第58話 ダンジョン調査開始
オークの横穴入り口。
外から探査で見える境界線を、エリーゼと一緒に引いてみる。つつーっと棒で地面に線を引く。結界の境界線を引いてる、そんな感じ。
「何それ?」
「外からの探査が効くかどうかの境界線よね」
シャーリーさんの疑問に、セイシェリスさんが答えてくれる。
「はい、いづれ封鎖というか管理していくんですよね。その時の目安に。
もっとも、またダンジョン自体が変化してしまう可能性もあるんでしょうけど」
比較的狭い入口を抜けると、以前も見た不自然なほどに広い空間。
俺は、ドリスダンジョンに入った時の状況を思い出して言う。
「ちゃんとしたダンジョンだったら、この部分って本来は、第1階層に降りる階段前ロビーみたいなものなんですかね。ちょっと広すぎますけど」
「本来はそうだな。だが、このオークの大広間そのものが既に第1階層なのかもな」
と、ウィルさん。
大広間の奥の、また洞窟が始まるような通路へ。そこは少しだけ下り斜面で、ちょっと暗い。
隊列を組む。前列が俺とウィルさん、中列がセイシェリスさん、後列がシャーリーさんとエリーゼ。サイコロの目の5のような隊列。後ろからの攻撃の可能性も高そうな場合、ウィルさんか俺が後列に下がることにしている。
少し進むと斜面が終わった。下り坂は意外と短い。また明るくなって、道幅は大きく広がり10メートルぐらい。天井が結構高くて、道幅と同じ10メートルはあるだろうか。下り坂で下がった分の高さが、天井の高さに足されたような感じ。奥は、左右に通路を分けるような壁。ほぼT字路状か、左右の通路の先は壁で見えない。
「一旦止まろう」
マップを見ながら指示を出すのと、全体行動指示は、いつものセイシェリスさん。この人の冷静なリーダーシップは見習いたい。
斜面の終わりで一旦止まった俺達は、周囲の状況に慣れるために、壁に触ったりあちこち見回したり。空気感を確認している。そして緊張をほぐしていく。
ギルド職員から貰ったマップで、オーク遭遇地点を確認。
「セイシェリスさん、ちょっと探査試してみていいですか?」
「いいわよ、広げてみるってことでしょ」
「はい、そうです。やります」
集中。超広範囲探査。少しだけ頭痛がする。やっぱりこれでも、探査が空振りしてるような感覚。
「ふぅ、やっぱり駄目ですね。ドリスダンジョンでもそうだったんですが、ダンジョンの中は、かなり探査の範囲が狭いです。
壁で囲まれてしまってない、こっちから無理したら風を当てられるような所に居るのは、通路が曲がっていても、結構遠くから分かるんですけど」
「ううん、十分よ。視認するよりも、もう少し遠くまで探査できるってことよね。
いつもありがとうね、シュン」
セイシェリスさんがニッコリ微笑んだ。いえ、こちらこそ。いつも美人っすね。
「予定通りに初遭遇地点を目指す。
シュンとエリーゼの探査は信頼してるけど、油断せず通常警戒で進みましょう」
「「「「了解(おう)」」」」
この世界のダンジョンには、いわゆるトラップの類はあまり無いらしい。ドリスダンジョンの深層、第51層以降には転移トラップがあるらしいが。
しかし、迷路型の階層の場合には、低層でも隠し部屋の類があり、アイテムがある部屋とモンスターハウス的な部屋もある。
通常警戒と言いながらも、俺達の進行スピードはかなり速いのだろう。先行したパーティーが、オークとダンジョン内初遭遇したという地点までは、途中休憩を挟みながら2時間程度で着いた。分岐を一つ一つ確認してくれた先行パーティーのおかげだね。
その地点に止まり、警戒しつつ一旦休憩とした、丁度その時。
鑑定で目の前に見える通路の在り様と、これまで見た通路と、紙で見ていたここの地図の記憶、そして探査のイメージを重ねていた俺は…
急に溢れるほどの情報が頭の中を駆け巡る感じがする。少し吐き気…。ふらついてるのが自分でも解る。あ、倒れる…。
「シュン? シュン」
エリーゼが駆け寄って来て、俺を抱き止める。俺は意識が飛びそうに…
「エリーゼ。代わりに探査、警戒…を」
視界も何もかもが真っ暗になって、俺は意識を手放した…。
冷たい…、タオル? あ、エリーゼが顔を拭いてくれてたのか。
「シュン、気が付いた? 判る?」
「あ、うん…。エリーゼ… ごめん。ちょっと立ち眩みの強烈な感じのが…」
「取り敢えず大丈夫そうだな。もう少し休め。エリーゼの膝枕だぞ」
セイシェリスさんが、エリーゼの気を紛らわせてくれているのが解る。
心配そうな顔をしているエリーゼの頬に、手を伸ばして軽く触れる。
「大丈夫だから、そんな顔するな。落ち着いたら説明する」
「シュンの、説明する、が出たら大丈夫だ。エリーゼ、前に言ってただろ」
シャーリーさんのこの言葉で、皆が小さな声で笑う。ダンジョンの中だからね。
本当に落ち着いてきたので、ステータスを確認する。
統合空間探査Lv5
スキルが変わっていた、「空間」の2文字が追加されている。新しいスキルに変化した感じ。明らかに鑑定が組み込まれた、空間探査とは何なのか感覚的に解る。従来の探査に加えて俯瞰して見るバーズ・ビュー的な新しい視覚イメージが可能であること。
高い上空から地上を見下ろしている。その視覚イメージに探査結果が重なる。ダンジョン内でも行ける。そして、鑑定と並列思考のおかげで自動マッピング。ゲームマップだな、こりゃ。これで、より速い探査結果の把握が可能。
これってもしかして、この探査マップ上で、魔法の照準出来るのかもしれない? いや、そりゃさすがに無いか。
更に感じるのは、鑑定とのもう一つの組み合わせ。完全では無さそうだが、見えてる探査マップに鑑定結果を意識的に重ねることができる。一度視認鑑定すれば、それをトレースできるのか。凄いな。制限はありそうだけど、距離とか。
そして「並列思考」と「鑑定」がレベルアップ。鑑定は「総合鑑定」に変化。
まあ、これが頭痛の原因。とは言え、これが上がったからこそ、俯瞰視点が可能になったのだろう。
「ふぅ…、皆さんご迷惑おかけしました」
「気にするな」
と、ウィルさん。
「探査スキルが、進化というか上がりました。
えっと、鳥が高い上空から地上を見てる、そんなイメージしてもらえますか…
そういう視点が確保できるということ、そして、そこに探査の結果が重なります」
「ほう…そりゃいいな。脳内探査マップってやつだな」
とウィルさん。上手いこと言うね。
エリーゼが言う。
「シュン、俯瞰視点スキルが組み込まれた感じなのね」
「あー、そんなスキル既にあるんだ。そう、それであってると思う」
「エルフには時々現れるスキルだと、聞いたことがあるよ」
てことはエリーゼにも、そのうち使えるかもしれないな。
「ただね、エリーゼ。その俯瞰視点のは、まだ範囲が狭くて、探査の広範囲のには全然追い付いてない。少し検証は必要だけど」
この際、食事してしまおうということになり、割り切って腹いっぱい皆で食べた。探査はずっとしてるので、魔物が近づいてきたら、この場所なら結構早くに解るからやっつけるだけだし。
「ダンジョンってこんなに寛いでいい物なのか?」
シャーリーさんが笑う。
「ずっと張り詰めていても、長続きしないからな」
ウィルさんもそう言って笑う。
そしてセイシェリスさんも。
「そうね。リラックスできるというのは、とても大切だと思うわ。まあ、普通は安全地帯でそうするんだろうけど」
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