第74話

 最近、挑戦しているのは共有型亜空間収納。マジックバッグという呼び名は既に俺の中では過去の遺物である。これからは亜空間収納、単に収納でもいい。だけど、いろいろ目立つので人前ではバッグ形態のしか使わないようにしてるし、呼び名もそう言うことにしているんだけどね。


 それで共有型というのは、収納する先の亜空間は一つで、それを複数のバッグから共有するイメージ。例えば、俺とエリーゼがそれぞれ共有型のバッグを持っているとする。そして、俺が一人で潜っているダンジョン内で、ゲットしたアイテムをその場で収納する。その直後、街に残っていたエリーゼは街に居ながらにしてすぐにそのアイテムを取り出すことが出来る。そういう感じで使える物。

 これが可能になると、最も有効的だと思えるのは通信手段として活用する事なんだよね。メールみたいな感じ。手紙を収納に入れてやり取りすると言えばいいかな。


 だけど、非常に前途多難。一回はうまく行くとこまでは来てるけど、安定しないっす。2回目以降は別々の亜空間として固定されてしまう。物のロストは無いけど。



 さて、考えていた予定ではそろそろなんだが、フレイヤさんから懇願されてガスランの所に行くのを少し先延ばしにしている。フレイヤさんはどうしても仕事のキリが付かないとかなんとか。

 まあ、ガスランとは次はいつとはっきり約束はしてなかったので、少しならね。


 ただ、奴の居る辺り冬は少しの期間だけど雪が積もるみたいなので、いろいろやっときたい事がある。オーガは雑食で、ガスランは人間と同じ物を食べる。木の実や果物の類は奴も備蓄することを知っていて、ドライフルーツみたいな物を作っていたりする。あと干し肉も自分で作っていた。アルネさんに教わったらしい。

 そういう食べ物の備えについても、ガスランが住んでいる辺りでもう少し何かないかというのを、一緒に目で見て考えてみたい。俺達がいつも食料を運んであげるのは、決して奴の為にはならないからね。とは言っても、ガスランの為のマジックバッグは中身と併せて準備はしているけど。



 フレイヤさんの予定を聞いてあと数日は先になりそうなのが判った俺とエリーゼ。もう一度ダンジョンに行くことにした俺達は懐かしささえ感じるようになった横穴へ。今回は強行軍の予定。

 既にダンジョン内の安全地帯は周知されていて、最近はそこで野営するパーティーも増えているらしい。深い層に行くなら当然なのだが、ダンジョン内での野営が続くと身体も精神的にも蓄積されていく疲労の問題が有る。俺達ももちろん野営はするが、その回数はなるべく少なくすることに。


 調査チームの時に一日で第3階層まで降りて戻ったことが有るし、前回もそうだったので1日で第5階層ぐらいまでは行けると思ってたんだけど、遭遇する魔物が妙に少なかったせいか第6階層まで来た。

 このダンジョンは第1階層がやたら広くて第2階層はそれより少し狭くて、第3階層は一気に狭くなっている感じ。そして第4階層からはまた少し広くなってという、少しいびつな構造。この各階層の広さというものは、遭遇率にかなり影響しているような気がしている。広さに応じた魔物の湧きではないという事かな。

 第4階層のトロールは、基本的に単体で出てきてくれるので楽勝。雷でサクッとやってどんどん進んだ。第5階層からは2匹か3匹編成で現れる。これもサクサクッと片付ける。エリーゼの水か風と俺の雷。

 第6階層はトロールのその群れに加えてミノタウロスが出てくる。ドリスダンジョンと出現構成が似てるんだよね。そしてトロールもそうだけどミノタウロスはタフなので、この階層は冒険者を選ぶ階層として位置づけられているようだ。ミノタウロスは丸ごと持ち帰ると買い取り額が美味しいので人気らしいが、ダンジョン入場条件ギリギリのDランクパーティーにはちょっと厳しいだろう。


 その第6階層を半ば辺りまで進んだ時。

「シュン、多いね」

「うん、今までで最大の群れかも」


 俺とエリーゼの探査で判ったのは、ミノタウロスが8体の団体。トロールは居ない。これまでこの階層でミノタウロスの上位種が現れたという情報はボス部屋に出てきたらしいキング以外は無いが、もしかしたらと思って警戒する。探査の判別では通常種なんだけど。


 こちらが近づくのと同じような移動速度で奴らは近付く。

「初撃は魔法で、すぐに俺が前ね」

「はーい」


 ミノタウロスは3匹、3匹、2匹という並びでやって来ている。

 俺達が角を曲がると、すぐに見えてきた。


 雷撃とウィンドカッター ズガガズガーッ、ヴァン、ヴァ、ヴァン


 後ろ3匹に当てきれず、奴らは突進してくる。

 もう一度雷を撃ちながら、念のため剣を構える。

 エリーゼも弓を構えてはいるが、やはり風魔法。


 魔法の第2波で片付いて、数の多さが気になっていたので見分開始。


「間違いないな、全部通常種」

「うん、でも一度に8体はギルドに言ってた方がいいよね」

「そうだな。この階層は推奨ランク設定するみたいだし、帰ったら報告だな」


 俺達はミノタウロスを全て収納して、先を急ぐ。



 第6階層のボス部屋の前。今は扉は開いている。ドリスダンジョンの深層を攻略しているパーティーが開けた。ボス部屋の中はミノタウロスキングが2体。他の通常種などはおらず、やたらその2体が硬くて強くて苦労したらしい。

 このボス部屋前も安全地帯であることを俺は確認し、時間を考えてここで休むことにする。エリーゼも異存はなく二人で野営準備。

 テントなどの設置を手早く済ませて、二人で料理タイム。料理と言っても買い置きしている物がたくさんバッグに在るので、それもすぐに終わる。


「「いただきま~す」」

 エリーゼと一緒にパクパクと食べながら、何気ない雑談。イリヤさんと作ったお菓子が、とかそういう他愛のないもの。


 その時、突然現れた探査への反応。魔物ではない。

「ん? 誰か上がってきた」

「3人」


 ボス部屋奥の階段から上がってきたのは、かなり薄汚れてしまった身なりでいかにも連戦続きでしたという感じの冒険者たち。しかし、全員女性。盾を持つ一人と大きめの剣を持つ一人に弓を持つもう一人。


「こんにちは~。こんばんは、かな」

 先頭の盾を持った女性は、俺達に気が付くと少し驚きながらもすぐに笑顔になってそう言った。

「こんにちは~」

「どうも~」

 続けて姿を見せた残りの二人の女性も口々にそう言って挨拶をしてきた


「どうも。お疲れさまです」

 俺はそう応じるが、エリーゼは軽く頭を下げるだけ。


「あっちの隅っこで私達も休むから、よろしくね」

 最初に話しかけてきた女性、彼女がそのパーティーのリーダーなのだろうか、そう言って、俺達が設置したテントがある所とは別の隅を指差した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る