第67話

「開けたくないな~」

 シャーリーさんが溜息交じりで言う。


 セイシェリスさん達の魔法で回復してきた扉発見組のメンバー達は、こいつ何言ってんだという顔をしている。


 そう、宝箱を開けようとしている。万が一に備えて俺達もすぐ傍に居る。

 だけど、俺達は皆、これ以上厄介ごと増えるな~! という気持ちなので、扉発見組の彼らがワクワク期待しているノリに付いて行けてないのだ。


 そして、出てきたのは「魔導書」。


 セイシェリスさんが、俺だけに聞こえるように耳元で囁く。

「シュン、見れるか」


 俺は頷いた。既に鑑定済み。セイシェリスさんに囁く。

「闇の魔導書。呪いの類はありません。ただ、発動させないにしても開くのは止めておいた方がいいと思います」

「ああ、フレイヤに見てもらった方がいいな」



「ギルドに届けよう」

 セイシェリスさんは皆にそう言って、魔導書を収納した。


 俺、この魔導書。すげぇ興味ある。だって、闇の魔導書だよ。


 うーん、知りたい。見てみたい。けど… ギルドの物だからね。

 フレイヤさんに後で相談しよっかな。ダメもとで。



 だけど、なんでこんなレアな物ばかり出るんだろう。ウィルさんは呆れて乾いた笑いが続いてるし、セイシェリスさんは、もう嫌って顔してる。シャーリーさんは目が死んだ。


 俺は内心、結構ワクワク。闇だからね。知らない世界ですよ。エリーゼは単純にレアアイテムなのは嬉しいけど、なんか複雑という感じ。


 そんな空気が伝染して、発見組の人達はあまり喜びを表に出せずにいる。ちょっと可哀想な気もするね。



 そして、階段。

 扉発見組はこの部屋で待機。俺達5人は階下に少し降りてみることになる。


「シュン、クリーンの時間だ!」

 生き返ったシャーリーさんが俺にニッコリ笑う。


「あ、そうですね。出しましょう」



 発見組が唖然としている中、うちの女性陣達はジャンケンで順番決めて早速利用。

3番目だったエリーゼが出てきて俺に言う。


「シュン、あっちの人達にも…」

「もちろん。エリーゼ説明してあげて。女性同士の方がいいでしょ」


 ニッコリ微笑んだエリーゼは、発見組紅一点の女性を、クリーンルームに案内。


 出てきた女性は、

「シュン君、ありがとう。すごいよ、ダンジョンでこんなのって…感激」

 怪我大丈夫なのかなと心配になるほど、はしゃいでる。


 という訳で、男性陣にも…。




 さて、気を引き締めて下に降りる。

 何が有るのか、居るのか。


 警戒陣形で、先行は俺とシャーリーさん。


 さっさと降りてみたら、上の第1階層とあまり違わない。迷路形態のままのようだ。通路の幅が少し広い感じだけど、大した違いではない。


「シュン、マップ頼むぞ」

 シャーリーさんが囁く。

「了解です」



 階段を下りた所から一本道を進み、最初の分岐が近づいた時に、探査に反応。


「敵、3体。ゴブリン?」

「シュン、多分上位種」

 エリーゼたんからフォロー。


 セイシェリスさんの指示が飛ぶ。

「解った。目視後、遠距離優先で。シュン、遠慮せず全部撃ち砕け」

「「「「了解(おう)」」」」



 ビュッビュッという矢の音、それにズガガガッという雷撃が重なった。


 現れたのは、エリーゼの判別通りのゴブリンメイジとジェネラル。

 3体は声を出す暇もなく倒れている。

 セイシェリスさんが収納。


 ウィルさんが言う。

「上位種だらけの階層だとすると、とんでもないな」

「勘弁してほしいですよね」

 俺も、もともとゴブリンはあまり見たくないのに、上位種が居るという事は数が多いという事だから、ちょっとウンザリしてしまう。


 次に現れたのは、ゴブリン通常種8体。


「多いな」

 と言いながら、ウィルさん無双。サポートはシャーリーさん。


 すると、倒したゴブリンの装備を見ながら、セイシェリスさんが呟く。

「装備が良すぎる…」


 俺は、鑑定で見たばかりの情報を話す。

「あと、さっきのボス部屋のと比べて、こいつらレベルが高いです」


「そうか…下の階層だから、当然なのかもしれないが。階層別にレベルを比較した資料など私は見たことがない。その辺も、戻ったら皆で調べて検討してみよう」


 そして、セイシェリスさんは、気を取り直すように皆を見渡して言う。

「時間をかなり過ぎている。戻ろう」



 来た道を戻り、俺達は発見組と合流。

 発見組は、扉の前が安全地帯か確認しようとしていたらしいのだけど、まだ分からない、と。

 どうやって確認するのかウィルさんに尋ねたら

「手っ取り早いのは、魔物を引いてくるのが早いだろうな。安全地帯なら、奴らは人間が見えないし、入ってこれないはず」

 と言う。


 ん? そうか。

 俺はふと思い出したように、鑑定を始める。扉前の床、扉の横の壁、そして天井。


 点々と散りばめられた、通常のダンジョン内の壁や床とは違うものが見えてくる。


 魔核疎外結晶。


 ああ…。

 鑑定スキルが進化してから安全地帯を鑑定したことが無かったから、判らなかったんだ。ドリスダンジョンに行く前に進化していたら、あの時に見えてただろうに。

 そうじゃなくてもどこも均質で変化がないダンジョンの壁や床の鑑定結果に、いつしか鑑定をしなくなっていたせいもあるだろう。もしかしたら、ここに来る途中にも在ったのかもしれない。


 俺は、セイシェリスさんの傍に行って言う。

「セイシェリスさん、すみません。少し時間貰っていいですか」

「ん、少しなら構わないが。どうした?」


「安全地帯みたいなんです。この扉の前」

「もしかして、鑑定で判るのか?」

 セイシェリスさんは、声を潜めて問い返した。


 俺は頷く。

「はい。考えたら、当たり前なんですよね。安全地帯にしているのはダンジョンの意志みたいなものなんですから、魔物をコントロールしている仕掛けがあって当たり前でした。この辺り、通常のダンジョンの壁や床、天井とは異なります」

「そうなの…。で、何をするの?」


 俺は、どこまでが安全地帯なのかを調べて、線引きをしてみると答える。

 扉の前は一つの部屋のようになっていて、ここに来る通路から見ると広間に出てきたような感じだ。その広間の奥に大きな扉があるということ。


 俺が、ゆっくり天井の方も確認しながらその広間の中を歩いている間、セイシェリスさんはずっと俺の隣を一緒に歩いた。

 結論から言うと、その広間は全て安全地帯で、通路の部分も広間から10メートルぐらいは安全地帯と同じ構造である。


 俺は、ふと思いついたことをセイシェリスさんに言う。

「ダンジョンのスタンピードの時って、魔物が増えるのと同時にこの床や壁にある安全地帯結晶も変化しているのかもしれないですね。その時だけ効果を失くしているとか、そんな感じで。だからその時は魔物が平気で通れる、みたいな」

「ん…。それは、そう考える方が納得できる話よね」


「この結晶というか効果を再現出来たら、スタンピードを制御することも可能な気がしませんか?」

「なっ、シュン! それが出来たら…」

 セイシェリスさんは、思わず大きな声を発してしまい、慌ててまた声を潜める。


「解析できるかも判らないですけど、やってみる価値は有りそうですよね」

「ああ、それが可能になったらすごいよ」


 戻ったらフレイヤさんにも相談してみますと、俺はセイシェリスさんに言った。



 それからしばらくして、全員で帰路に就く。帰りは俺達5人が前に出る形でどんどん進んで地上に戻った。


 外はもうすっかり日が暮れていた。

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