第63話

 オークの横穴ダンジョン(仮)第1階層奥の階段を下りた所に広がっていたのは、平原フィールド。


 ダンジョンの中とは思えないような起伏のある地形。土、岩、草、木。小さな泉もある。階段を下りた所は少し小高い場所に位置していた為、そういう光景が見て取れる。

 そして、地下とは思えないような青空。雲や太陽に相当するものまである。日差しは意外と柔らかく、日当たりは良いのに暑さは全く感じない。


「不思議だな。聞いた話でしか知らなかったが、ダンジョンの最大の謎がこういうフィールド階層だというのは間違いない」

 セイシェリスさんが、誰に言う訳でもなく空を見上げながらそう呟いた。


 そして、警戒も怠らぬようにと広げた探査に引っかかる反応。


「居ます、オーク。10時の方向、かなり遠そうですけど数は11ですね」


 今、俺達が居る階段の前から少し離れた所に人の身長までは無いがそこそこ大きな岩が幾つか並んだ場所がある。


 セイシェリスさんは俺に頷き、指差しながら皆に指示を出す。

「あの岩の所まで移動しよう」



 目の前の平原の果ては確認できない。とにかく広い。振り返って、降りてきた階段と、とてつもない高さの壁を目にしなければ、どこかの実際の平原に転移させられたのかと思う程。

 見上げると、この壁は上空に溶け込んでいくように途中から見えなくなっている。もしかして本当にそこで途切れているのかもしれない。しかし、壁の横の広がりは異様だ。自然いっぱいの平原の広がりを遠慮なく断ち切っている。そして壁を横に辿って見ても、やはり遠くまで続き、遥か遠くで空へ溶け込むように交わってしまい見えなくなる。そうして見ていると遠近感がおかしくなりそうだ。

 まるで、とてつもなく高い塀に囲まれた広い庭。自分が、その塀の際の地面に居る小さな虫になったような錯覚を覚える。



 俺とシャーリーさんで偵察斥候。オークが居る所へ近づく。


(シャーリーさん、なんかあれって村っぽくないですか)

(私にもそう見える。しかし、その割にはオークの数が少ない)


 近付くにつれてはっきり判ってきたのは、オークの集落だということ。それらが在るのは少し窪んだ土地なので、近づかないとその木造家屋群は見えなかった。集落の中心には泉がある。

 俺達は、その窪みの縁にあたる部分から覗き込んでいる。岩も多いので隠れる場所には困らない。


 家の前に居るオークは何かを作っている? 腰に武器を着けているが、振り下ろしているのは石の斧のような物。いや、何かの骨を砕いている。何の為に?


(骨どうするんでしょ)

(シュン、それは後だ。数を再確認してくれ)


(了解…。変わらず、11。そこの奴と、あとは家の中に3、4、2、1です)

(空っぽの家が多いのか。よし、戻るぞ)

(了解)



 岩に囲まれた、皆が待機していた所に戻って見てきたことを報告。


 集落の事もあり、さすがにすぐに討伐してしまおうという流れではない。


「時間だな。今回はこれで戻ろう」

 セイシェリスさんの言葉に皆が頷いた。




 他のパーティーへの配慮と情報の重要性を鑑みて、現場の責任者のギルドの男性職員一人と俺達5人だけで話をする。一通りの話を聞き終えた男性職員は、

「私は、もう一度体制を整えて仕切りなおした方が良いように思えますが、正直、判断に迷います。何度も中断していることを問題視する人が居るかもしれませんし」

 と、言葉を吐き出した。


「アイテムの事もあるので我々は一旦ギルドに戻るべきだと思う。しかし貴方の懸念同様、我々が居ないと残ったメンバーでは万が一の場合の対処は難しいと思っている」

 セイシェリスさんがそう言うと、男性職員は頷いた。


 うーん、問題視するのは代官サイドなんだよね。代官様はあのエルンストさんの息子さんだから、話せば解るんじゃないかと何となく俺は楽観視してる。あ、いや、会ったことは無いよ。でも、なんとなく。エルンストさんいい人だしね。

 おそらくは代官の周辺にダンジョン利権への期待に浮足立って、皮算用始めてる輩が居るという事。そんな奴らが早く自分達で仕切りたくて仕方ないんじゃないかな。


 こんな時、情報通信技術が発達していた地球がいかに便利だったかを痛感する。ちょっと電話で話したり呼び出したりとかね。こっちじゃ望むべくもない。



 結局、俺とエリーゼと責任者の男性職員の計3人が街にいったん戻って報告することになった。現場は責任者の補佐が代行する。宝箱から出てきたマジックバッグは、俺がフレイヤさんへ直接引き渡す。

 ウィルさん達バステフマークの3人は第2階層への階段のある部屋、もうボス部屋でいいか。ボス部屋のもう一つの入り口の先の調査を進めることに。


 通常ダンジョンではほとんどないが、今回はオークが階段を出入りしている可能性があるのでそこだけは十分に留意する。

 平原フィールドには立ち入らない。これは主に索敵面で俺かエリーゼが居ないと、小人数では厳しいという理由。


 他のパーティーは予定通りにマップ空白部分を埋めていくことを継続する。


 そういう事になった。そして遅くとも3日後にはキャンプに戻って会議。

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