第68話 女神降臨(闇より光)
「シュンさ~ん、起きて~。あ、違う。半分起きて~♡」
懐かしいフレーズだな。そう思ったのは、女神に放置プレイされていたせいだ。
二つ目のボス部屋、通称ゴブリンキングの部屋での討伐と、それで降りることが可能となった一つ下の層の、取り敢えずの雰囲気確認を終えて俺達は地上に戻った。すぐに、遅い晩飯を食べながらまだ横穴入り口前のキャンプ地に残っていたフレイヤさんへの報告を済ませて、割り当てられていたテントでパタリと眠っていた。
俺と同じテントにはウィルさん。エリーゼはフレイヤさんと同じテントで寝ると言っていた。俺はクリーンルームを、彼女たちのテントの横に出して置いた。
ウィルさんは熟睡モードのようだし、女神は迂闊に他人に自分の存在を認識させるようなことはしないだろう。なので、いつもと同じように俺も女神に挨拶する。
「お久しぶりです。女神様」
「あ~? また怒ってるのですか、シュンさん~♡」
「いえ、そんな畏れ多いことなど」
あれ? 俺って怒ってるんだろうか…。いやこれって、甘えてる?
「うふふ、シュンさんは可愛いですね~」
いかん。心の声駄々洩れは圧倒的に不利過ぎる。少しはハンデ欲しいぞ。
ま、だけどいつものことなので、もう開き直る。これもいつもの事だけど。
「あー、その丁度良かった。聞きたい事あったんだよ」
「えっと、私も言いたい事あったから~降りてきたの。
息ぴったりですね私達~♡(可憐な笑顔」
いつもの女神の、俺の男心を揺さぶってくる攻撃は頑張ってスルーして言う。
「言いたい事?」
「はい~。じゃあ~私から。闇魔法はあまり使わないようにしましょう~」
「あまりも何も、俺使えないし」
「シュンさんならすぐ覚えられますよ。
でも闇魔法に夢中になって私の事忘れて~、
隠れてコソコソそればっかり、しちゃダメです~。ダ・メ…♡(色っぽさ満開」
「ちょっ…、ま、まあ、その理由を詳しく教えて」
「闇は光を侵食します~。真っ先に術者が対象です~」
女神の説明は難しかった。「虚無」に光が生まれて、空間と時間が出来た。という話から始まって、光と表裏一体のように同時に生まれていた闇。但し、闇の作用は光を否定する方向でもあるとかなんとか。
「要するに、闇も無ければ困るけど光が勝っている状態が正しくて、そのバランスを逆転させちゃいけないと」
「その理解で良いですよ~♡」
じゃあ、闇を使った以上に光使えばいいんじゃね。と俺が思ってたら、女神は一瞬で超絶に妖艶な笑みを湛えて俺をジットリと見詰め始めた。
そして言う。
「シュンさん~。ダメですよ。私のお願いちゃんと聞いてくれないと~♡」
この女神の、男を魅了しまくる攻撃ってホントにつらいんだよ。もう…ね。若い男の子が一か月ぐらいそれだけでご飯食べれそうな程、後々まで引きずるんだから。
そして、俺は懸命に女神の超絶強力な呪縛を振り切って、俺が聞きたかったことの話を始める。ダンジョン魔法についてである。
女神は言う。
「ダンジョンの理解を深める為には~、魔法解析のレベル上げが必須ですね~♡」
「うん。そうなんだろうなと思ってたよ。やっぱり、結晶の正体が解析できるようにならないと駄目なんだな…」
「シュンさんは今のペースでいいですよ~♡ 焦らずに、ゆっくり♡(微笑」
俺は、ふと思い出したことも尋ねてみる。
「あとさ。魔物で言葉を理解している奴いるんだけど」
「居ますね~。シュンさんが出会った子も、とても賢くて話せますね~」
女神はガスランのことを言ってる。
「シュンさんは~、もし人の身体の中に魔石があったらどう思いますか~?」
「え? それって…」
「無理やり埋め込むような意味じゃないですよ~。生まれながらに魔石を持っている人が居たとしたら~、シュンさんから見てその人は人間ですか? 魔物ですか?」
俺は、悩んでしまう。
そもそも、人間というカテゴリーの定義は何だろう。同じように魔物の定義とは。
「シュンさんは、いづれその答えを知ることになるでしょう。あのハイオーガの子と一緒に考え続けてくださいね♡」
俺は、言葉が出てこなかった。女神が勿体ぶっているようには思わなかった。むしろ、その話をし始めてずっと寂しげな微笑を浮かべる女神の葛藤のようなものが伝わってきていたからだ。
そして俺は話題を変えるように、言うのが遅くなったが、と前置きをしてエリーゼの指輪についてお礼を言った。
「あれはね~。シュンさんの大切な可愛いエルフちゃんのためですよ~」
「うん、エリーゼもエリーゼのお母さんも喜んでたよ」
「シュンさんぐらいですよ~、エルフちゃんのお母さん見えるのは~」
「まあ、最初一度だけだけど」
うんうんと、女神は嬉しそうにしている。
「それでは、今日はこの辺で~。次はもっと早く会えると思ってます~♡
シュンさんが楽しく充実した日々を送れますように~♡」
そう言って女神は、俺を少し強く抱きしめてからキスをすると光に包まれて消えていった。
その日のお別れのキスは、女神の唇が俺の唇に軽く触れるものだった。
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