第6章 女神は何でも知っている
第57話
「双頭龍の宿」の庭でバーベキュー。発起人はマスター。宿の開業から50周年という話。マスターのお祖父さんが起業して、かれこれ3代目。
日頃のご愛顧に感謝して、という感じだね。
最初はもう少しこじんまりした話だったんだけど、ここを常宿にしている商人の人達が乗り気になってしまったり、外食に来る人達も期待したりしてそれに合わせるように規模が大きくなってしまったということ。
エリーゼはその準備の手伝いで前日から忙しくしている。俺は食材の買い入れの手伝いと会場の設営だったが、それも終わってお役御免状態。
さてバーベキュー本番。
結局は近所の人もたくさん招いて大盛況。俺は裏方コーナーの焼き物係に急遽就任。その場で自分達の分も好きなのを焼いてエリーゼと一緒に食べたりしている。
「シュンさん、エリーゼちゃん。そろそろ手伝いはいいですから、あっちでしっかり食べてくださいね」
イリヤさんはそう言ってくれるが、最初テーブルを置いた来客用スペースに居たらエリーゼにちょっかい掛けてくる奴が沸いてしまって、二人してさっさと逃げてきた。だからここ裏方の方が楽だったりする。
「好きなの焼いて食べてますから、大丈夫です~」
「遠慮しないでくださいね」
「「はーい」」
翌日からのオークの横穴調査に備えてしっかり栄養補給できた。ベルディッシュさんに頼んでいたネックレス(首飾り)も間に合ったし、憂いなしって感じ…。
◇◇◇
横穴のすぐ近くにはキャンプ地が出来ていた。想像以上にテント村。
俺がウィルさんと無双した広場は整地されて、横穴を少し距離を開けてぐるりと囲むように要所には土壁、そして塀が建てられていて、見張り小屋のような物までできていた。
テントの中でギルド職員らと打ち合わせ。先行したパーティーが持ち帰った最新情報を受け取る。
そしてこの調査で初めて中でオークの群れに遭遇したことも詳しく聴く。そのせいで中の調査は一時中断されて、横穴前での防御に重点を置いた状況だと。
思ってたより調査が進んでいないんだなと少し拍子抜け。まあ、そんなことは口にしないけど。
「全然進んでないんだな~」
と、空気読まない子代表シャーリーさんは、ポカっとセイシェリスさんに頭を叩かれて蹲る。
俺達だけの打ち合わせと食事にするということで、5人だけになってからセイシェリスさん達に次々と首飾りを渡す。
これは? という3人の疑問の目にエリーゼが回答。
「私達は既に身に着けて使ってるんですけど、シュンが作った魔法アクセサリです」
「「「え?」」」
俺が補足説明。
「魔道具、というか正確には魔法付与アイテムです。意識して発動させる必要はありません。着けてるだけで効果が出ます」
「いやいや、それって…」
と、セイシェリスさんが言いかけるが。
「なにか少しでも役に立つものを、と思ったのと…、エリーゼがこれは女性の味方だと絶賛してくれたので。あ、男性でも意味がありますからウィルさん安心してください」
「「詳しく!」」
「効果は3つ。除菌、清浄、消臭、ですね。装着者の身体表面全体で作用します。俺は『
実は、この察知に引っかからないという部分が、時空魔法の極致だったりする。
ここの所を突き詰めると、神の加護、祝福みたいな感じになるんだろうなと俺は思ってる。
その後、女三人でこそこそと話し合いをしていたが。
「シュン、ありがたく使わせてもらう」
「はい。それは俺とエリーゼからいつもの皆さんの親切へのお礼ですから、どうぞ、ずっと使ってください」
「貸してくれるだけかと思ったら、シュンとエリーゼからのプレゼント! やった!」
「女の味方、なるほどな。うん、消臭は大事だな」
そんなウィルさんにセイシェリスさんが言う。
「あんたが一番臭いんだからね。ちゃんと着けてなさいよ」
食事を終えてテントを出て、横穴をなんとなく立ち止まって見ていたら、やはり立ち止まったウィルさんと目が合う。
「俺らあの時、結構頑張ったよな、シュン」
「はい。ウィルさんに背中守ってもらってましたからね。頑張りましたとも」
「大群がちらっと見えて、シュンの『エリーゼ逃げろ!』って声が聞こえて、私は、もう駄目かと思ったんだぞ」
シャーリーさんは、そう言って俺とウィルさんの背中を叩く。
その後もわいわいと3人で騒いでいたら、セイシェリスさんからの喝。
「はーい、そこまで。あの時は運が良かったわ。今日はその運を使う日じゃない。謙虚に、慎重に進める日よ、気を引き締めて」
「了解!」
「うっす」
「らじゃ」
エリーゼは、うんうんと頷いている。
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