第30話
ふふっ、備えがあれば憂いは無い。
スウェーガルニを出て一路東へ。この道は異世界転移してきた日に歩いて通った道。ウィルさん達と最初に会った、例の剣を持ったゴブリンを倒した辺りはすぐに通り過ぎて、馬車は2時間に一度程度の休憩を取りながらゆっくり進んでいく。
この日は日差しが強くて、御者台に座っていると結構暑さを感じる。
そこで登場。備えてました。ベルディッシュさんにバッグを作ってもらった時に手伝ってもらった縫製職人にお願いして、作ってもらっていた野球帽。数日前に最後の調整が終わったと聞いて、昨日受け取って来たばかりのオリジナル新作。説明するの時間かかったし何度も形の調整してもらったし、そして高かったけど。色合いはグレーだから少し地味。でも、変に目立つ色じゃない方がいい。
なかなかいい感じと思ってる。ひさしの中には、硬い革で芯を作って入れた本格派。ちゃんと、後ろ側には締め具合を調整できるベルトも付いてる。ここの隙間から女の子がポニーテールっぽく縛った髪を出してるのとか、いいよね。あとでエリーゼにさせよう。
「変な形の帽子だな。ちゃんとしたの買えよ」
ウィルさんがひどいことを言うが、気にしない。
「俺の故郷では、若者だったらこういうのが普通なんですよ」
と反論しておく。ウィルさんは笑っている。
昼にしようとウィルさんが言ったのは、丁度、停車場とか街道駅と呼ばれる、馬車の停車スペースと休憩用の小屋、いざとなったら野営場所としても使えるそういう共同の場所が見えた時だった。
「時間的にはもう少し進んでもいいが、今のペースなら切りもいいしここで昼食にしてゆっくりしてもいいだろう」
「ですね」
後ろの馬車に手で合図をして停車場に入る。先に降りて停車場の様子を見るが、休憩スペースにも誰も居ない。まあ、気配無いから判ってるんだけど一応。お客さん達には、スキルで見えてるから大丈夫ですよ、なんて言えないしね。
無人だとセイシェリスさんへ合図をすると、セイシェリスさんは馬車の中へ声をかける。
シャーリーさんと一緒に、それぞれ馬車の馬を水場に連れていき、馬車に積んでいた飼い葉をあげる。シャーリーさんが馬に声をかけていて、なんか会話が成立してる雰囲気に笑いそうになる。
昼食は出来合いの物にする。わざわざ火を起こすのが面倒なのと、暑いから。
エルンストさん達も、マギーさんが配ったパンやスープで済ませるようだ。スープは冷たいままでも美味しい物を準備してたのかな。
俺はエリーゼと二人で、丁度木陰になった先頭馬車の御者台に座ってサンドイッチを食べる。ま、周囲の警戒の為でもある。
食べ終わって、エリーゼの髪を後ろで一つにまとめ直してあげてから帽子をかぶせてみる。
うん、いいね。ちょっとボーイッシュになって可愛い。
「あ、丁度、髪通すようになってるんだ」
「そうそう、こうしてると帽子飛んでいかないから」
シャーリーさんが、目ざとく
「あれ、いいなそれ。どこで買ったの?」
「シュンが、注文して作ってもらったんだって」
そんな風にわいわいやってるうちに昼休憩が終わる。もちろん警戒も怠ってないよ。
トイレを済ませて馬車に戻ると、周囲の景色を見ていたマギーさんから話しかけられる。
「皆さんとても仲が良いし優しいんですね。二つの冒険者パーティーの合同と聞いてたものですから少し心配してました。怖い人が居たりケンカしたりするのでは、と」
「いえ、その辺はギルドのフレイヤさんが気を使ったようです。お嬢様が同行されると聞いて、なるべく護衛側も女性が多くなるように、と思ったそうですから」
「そうだったんですか、それはありがたいことです」
午後からは俺とエリーゼで御者台に座る。と思ったらウィルさんも座る。
狭いよ。エリーゼが密着してくるから嬉しいけど。
「一人で馬車の中とか暇で眠ってしまいそうだ」
「寝ててもいいですよ。何かあればすぐ起こしますから」
「ま、そういう訳にはいかんわな」
という訳で、3人で御者台に座って馬車を進めていった。
俺も馬車の操作、歩かせてるだけだし、割とすぐできるようにはなったんだけど、お尻が痛いっす。
ゆっくり進んでてこれだから、もっと速く進んだら大変。街から離れて、道は凸凹増えてるし。
エリーゼがクッション持ってきてた理由がよく解った。
備え付けのクッションだけでは駄目だね。
あと、野球帽はエリーゼ優先となった。いや、元々そのつもりだったよ。
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