第29話 護衛任務
スウェーガルニの街区を囲む外壁、夜間には、そこをくぐる東西南北の4つの門の扉は閉じられる。但し、その大きな扉に隣接する小さな扉は、門番との小窓を介したやり取りを要するものの、正規の証明書を持つ者に限り出入り可能である。
夕食も済ませ、既に日が落ちた時刻。
エリーゼに「ちょっと壁外に出てくる。試したいことがあるんだ」と言って、俺は壁外に。外農地の民家も街の灯りも見えない辺りまで来て、魔法のイメージを作る。
セイシェリスさんが何度も見せてくれたからこそ、細かい部分が理解できる。
事象に変幻する直前の魔法の在り様。
雷は、静電気の蓄積、プラス、マイナス… 絶縁。弾ける…。
光にマナから…。魔素の方がいいのか。光の方向、摩擦。蓄積も一瞬で。開放。
試行錯誤を繰り返し、少ない日本時代の知識からもイメージしてみる。
ああ、魔法創造のスキルが発動した。楽になってくる。
朧気に魔法式のようなものが見えてくる。これは女神の恩恵…
球状になる光魔法のライトとは異なる、小さな光の円盤、
高さがほとんどない円筒、小さなコインのようなもの、そこから少し下に…
パチッ
何時間やってただろうか、遂に静電気の火花ようなものが発生した。
火魔法使えてたら、これ楽だったのかな。でも俺は光魔法からアプローチするしかないし、まあ、ラッキーと思った方がいいかもね。
ステータスパネルを確認。
雷魔法Lv1
セイシェリスさんも言ってたから驚きはしないんだけど、わざわざ単独の魔法属性として別になっているのは大きな意味があるんだろう。この世界のステータスやスキルなんかのシステムって、よく解らない基準が多いな。
よし。エリーゼが心配してるかも、さっさと帰ろう。
明日からは、これを鍛えていかないと。
パチッ、パチッ
嬉しくて、帰りながら何度も繰り返す。
朝。朝訓練は休みにしてたので寝坊。ま、半分ぐらいは起きてるんだけど。
「シュン、起っきて~ 仕事っだよ~」
朝から、いや最近はいつもか。テンション高いエリーゼ。
ほらほら、って。
お前は俺のお袋か。
やっぱ、鍵かけないとな。
自動察知有るからか、緩みすぎかもしれん。
ま、双頭龍の宿のセキュリティも、なかなか優秀なんだけどね。
あ、お袋にエリーゼ紹介したら、ぶっ飛びまくるだろうな~
面白そうだから、ぜひ実現してみたい。
女神様、検討よろしく。
と、能天気なこと考えてたら、やっと本格的に覚醒してきた。さあ、お仕事頑張りましょう。エリーゼに叱られないように、しっかりやらないと!
さて、集合場所に全員が集まり、エルンストさんに挨拶。そしてお嬢さんとメイドさんにも、セイシェリスさんから紹介されて、俺達は頭を下げる。
「あなた方が、アルヴィースのお二人なのですね。よろしくお願いします」
と、メイドのマギーさん。
お嬢さんの方は、ルナマリアさん。
御者として、ヘイズという、エルンストさんの所で下働きをしている男性。
マギーさんが、俺達二人をわざわざ確認したのは、お嬢さんのルナマリアさんが16歳で、同年代だからだそうだ。
ルナマリアさんは、ただ少し微笑んでいるだけで、特に何も話さなかった。マギーさん曰く、今朝は体調があまりよくないとのこと。ただ昼頃になればおそらく大丈夫と。
ふむ、血圧低いのかな…。朝ごはんちゃんと食べてるのかな。
セイシェリスさんとウィルさん、マギーさんが、荷物の確認と、行程、要員の配置などの話をしている間に、こちらの地理に明るくない俺は、ギルドから借りている地図で、過去、盗賊や魔物が出た場所などを一通り見ていく。
あ、メイドに期待していた頃が俺にもありましたが、ちょっとイメージ違いました。マギーさんは30歳ぐらい。とても凛とした、全身ほぼ黒の服を着ている、社長秘書のような雰囲気の人でしたので。
護衛馬車の方は、ウィルさんが御者を兼ねる。最初にギルドで打ち合わせた時から
「シュンに覚えさせるからな。後半は俺に楽させてくれ」と言ってたし、
エリーゼが、
「私もできるから心配ない」
と言ってるので、気楽に行くことにしてる。
さてさて、準備に随分と手間取った感じがするが、やっと出発。こちらの世界の物事を進めるテンポというのは、少し違和感を感じる時がある。
まあ、逆に日本人が、常に分刻みのような、余裕のない生活に追われていたと言えるのかもしれないね。
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