第75話 魔導書
第6階層ボス部屋前の安全地帯で俺とエリーゼは二人で熟睡、すっきり目覚めて朝の支度をさっさと終わらせて、第7階層へ降りた。偶然にも相部屋となった女性三人組パーティーは、俺達が階段を降りる直前になって起きだしてきていた。見張りをしていた一人とは少しだけ話をしたが、ダンジョンに入って4日目だと言っていた。
第7階層もまだ迷路型階層だが、出現する魔物はそれまでと大きく変わる。ゴーレムである。魔法が効きにくいうえに身体も硬いし手足を一本失くしたぐらいでは動きを止めない。核となっている魔石を取り出すか砕いてしまうのが最も手っ取り早いのだが、人間で言う心臓に相当するその在りかは結構深くえぐった所。
この階層からは通路の幅も天井までの高さも大きく広がっている。しかしゴーレムの身長はおよそ3メートル。リーチも長いので道が広くなった恩恵は少なく感じる。
とは言え、ゴーレムはこの階層ではどうやら単独行動のようで、更に奴らは動きが鈍い。オークなどの速さに慣れていれば、冒険者は対処にはそんなに苦労はしないだろう。ただそのタフさのせいで、いつしか追いつめられてしまうという状態が危険だ。なので対処方法としては、退路を確保しつつ、いかにして早くゴーレムの武器である手足を削るか、動きを止められるかという事に尽きる。
そういう訳で、いろいろと話は聞いていたし事前に調べても居たので、俺は魔法を試してみることにする。
第7階層初遭遇の魔物、ゴーレム一体。
「エリーゼ、ちょっと下がっててね。試してみる」
「私も水魔法試してみたいけど、シュン先にいいよ」
「了解」
雷撃 ズガッーン
ガラガガガガッ…
ゴーレムの身体を構成している石が全て、人間で言う関節に相当する部分が真っ先に離れて、すぐにそれぞれが更に小さくバラバラになって石の山になってしまった。
「え?」
「は?」
エリーゼと顔を見合わせた後、俺は慎重に近づいてゴーレムのなれの果ての石の山を剣でつついて掘ってみる。すぐにゴロリと魔石が転がって出てきた。
手にした魔石はかなり大きい。少し黄色っぽい半透明な完全な球体。
エリーゼの方に掲げて見せて俺は言う。
「なんか綺麗だ」
「ゴーレムの魔石って高いんだよね」
「うん。傷が無い物は特に高いって聞いた」
その次に出てきたゴーレムは、エリーゼが水魔法と風魔法も使ってみたが、魔法防御が高いという前評判通りに、やはりあまり効果はない。
「シュン、やっちゃって」
エリーゼは残念そうに俺にそう言った。
その後二人で第7階層を、出会うゴーレムは全て石クズに変えて魔石を拾い、マップを作成しながらうろうろ歩いていたら、広間に出た。
「シュン、ここって…」
「もしかしてボス部屋か?」
広間の入り口からは見えづらい所、広間の中へ進んで見えてきたのは既に見慣れた感じもするボス部屋の扉。
広間は安全地帯であることが確認できたので、一旦そこで休憩をとることにする。クリーンボックスで二人ともスッキリ爽やか。そして気分転換に湯を沸かしてお茶を淹れることに。
いつもより甘くした紅茶を飲み始めてからエリーゼが言う。
「どうしよっか」
「正直悩んでる」
「だよね」
「うん」
俺達は、ボス部屋に入るかどうかを悩んでいる。予定では第7階層を第6階層の安全地帯をベースキャンプにして1日半ぐらいうろついてみることにしていた。
それが第7階層に初めて降りてから半日足らずでボス部屋に来てしまったのだ。もちろん俺達がゴーレムを一瞬でやっつけていることと、探査のおかげで歩くスピードが速いせいなのだが、こんなにあっさりしてると、何か落とし穴が待っているような気さえしてしまう。
扉を眺めながら、ここまで来たら開けるしかないじゃないかと思った時、エリーゼがニッコリ微笑んでいるのに気が付いた。
「やるしかないよね」
エリーゼのその言葉に俺も笑いながら答える。
「誰も見たことが無い第8階層を、俺達が最初に見よう」
予測できるボスはやはりゴーレム。但し一体とは限らない。タフさも桁違いだろう。ゴーレムの攻撃を回避することが最優先だと二人で確認し合う。
ゆっくりと扉を開けて中を見る。すぐ見えてきたのは、今まで見たゴーレムの倍はあろうかという程の巨大な姿。鑑定結果は、ゴーレムキング。探査結果は一体のみ。
計画通りに、エリーゼは俺から距離を取るために離れる。互いの回避を妨げない為。そして俺は、ゆっくりゴーレムキングの方へ歩いた。
ゴーレムはこちらを見ているのか見ていないのかが分からない。顔らしきものは有るのだが、目に該当する箇所は無い。しかし、首を振って俺達を目で追うような素振りを見せるので、視覚器官はそこに有るのだろうと思っている。
ゴゴッという音がして、ゴーレムキングが動き始める。気が付かれた。
初動は様子を見ることにしていたので、そのまま見ていると、いきなり俺に向かって走り始めた。意外に速い。通常種の倍ぐらいのスピードだ。
雷撃 ズガガッーン
ゴーレムキングの左肩から真っすぐ下までが崩れ落ちる。左足はかろうじてまだ動かせているようだ。俺は続けて威力を強めた第2撃目。
雷撃 ズガガガッーン
ゴーレムキングの頭と上半身全てが吹っ飛ぶ。
破片が飛んでこないようにエリーゼが間一髪、風の壁を張った。
ゴーレムキングは、ガラガラッとあっという間に崩壊が連鎖するように下半身も崩れ落ちていく。そして、それが治まり、ほぼ全てが崩れたゴーレムキングへ俺は近付く。
「しまった。魔石も吹っ飛ばしたか…」
エリーゼと二人で辺りを探すと、ひときわ大きな魔石が埃をかぶったような状態で見つかった。割れてはいないようだ。
エリーゼがそれを両手で拾い上げて言う。
「重たい~、これ凄いよシュン」
さっとクリーン魔法で俺が魔石を綺麗にして、改めてエリーゼと二人で金色に輝くその綺麗さに感心する。
「あんなゴーレムがこんな綺麗なもの持ってるなんて、ちょっと納得いかない」
「シュン、見かけによらないのよ。人も魔物も」
エリーゼがそう言って笑う。
そして収納に魔石を仕舞いこんでから、さて階段はあっちに出たかと思いながら何気に部屋を見渡したら、宝箱に気が付いた。
「あ…」
「ん、どうしたの? あ…」
エリーゼも気が付く。
二人で固まってしまった。
この世界、デルネベウムのダンジョンには、ミミックのような宝箱自体がトラップになっている類は無いが、宝箱から毒の霧が吹き上がったという記録は残っている。
なんにせよ警戒するのは当然の事なので、エリーゼには少し距離を取らせて、俺自身ももちろん警戒しながら宝箱を開けた。
その中には、魔導書。
「光の魔導書」がそこには在った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます