第71話

 俺は、二人目の男を蹴り飛ばしてエリーゼの方を見る。エリーゼは、自分に向かってきていた男を裏拳でノックアウトした所だった。


 残った一人は、言葉もなく唖然とした顔。

「まだやる?」

 俺がそう尋ねると首を横に何度も振った。


 スウェーガルニの街が賑やかになったのは良いこと。だが、こういう輩が増えているのは困る。今日もギルドで、四人組の男がエリーゼにちょっかい出そうとして、無視されたら無理やり連れ去ろうとする始末。冒険者なのに、しかもギルドの中で、である。


 ギルド職員が四人を連れて行く。ギルドの人達は静観していた訳ではなく、彼らが俺達の所に駆けつける前に俺とエリーゼがケリを着けてしまっただけ。


「エリーゼ? どうした?」

 俺は、何故かちょっと様子がおかしいエリーゼにそう問いかけた。


「え? ううん、なんでもないよ」

「んー、そっか…」


 さて、本来のギルドに来た目的である買い取りカウンターへ。

 その日はエリーゼと一緒に薬草採取をしてきた。ダンジョンで人が増えた影響はこんなところにも現れていて、最近品薄になってるというポーションの為に急遽、依頼を受けたという事。

 そろそろ季節的にも今年の採取シーズンは終わりかなとエリーゼが言ったので、とにかく近場の採取ポイントを二人で全力疾走で回って来たのだ。なので普通じゃあり得ない程大量である。


 どさどさっと採取してきた薬草をカウンターに積み上げていると、フレイヤさんがやって来る。

「あら、たくさん有るわね。助かるわ」

「あ、どうも。ポーションが作れないと聞いたものですから」

「うんうん、シュン君のそういうところ大好きよ。ねぇ、エリーゼ」

「え? あー、そ、そうですね…」


 フレイヤさんが、おや? という顔をする。

 俺も同じ気持ちである。


「シュン君、ちょっとエリーゼ借りるわよ」

「はぁ…、どうぞ」


 俺は買い取りの査定をそのまま待つが、エリーゼはフレイヤさんに拉致される。多分、談話室だろう。



 一度に納入された薬草としては過去最高の量じゃないかというギルド職員の人のニコニコ顔に見送られて、金を受け取った俺は談話室へと向かう。すると丁度、談話室からフレイヤさんとエリーゼが出てくる。

「シュン君、買い取り終わったのね」

「はい、かなりの額になりました」

「あれだけあればね」


 と、話をしていると、エリーゼが俺の手を掴んで、さっさとギルドから出ようという風に引っ張る。フレイヤさんは困ったような顔をして見送っているだけ。


 今日はフレイヤさんとガスランについて話をする予定だったんだけど、エリーゼがこんな調子だと無理っぽい。よく解らないけど女の子は…、ね。いろいろあるだろうし。

 ギルドを出ると手を離したエリーゼは、

「シュン帰ろう」

 そう言ってスタスタと歩き始めた。


 はいはい、お姫様の言う通りとばかりに俺は付き従う。

 宿に戻ると、エリーゼは風呂に入って今日はすぐに寝るとのこと。



 そして翌日、エリーゼは元に戻っていた。


「アルネ…、その女性がガスランを育てたという事なのね」


 俺とエリーゼはフレイヤさんとギルドマスター室に居る。ガスランの所に行った時の事についての話である。


「はい。小さな時から二人だけだったそうです。人と話したのはその人以外では俺達だけだと」


「何年ぐらい一緒だったのかしら」

「俺もそれ気になって聞いたんですけど、ガスランは数えてなかったというか解らないみたいです。ただ、アルネさんが死んだのは老衰みたいで、身体がどんどん弱って最期はベッドで横になって眠るようにと。死んだ後の事はしっかり言われていたそうで、ガスランがちゃんと埋葬してました。墓も作ってました」

「いいお墓だったよね」

 とエリーゼ。俺はそれに頷く。


「そっか。その家には手掛かりのようなものは、見つからなかったの?」

「勝手に触るのも悪いんで、家探しするようには調べてないんですよ。ただ魔道具がたくさんあって、動かないのが多いんですけど、知らない物ばかりでした」


「魔道具? ふむ…、その家をどうやって建てたかも気になるけど、魔道具ね…」


 エリーゼが言う。

「そう言えば、いろんな本の中に一冊だけ古代エルフ文字の本がありました」

「なんてタイトルだったの?」

「ごめんなさい、私には読めない単語だったので書き写してきてます」


 エリーゼはメモ書きのような紙を取り出して、フレイヤさんに渡す。


 フレイヤさんが一瞬で驚愕の表情に変わった。


「時空の…魔導書…」


「「えっ?!」」


 フレイヤさんは驚きから醒めない俺達より早く我を取り戻す。

「シュン君、今度いつガスランの所に行くの?」

「えっと…、多分1か月後ぐらいかなと」

「そう。私も一緒に行っていいかしら」


「多分、あいつは嫌がらないとは思いますけど」

「失礼なことはしないわ。シュン君の友達でしょ」

「はい」


「その女性は、時空魔法の使い手アルネフロム・ドゥヴィーセックじゃないかと思うの。エルフの高名な大魔導士だった人よ。随分前に行方不明になってそのまま」


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