第27話

 最近では、オークがぽつぽつと現れる魔物の領域まで入るようになっていた。エリーゼの実力が上がってきた証だ。そして、本格的にオークの討伐依頼を受注することにした俺達は、効率よく討伐するためにはまずはオークの生息域の把握を進めようと、目撃情報などを吟味しながら現地の実態調査を行っていた。


 ところが、いきなりオークの群れである。


「うーん、捕捉されてるような気がするな。て言うか、嗅覚とか? こっち風上に変わってるし」

「そうなのかな。どうする? 匂い玉使っちゃう?」

 と、エリーゼはピンク色のボールを取り出す。


 探査で群れは把握できていたので、もう少し奥も調べようと群れを迂回しながら進んでいた。オークの群れは、そんな俺達を包囲しようと考えたのか少し散開しながらそれぞれが近付いて来ているような動き。結構動きは速い。


 なんか探査のし合いでオークに負けてる気がして癪なんだけど、エリーゼの言葉に頷く。

 エリーゼが少し離れた所へボールを放り投げる。地面に落ちたボールから、水蒸気のような水しぶきのようなものが拡散する。人間の鼻にはそれほどではないが、獣や魔物には一時的に鼻が利かなくなる効果がある、らしい。


「シュン、このまま逃げるつもりはないでしょ?」

 全速力で離脱の為に走りながら、エリーゼがニヤッと笑いながら聞いてくる。


「とーぜん!」


 一旦は来た方向に走ってから、もう一度群れが居る所を大きく、さっきの逆から迂回する方向へと急いだ。そして、散開してばらけ始めているオークの群れの端から順次接敵していくように。


「見えた」

「見えた、1に矢、シュンは2で」

「了解~」


 エリーゼが俺の背後から放った矢が、1匹目のオークの胸と首に2本刺さる。俺はそれを横目で確認してから、少し先に居る2匹目に切り掛かった…。



 群れは全部で8匹居た。エリーゼが3匹倒して、残りは俺。タフさ硬さはゴブリンより数段上だが、俺が切るとまあほぼ一刀両断。しかしエリーゼが矢で一撃で倒した個体もあった。オークを矢で一撃というのは、大したものだと俺は思う。

 エリーゼは少し前から、威力が強い弓に変えている。その弓に慣れるため集中的に練習を繰り返していたが、使いこなしてきているということなのだろう。朝訓練など日々の訓練を続けたおかげで、筋力などが大幅アップしているからこそなせる業。


 オークは素材や食材として使える部分が多い。なので、マジックバッグに収納していく。解体と魔石の取り出しは後でゆっくり、街の近くかギルドに戻ってからやる。ギルドにそのまま渡してしまってもいいし。


 ベルディッシュさんに依頼したバッグは、レッサーワイバーンの革などを素材として、ベルディッシュさん古くからの知り合いという縫製職人の手も借りて出来上がった。

 それが、俺とエリーゼのそれぞれのメインのバッグとして二つ。見た目はとても小さく薄く、ベルトで装着して走った際に揺れないよう固定できるタイプ。要所要所に鋲を打つなどして、頑丈さはベルディッシュさんお墨付きの一品。

 このバッグ、いや厳密には大きさ形的にポーチだが、これは通常のポーチして物理的にも使える。そもそも小さいから、財布を入れたりとか、ポーションが数個とか、その程度だけど。


 そして俺が最初に作った可愛いのは、新しいウエストポーチと同様に物理的にも使える改造を施して、予定通りエリーゼのプライベート用となった。エリーゼは遠慮しまくりだったが、駄目、女の子なんだから当たり前と言って説得した。


 それにしても、マジックバッグを持つようになってからほとんど手ぶら状態で居れるというのは非常に大きなアドバンテージだ。この一点だけでも、マジックバッグを使う意味は大きい。



 オークの討伐の報告と解体依頼、という話をフレイヤさんにして解体倉庫に3人で入った。この倉庫は、魔道具で冷やされている冷蔵庫・冷凍庫みたいな作りなので、長居すると寒い。


「全部出しますね」

 俺はそう言って、ダダダっと収納していたオークの死体全てを倉庫に並べる。


「討伐部位は、今ここで取っちゃおう」

 フレイヤさんのその指示で3人でさっさと済ませてしまう。魔石は解体しながらの方がいいと言うので、それはギルドの担当の人にお願いすることに。魔石を換金するか持ち帰るかは、あとで変更して構わないと。

 そして、その解体はおそらく明日いっぱいはかかるだろう。明日の夕方には状況が解るようにしておく、とのこと。


 ギルドのロビーに戻って、ちょっと話、しよっか。というフレイヤさんに連れられて3人でいつもの談話室に。


「オーク余裕だった?」

 フレイヤさんは、エリーゼにそう尋ねる。


「シュンが居ますから」

「あー、愚問でした」

 女性二人で笑い始める。



 打ち合わせがあった護衛依頼の件は日程が確定したようで、どうやら3日後の朝出発とのこと。

「セイシェリスからの連絡も入るだろうけど、そういうことだから」


 そして、以前、俺が転移した日にゴブリンから回収した、例の剣について。


 エリーゼにもその剣についての話は全てしていて、ベルディッシュさんの念入りな剣のメンテが終わった時に一緒に仕上がりを見に行ったりしている。


 剣の持ち主はやはり、行方不明になっていた。1年前の話らしい。そしてその女性は大公家の現当主の娘で当時18歳。剣の紋章などで先方も確認できたらしく、ギルドからの連絡にかなり驚かれたらしい。


「大公閣下ご本人にまずは連絡すべき類だということなんだけど、閣下が普段滞在されているのは王都なのよね。時間かかったのは、そのせい」


 王都までは、急いでも片道1ヶ月はかかるらしい。スウェーガルニがすごく田舎なのは間違いないけど、それだけ王国が広いということ。


 そして、フレイヤさんが推測した懸念を前提にしたゴブリンが活動している状況の調査については、大公家も是非とも協力したいという申し入れが、今回同時に届いたらしい。そういう懸念が仮に取り越し苦労だとしても、少しでも力になりたいと。


「大公閣下ご自身からの、とても丁寧な内容の手紙だったわ。そしてね、シュン君。ここからが本題よ。剣を回収してくれた人物に、直接会ってお礼を言いたいそうよ」


「あー、うーん…。ゴブリンキングの討伐に参加しろと言われる方が、まだ気が楽ですね…」

「シュン君の考えは理解しているつもりだから、ね。私も考えるから、シュン君もまた考えてみて」


 あとね、とフレイヤさんは続ける。

「娘さんが行方不明になったとされている場所が、かなり離れてるのよ。当時の詳しい状況については別に資料を送ってくれるらしいからそれを待つんだけど。それとシュン君が討伐した場所、埋めたゴブリンの装備なんかも回収したしね。そういう情報収集を重ねて、ゴブリンの状況についての調査に進展が望めるといいなと思ってるわ」

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