第28話

 護衛任務に備えて、俺とエリーゼは初めてということもあり、ウィルさん達との合同の訓練を演習場で一度はしておこうという話になる。


 というのは建前で、まあ馬車護衛の基本みたいな話はみっちり聞かせられることにもなってるんだけど、要するにウィルさんが模擬戦をしたいのだ。


 日程も確定したので、出発の2日前の今日演習場に集合した。


 まずは準備運動。これ大切。エリーゼには口酸っぱくして言っていて、俺と一緒にいつもやらせているので大丈夫。


 さて、準備が整ってからはウィルさんとエリーゼが軽く打ち合いを始める。そして俺は二刀流に開眼したいなという思いで、セイシェリスさんとシャーリーさんの二人を相手に打ち合いを始める。もちろん、俺は木剣2本持ち。

 日本に居た時も、二刀流は少しやってはいたんだけどね。今の身体だと並列思考のおかげもあってか全然感覚が違う。


「セイシェ、シュンを挟み撃ちだ!」

 シャーリーさんがそう言って回り込み始めるが、いや、俺に聞こえてたら駄目でしょ。

 くるくると身体の向きを変えながら、こちらに届きそうな剣撃は全ていなしていく。そして軽く反撃のそぶり。

 シャーリーさんはフェイントにかかりやすい。


「スイスイと、この~!」

 シャーリーさんは手数だけは多い。そして戦闘中は口数も多い。対人の時だけらしいけど。

 解る。対人戦闘に慣れてないんだ。

 でも、こればかりはやり続けて慣れるしかないからね。


 二人の手数に合わせて俺も剣を振り始める。

 シャーリーさんの目線で解る。ふふっ、二刀流だからと言って左右交互に剣が振られると誰が決めた。左手だけでの連撃~。


 なんて遊んでると、セイシェリスさんも身体がほぐれてきたのか動きが速くなる。こっちもギアを上げる…。



 次第に打ち合いが激しくなって、しばらく経過してから小休憩。そして模擬戦。俺とウィルさん、セイシェリスさんとエリーゼ、シャーリーさんとエリーゼ、俺とセイシェリスさん+シャーリーさん、という感じで次々と。

 その後は、遠距離系の女性3人による演習場に立てられた的への魔法や弓による攻撃三昧。


 いい感じで皆が強くなっているのが解る。


 最後に俺は、セイシェリスさんから魔法を見せてもらったりコツやイメージの仕方などの実践的な講習を受ける。属性違いの魔法師同士であってもそれぞれのイメージの話をすることは大切、というのがフレイヤさん理論なので。

 そしてシャーリーさんは、自己強化・肉体強化系の魔法を見せてくれたりする。こっちはエリーゼが興味津々。


 今日一つ収穫があったのは、セイシェリスさんが見せてくれた雷魔法。火と光の組み合わせでイメージしたという話だった。それ自体はピンと来なかったのだけど、何かきっかけが掴めそうな感じがした。



  合同訓練が終わってギルドの建物内に在る有料のシャワー室でさっぱり。ここ結構高いんで、いつもはあまり利用しなくて演習場横の水場でタオルで拭く程度なんだけど、ウィルさんが、紳士の身だしなみだ。とか言って引っ張っていくので今日は特別。ちなみに、エリーゼ達も女3人で。


 その後はギルドロビー横の飲食スペース、通称ギルド酒場。そこでお茶。女性陣はシャワー長いので、まだウィルさんと俺の二人だけだ。


 すると急にすすっとウィルさんが俺に顔を近づけて、小さな声で言う。

「シュンお前。女遊びしたことあるか?」

 

 ぶふっと飲みかけていた物を吹き出しそうになる俺。


「いえ、無いっすよ…(正確には、この世界に来てからは、無い)」

 どうしてウィルさんに合わせて一緒に声を潜めているのか…。まあ、これは男同士の暗黙のマナー。


「そうか、やっぱりな…。そろそろ経験しといたほうが良くないか? 俺が17歳の頃なんて…」


「シュン君~」


 フレイヤさんの声がいきなり耳元で響いた。

 いや、貴女。風魔法使って声届かせてないですか? 耳元で凄くはっきり聞こえるんですけど~。


 ウィルさんは何事もなかったように、

「やっぱエール飲もうかな」

 なんて言い始めている。



 フレイヤさんから、今回の護衛依頼の書類を受け取る。今回のチームリーダーである、セイシェリスさんに渡せ、ということ。


「ねえシュン君。ウィルと男の友情を深めるのはいいけど、変なことは教わらなくていいのよ」

 フレイヤさんは、微笑みながらそう言った。フレイヤさん、その目怖いっす。



 翌日。


 護衛任務が始まる前日なので、休みにしていた。けれど野営もあるし、1週間という長丁場は俺もエリーゼも初めてなので、いろいろ持ってた方が良いものなどウィルさん達から聞いていた物の買い出しをする。


 移動中の食事は、依頼主側の人数が少ないということもあって護衛側も準備することになりマジックバッグが活躍する予定。と言っても出来合いばかりではなく、エリーゼは簡単な料理だけどちゃんとすると張り切ってる。

 まあでも、そこは万が一を考えて俺は結構多めに、屋台で買ったものやらいろいろ自分のバッグに収納していく。腐らないし熱々の物もそのままだしね。元々買って入れている物も結構たくさんあるんだけど、気にしない。

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