第59話 美女魔法とトイレ

 俯瞰視点的なマップウィンドウが見えるようになってすぐに気が付いたんだけど、もうゲームと一緒。自分が通った所は地図として残っていく感じ。

 これって、ダンジョン攻略しなさいと言ってるようなものだよね。


「この脳内マップは、外に出たらちゃんと紙に地図として書きますね」

「ん? そんなこと出来るのか?」

 と、セイシェリスさん。


「もちろん一度通った所です。でもかなり距離的なものとか正確に書けます。マップイメージが記憶に残ってくれるので、その記憶が新鮮なうちに外に出たらすぐ書くことにします」


 皆、感心してるのか呆れてるのかわからない表情。


「シュンが、またシュンになってしまった」

 そんな訳の分からないことを言うシャーリーさん。


 進みながらでも紙に書いてみていいんだけど、俺って前衛だからね。だから、戻ってゆっくり書こうかなと。



 と、のんびりそんな話をしているが初遭遇地点でもあるし、いつ魔物が出てもおかしくない。ここまでも通路はカーブしたり分岐も多くなって、見通しが悪い部分が多い。探査もフル活用しながらセイシェリスさんの指示で進むことに。



 そしてその後やはり接敵した。3度オークに遭遇して7匹を討伐。解体はせず全て収納へ。戦闘は特に問題なし。ウィルさんがほとんど一人でやってた。


「今日はここまでにして引き上げよう。戻ったらまたいろいろ忙しいぞ」

 予定していた時間を計っていたセイシェリスさんがそう言って、今日はキャンプに戻ることになった。帰り道も油断はできないし、無理は禁物。


 そして今回の反省や、解ったことなどを皆で検証してすぐ次に備える。まだ調査は始まったばかりだからね。




 翌日は、まず最初に俺が書いたマップを元にギルド職員と先行してくれていたパーティーの人達も交えて調査の進め方を話し合う。


(このマップ、本当にすごいぞシュン)

(あ、いえ。シャーリーさんの意見を取り入れたら、見やすく書けました)


(気にするな。シュンのいいとこを伸ばして育てるのが私の役目!)


 シャキーン、という効果音が聞こえてきそうなシャーリーさん。


 初遭遇地点を、第一チェックポイント。

 昨日俺達が引き返しを決めた地点を第二チェックポイントと仮称して、一旦その前の分岐など確認していない部分をある程度進んでみることになる。

 要するに、入り口に近い方のマップをまずはなるべく埋めていこうという訳だ。


「くれぐれも、ダンジョンであることに留意して、無理せずに進めていこう」

「「「解りました!」」」


 打ち合わせをしているうちに、いつの間にかセイシェリスさんの言葉を皆が待つようになって、その指示を遂行しなければ、という空気が漂っている。

 これぞ美女指揮官マジック。美女魔法。




 さて、話は全く変わってしまうし非常に長くなりそうだが、オークキング達を殲滅した直後の頃に遡る。


 冒険者の、特に女性陣にとって深刻なのはトイレ事情である。平原のような所では周囲の目が気になるし、仮に視線を遮るように囲ってしまえたとしても警戒などの問題もある。傍で誰かに見張って貰うという事も必要になる。

 衆目にさらされることは仕方ないと解っていても、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 実務的なことで言うなら、臭いの問題も気にしなければならない。ちゃんと処理しないと魔物をおびき寄せ兼ねない。

 想定すべきはダンジョン。

 トイレの為にお花摘みと言って、パーティーメンバーから遠く離れる訳にはいかない。排泄物はいずれダンジョンに吸収されるのだが、しばらく残る臭いを考えると、あとの処理も必要。


 セイシェリスさん達が使っているトイレアイテムという物の話を聞いたエリーゼが俺に言ってきた。それは魔道具として売られている簡易トイレで、臭い処理と汚物処理が可能なものだ。

「私達も、なんとかしようよ。私も恥ずかしいんだよ~」

 エリーゼは真剣な表情。


 うん。臭いを気にしてるのは解るけど、そもそも周囲から見えてる状態も嫌だよね、普通。


 これまでは探査スキル持ちの利点を最大限に活用して場を離れて一人で済ませてきたが、結構エリーゼは毎回気にしていることを俺は察している。

 エリーゼの為だ。何とかしなくては…。


 セイシェリスさん達が使っているその魔道具の実物を見た。

 はい、日本にもあった簡易トイレですね。臭いなどは確かに処理できるんだろうけど、している最中の姿を隠すわけではない。


 俺の解決策的なイメージとしては、日本で建設現場や大きなイベントの時などにずらっと並んでいるような、仮設トイレ。

 そんなイメージを説明してベルディッシュさんに相談したら、なんと貴族が使うものに似たようなのがあるらしい。現物を見たいなと思ったら、ベルディッシュさんの知り合いの大工の所に大手の商人が遠出をするときに使っていた物が粗大ごみのように在るとのこと。


 早速実物を見せてもらい、中の広さが申し分ないのでそれを譲ってもらって改造をすることにした。

 しかし放置されてたから傷んでるし、その修繕含めて更に強度を上げて目立たない色にしたり、ある程度は防音・断熱など。これはもう徹底してる。防水的な処理を外も中も頼んだ。そしてドアの所含めて四方の壁に中からのみ開けられる小窓付けたりとか。

 二人でも入れるぐらいのスペースがあるので、中で着替えられるように服や防具をかけたりできるハンガー、ちょっとした収納付けてエチケットグッズとか入れられたり。化粧しなおしの為に鏡も付けた。こっちの人ってほとんど化粧しないんだけどね。特に冒険者は。

「金持ちの道楽どころじゃねえな」

 ベルディッシュさんから、その費用についてはかなり呆れられた。


 極めつけは、クリーン魔法の魔道具と、マジックバッグの理論を応用した汚物処理。そう、クリーン魔道具は、起動させれば最大効果のクリーンが、使用者と便器、更にはトイレボックスの中全体にかかる。もちろん除菌と清浄と消臭。

 そして、出た物は全て亜空間へ飛ばしてしまう。ちなみに、この亜空間はスウェーガルニの街がすっぽり入るほど大きい。あ、そうだ。落下物対策もやってるよ。


 やりつくした感はある。だが心残りが一つ。

 それは完全防音だ。

 理想は、中からの音は外に漏らさず外からの音は聞こえる感じ。小窓を開けたら外との会話は出来るなどなど…。

 このことに関しては、近いうちに風魔法の権威でもあるフレイヤ先生かセイシェリスさんに相談してみようと思っている。エリーゼの為だから妥協はしないよ。もちろん、俺自身も使うからなんだけどね。

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