第73話

 結論から言おう。エリーゼと俺は一つの部屋に泊まるようになった。イリヤさんから勧められたからだが、エリーゼはこのところずっと毎晩俺の部屋で一緒に寝ているので実質一部屋使っていない状態なのだ。

 イリヤさんが丁度空いたからと用意してくれた部屋は広くて、宿一番のお勧めの部屋だという。


「ここは広いですよ。もう一人ぐらい増えても大丈夫」

 イリヤさんはそう言ってウィンクをする。


 いや、子ども出来てまで宿暮らしはダメでしょと俺は思うが、世間では子連れで旅をしている冒険者夫婦なんかも時々は居たりする。遠征先で子どもを預かってくれるところが必須にはなるのだが。教会が預かってくれたり、大きな宿だと料金は高いが託児も可能だと聞く。


 この日は、俺はエリーゼとは別行動。前日まで4日間、久しぶりにスウェーダンジョンに行っていたので今日はお休みの日である。

 スウェーガルニダンジョンの踏破済みの各階層のボスは初回以来復活はまだ無いと聞いていたが、ボスが居ないという事はガンガン進める訳で、俺とエリーゼは先に入っていた冒険者をどんどん追い抜く形で進んだ。もちろん第6階層までのマップをセイシェリスさんがプレゼントしてくれたおかげもある。


 という訳で、ベルディッシュさんに相談事があって俺は一人で来ている。


「遮音結界か…。有効範囲はどのくらいのを考えてる?」

「この店の入り口から、ここカウンターまでぐらいですね」


 なんだ、それくらいでいいのか。とベルディッシュさんは言うと、店の奥に引っ込んで魔道具を一つ持って来た。


「これでいいと思うぞ。使い方は…大丈夫だな」

「はい、このタイプなら使い方は解ります。魔力充填しておく奴ですね」

 俺は渡された、掌に載るぐらいの小さな円筒形の魔道具を見て言った。


「まあ、空気は通す簡易なものだから完全遮音じゃないし、外からの音も同じだけ遮るから使い方は気をつけなきゃだめだが。相当な大声出しても囁いている程度にはなるな。有効範囲はこれを中心とした半径5メートルと思ってればいいぞ」


「あ、十分です。けど親父さん、よくこんなの店に置いてましたね」


「まあ時々需要は有るんだわ。新婚夫婦のとこだったり、子どもが夜泣きするとか、あと冒険者が安宿に女の子連れ込んだ時の為とか」

「な、なるほど…」


 皆、考えることは同じというか、先輩達が通った道を俺も進んでいるという事。



 エリーゼの初めてを貰ってちょっとした頃に、魔力循環をエリーゼとしてみたんだけど大変だった。つい二人が繋がっている最中に始めたら、もうね…。とんでもない快感で俺もエリーゼも、ずっと逝きっぱなしな状態。気が付いたら数時間もの長い間あちこち繋がりっぱなし逝きっぱなしでヘトヘトになった。エリーゼの喘ぎ声も凄くて、これは対策を考えなければと決心した次第。だから遮音結界。


「これをフレイヤさんとしたのね」

 循環逝きまくりが落ち着いた後で最初にエリーゼから言われたのはその言葉だった。


「いや、違うよ。今のは俺の超絶改良版の循環だから」

 いい訳ではあるが、それは嘘ではない。確かにかなり強力になっているのだ。


 取り敢えずそういう事にしておこうかというようなエリーゼの視線が痛かったが、過去の事は取り消せないし、俺も、あんなのとは知らずにしたんだからと言いたい。

 そしてエリーゼに約束させられたのは、毎日はしんどいけど週に一回程度は自分と魔力循環をする事と、他の人とは絶対にしちゃだめだという事。



 夕方早い時間に宿に帰って遮音結界のテストをしているとエリーゼが帰ってきた。今日はシャーリーさんとギルドの演習場で弓の特訓をすると言ってた。


「矢筒イイ感じ。ちょっと慣れは必要だったけど、これかなり時間短縮になるよ」

 エリーゼはそう言って俺に抱き着いてくる。チュッと軽いキスをして俺は言う。

「出す角度とか自由度上げてるけど、調整したい所が有ればすぐやるよ」


 えっとね、じゃあ…。と説明を始めるエリーゼの要望に真摯に応える俺。


 エリーゼに作った矢筒は、全く矢筒の形ではない。手甲である。腕から手までの手甲。素材としての防御力は高いが柔軟性も高く、それでいて蒸れたりしないという長時間着けていても大丈夫なもの。これにマジックバッグというか収納の機能を付けていて、瞬時に収納している物を手に持つことが出来るという仕掛け。

 既に持っているマジックバッグとの使い分けは本人に任せているが、どこか一か所に物が偏るのではなく分散して持っていて欲しいという俺の思いは伝わっている。とは言え、今回のは戦闘時を想定した物なので、エリーゼは矢をかなりの量と剣を数本、真っ先に入れていた。腰の剣は外さないので、剣は予備として。



「シュン君、ちょっとお話ししましょう」

 翌日、フレイヤさんに捕まってしまった。


「エリーゼ綺麗になったわね、シュン君」

 談話室に入るとフレイヤさんはニッコリ微笑んでそう言った。


 その日は、エリーゼは夕方から早めにイリヤさんの手伝いがあると言って、一緒に行った近場の狩りの後、街に戻るとすぐに先に宿に帰っていた。


 ここ最近ずっと、何か言いたげなフレイヤさんの視線は気が付いていて俺は逃げていたのだが、遂に命運は尽きたようだ。


「俺が最初に見た時からエリーゼはずっと綺麗ですよ」

「うん、そういう意味じゃないのよ」

 とフレイヤさんは笑う。


「最近、逃げてたのは私から叱られると思ったから?」

「あ、いや。なんと言うか…、彼女のお母さんって、お母さんじゃないですけど。その、気まずいじゃないですか」


「うんうん、それは解る気がするわ。私の大切な娘を傷物にしてって言うアレね」

 フレイヤさんはずっとニコニコしている。


 実はフレイヤさんは、エリーゼが俺と結ばれたことに、エリーゼを見てすぐに気が付いたようで、ずっとエリーゼを抱き締めてしばらく離さなかったらしい。良かったねと言ってフレイヤさんは少し泣いていたらしい。


「それでシュン君。循環はやってみた?」

 キター、この話題になると思ってたんだよ。だから避けてたのに。


「はい。やりましたけど…、正直、凄いですあれは」

「そうね。でも続けた方がいいわよ。快感はおまけだと思って」


 俺は、フレイヤさんが言ってる事の真意は理解しているつもりだ。

「ええ、エリーゼの魔力が格段に上がってます」

「やっぱりいろいろと相性がいいんでしょうね。だとするとエリーゼは多分、今まで使えなかった他の属性も適応できるようになるはずよ」


「これってどこまで上がるものなんでしょうか」

「ごめんなさい。無責任なようだけど、それは個人差は当然あるし分からないとしか言えないわ」

「ですよね」



 ちなみに同性でやると性的な快感は無くて、マッサージして気持ちいいな程度なんだそうな。フレイヤさんは魔力の質が男と女では違うようだと言ってたけど、俺にはその判別は付かない。マナ、もしかしたら魔素のレベルで比較しないと駄目なんだろうなと思ってる。

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