ガスラン」
女性三人がずっと見ているので、
「ガスラン、あの人達は?」
と俺が尋ねるとガスランは言う。
「知らない人達」
ガスランの奴、逆ナンでもされてたかと思ってもう一度女性達の方を見たら、一人がそれに気が付いて俺に会釈をする。知ってる顔じゃなかったので俺は少し頷く程度の挨拶を返した。
エリーゼは
「早く食べよう」
と言って、俺とガスランを奥のテーブルへ追い立てるように背中を押した。
ガスランは意外にも野菜が大好き。もちろん肉もたくさん食べるのだが、街で食べる野菜や果物は本当に美味しいと言う。確かに、人が作っている野菜や果物は見た目も綺麗だし品種改良されているからね。天然物とは違う良さもあると思う。
ガスランがいつものようにサラダをお替りして、いつものようにエリーゼがベーコンを俺の倍ぐらい食べる。俺はスープをお替りする。
食べるのがひと段落して、ウエイトレスに紅茶を持ってきてもらって三人で飲み始めたら、それを見計らっていたようにさっき俺に会釈した女性がこちらにやって来た。俺達がテーブルに着いてすぐに彼女達も近くのテーブルに着いて食事をしていたのだが、先に食べ終えていたようだ。
「久しぶり。まさかここで会えるとは思ってなかった」
彼女は真っすぐに俺を見てそう言った。
えっと…、記憶フォルダを高速で検索する俺。
「えっと…。スウェーダンジョンでゴーレムキングやった時の…」
名前聴いてないんだよね。鑑定で見えてはいるんだけど。
「うん。あの時はゴメンね。いろいろ厚かましく話かけてしまって」
いえ、むしろ今の方が厚かましいと思います。
しかしそういう気持ちは隠して俺は言う。
「あの時は、俺達の体調が良くなかっただけで。気にしてませんよ」
て言うか、ドニテルベシュクに会ったことで俺もエリーゼもテンパってて、それどころじゃなかったんだ。
ガスランは、体調が良くなかったという部分に微妙に反応しているが、空気を読んで何も言わずに紅茶をゆっくり飲んでいる。エリーゼは端からスルーを決め込んでいる様子で女性を見ることすらしない。俺も正直、もう相手したくないなと思い始めていた。
さすがに、そんな俺達の雰囲気にはその女性も気が付いたのか、浮かべていた笑みを消して言う。
「アルヴィースの三人にお願いが有るの」
そして、深々と頭を下げた。
以前から俺達のパーティーに加えて欲しいとか、パーティーの合併をしないかなどの話はたくさんあった。すべてきっぱり断っているのだが、ガスランが加わったのはかなり話題になったようで、また最近はパーティー参加希望者が増えていた。
「すみません。お断わりします」
「話だけでも聞いて欲しい。今日、偶然にも会えたこの機会を逃したくないの」
なんだかしつこそうなので、これで終わりにする意味で
「…じゃあ、5分だけ聞きます」
そう言ってガスランの隣の空いてる席を勧めた。
彼女はニーナと名乗った。鑑定で見えている名前とは少し違うけど、そこは触れないでおく。金髪碧眼、身長はエリーゼと同じぐらい。細身に見えるが身体を鍛えているのが良く判る。その割には出るとこはしっかり出ていて女性らしい部分も目立つ。年齢はおそらく俺達とそんなに変わらないだろう。あと、この世界はホントに美形が多いんだが、ニーナもその一人である。
そんなニーナは、やはりパーティーに入れて欲しいと言う。
「見習いでも下働きでもいい。荷物持ちでも雑用係でもいいの。お願い、何でもするから私に貴方たちの強さを学ばせて欲しい」
そう言って頭をテーブルに付けてしまいそうなほどに、また頭を下げた。
隣に座って居るガスランは困った顔をしている。自分の隣で女の子が悲痛な雰囲気で頭を下げているのだ。居心地がいいはずがない。
「ニーナ頭を上げて。それじゃ話が出来ない」
俺がそう言うとニーナはゆっくりと顔を上げて俺を見た。
「今ニーナは、私に、と言ったけどそっちの二人は? 仲間じゃないの?」
「あ、その…。彼女たちは、私の冒険者仲間ではあるんだけど…」
ニーナは俺のその質問で途端に歯切れが悪くなる。
「護衛?」
俺がそう尋ねるとニーナは息をのむ。
エリーゼは
俺達の会話を聞いていたのだろう。二人の女性は俺の言葉で席を立ってニーナの後ろに控える場所に立った。二人の目が訴えている意味を理解した俺は言う。
「場所を変えようか。どこか部屋があるかな…」
「私達の部屋へ」
女性の一人がそう応じた。
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