第56話
「よく、オーガと話してみようなんて思ったわね」
フレイヤさんはそう言った。
ガスランのことについて、何かもっと手がかりを見つけたい調べたいと思った俺とエリーゼ。ここは業界の生き字引、困った時のフレイヤ先生である。
「ホントそれです。私も、何してくれてるんだろうこの人って思いました」
エリーゼは今更、もう一度呆れてる雰囲気。
「鑑定で『ハイオーガ』と見れなかったら、多分話はしなかったと思います」
「でもシュン君、エリーゼ。かなり興味深いわ」
フレイヤさんが言うには、過去に魔物が喋ったという逸話のような物はあるらしいが、信ぴょう性はかなり薄いというのが定説らしい。
俺はフレイヤさんには言ってなかった話を思い出した。荒唐無稽な話だと思われるのがオチだと思って、言わずにいたこと。
「これ言ってなかったんですけど、オークキングを倒した時にですね」
「ちょっと、報告漏れなの? まあいいわ。続けて」
フレイヤさんは少し眉をひそめるが続きを促した。
「すみません。キングと3合ぐらい撃ち合ったんです。そして、奴の剣を弾き飛ばす直前に、俺『甘い』って言ったんですよ、つい…。
で、そのあとの奴の反応というか、言葉が解ってるような気がしたんです。結局、最後までただ俺を睨んでただけでしたけど。でも、魔物でも言葉が解るのが居るんじゃないかと、その時から…」
「そう…」
フレイヤさんは考え込む。そして
「上位種に変異種ね…。ハイオーガは変異種。変異種というのは、どう変異しているかは個体でバラつきがあるわ。だから、特に知能が発達した個体が生まれても不思議ではないのかもしれないわね」
「あの…。フレイヤさん、お願いがあるんですが」
「珍しいわね。そういう改まったお願いをしてくるシュン君は」
「ハイオーガ、もしくはオーガを飼育。というか自分の子供のように育てたんだと思うんですが、そういう人が居たか調べられませんか。おそらくその人が、ガスランという名前を付け、言葉を教えたんだろうと思うんです。但しその人はもう居ない、亡くなってる可能性が高いと思います」
「バルマレ村近辺から調べる方がいいわね。解ったわ。特別に人を割くことはできないでしょうけど、何とか情報を集めてみましょう」
「お願いします」
俺とエリーゼは頭を下げた。
救いは、ガスランが居る辺りは魔物と言えばゴブリンがパラパラといる程度なので、あいつがそう簡単にやられることは無いだろうということ。冒険者もあの辺は旨味が無い地域として見ている感じで、あまり話題にならない地域。村の人もノンビリした平和な村だと言ってたしね。
翌日。まずはベルディッシュさんの店に行って、新防具の具合などを報告。特に問題は無いのだが、使った感じを言いに来いと言われていたので。
「少し調整しよう。30分もあれば済む。卸したてが肝心だからな」
と言うので、お願いすることに。
清浄の首飾り(なんとなく名付けたら、鑑定でもそうなってしまっていた。それは俺の脳内変換のせいだと思うけど)は、効果高かったようだ。エリーゼは大絶賛。
「シュン、これはね。女性の味方よ」
だそうだ。
なんか、しばらく着ているとシャツも綺麗になってる気がするとかなんとか。
それも気のせいじゃないの、と思ったが…。まあ、それで特に支障がある訳でもないし、身体に付着した物という定義の部分だろうなぁ、なんて思った。
だとすると、判りやすいのは下着だな。そう思ったけれど、女の子には聞けないので、あとで自分で検証しよう。
ん? エリーゼ…。実は下着でそんな効果に気が付いたんじゃないのか。そう思ったが俺は紳士だ。そんなこと絶対に聞かないし言わない。
エリーゼ絶賛ということなので、同じネックレス(首飾り)を親父さんに5個注文。全く同じのは芸が無いので色違いみたいのとか、基本の型は違わない範囲でエリーゼと話して決めた。かなり高くついたけど、成金なので問題ない。
あのオークキングから近隣のオークが呼び集められた影響か、元々はオークの生息域だった所で魔物の動きが活発化しているらしい。その対処という感じの依頼が複数出ている。俺達はCランクになっているので、もう低ランク向けの依頼を受けるのは原則できなくなっている。なので中ランク向けの依頼を見ていると…。
「アウルベア目撃あり。安全の為に討伐対象とする、素材食材としても求む、か…。梟と熊が合体した魔物だったっけ」
「シュン? 顔が梟みたいに見えるってだけで、普通に熊の魔物よ」
そうだったのか。
場所を変えて資料室でアウルベア情報を。
「ふむ…。アウルベアがオーク不在で増えた獲物に釣られて降りてきた。そういうことかな。オークの集団が面倒で避けてた可能性ももしかしたらあるかも」
「そうね…。あと、アウルベアは基本的に単独行動で群れを作ることは親子連れの場合のみって書いてるから、相手するのは少なそうだけど強いのね」
エリーゼって、本とかでも読むの速いんだよね。
俺も、アウルベアの資料を流し読みしながら言う。
「親子連れの母親アウルベアは個体によっては危険度Cランクとあるから、中ランク向けなのはこれが理由だな」
そうやって、いつものように魔物についての情報収集とその検討をギルドの資料室で二人であーだこーだと話していたら、
「シュンさん、エリーゼさん。お久しぶりです」
と、ミレディさん。
相変わらずお綺麗です。女神様かと思いました…。
すかさず指輪がググッ、と。このレスポンスの早さはホント神業。
そんな心のうちは表に出さず。
「お久しぶりです」
「二人の声が聞こえて来て、思わず声をかけてしまいました。失礼しました」
「あ、なんかすみません。騒がしかったですか」
ここは冒険者ギルドだ。騒がしいに決まってるのだが、なぜか2階にあるこの資料室は人が少なくていつも静かなので、俺達は愛用している。
ミレディさんもそれは同じだったようだ。
「私も空いてる時間は時々ここに来るんですよ」
その後、エリーゼがミレディさんに、魔法発動イメージについて質問したり相談したり。エリーゼは、クリーン魔法大好きっ子だからね。
そういうのなら俺に聞いてくれれば、と思ってたら…。そんな気持ちがそのまま顔に出てたみたいで
「シュンに聞いても、紫外線? 赤外線とか、電気? よく解らないニホンの言葉が多いから」
だと。
アウルベアの討伐は、2匹やって終わりにした。こいつらって、1匹の縄張りが凄く広いのね。1匹やっと見つけたと思って討伐しても、まずその近くには他のアウルベアは居ない。次に行くのに相当苦労する。それに気が付いた俺達は、早々に撤退。
「狙って倒す魔物じゃないよな」
「ほんとそれ」
初心者冒険者には、まだまだ学ぶべきことが多いのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます