第18話

「シュン、ご飯食べよ~」

 エリーゼが部屋に入ってきた。


 おい、ノックぐらいしろ。てか、して下さい。


 俺だって年頃の男の子だぞ。

 たまには秘密の時間だって必要な、健康な男の子だぞ。


 あー、鍵かける習慣付けないと駄目だな、やっぱり。

 どうしても自宅の一部屋みたいな感覚が抜けない…。


 さて…、それはさて置き、エリーゼの打ち解け方がかなり半端ない。


 最初フレイヤさんから紹介された時の、いつも一人で本を読んでいる宇宙人の女の子のような、寡黙だけど可憐だったあの雰囲気はいったいどこに消失してしまったんだろうか。


 まあ、だけど本来はこういう娘なんだよね、きっと。

 嫌いじゃない。むしろ大好きなタイプです。言わないけど。


 石川先輩、元気にしてるかな…


 指輪が微かに震えた気がした。



 エリーゼと一緒に行ったベルディッシュさんの店から帰ってきて、例のごとく魔力操作等の訓練を昼飯食べるのも忘れて5時間ぐらい続けた。その後眠ってしまっていたので、食事に起こしてくれたのはありがたい。


 ベッドの横から俺を覗き込んでいるエリーゼに言う。

「もうそんな時間なんだ…。起こしてくれてサンキュ、食べよっか」



 そして夕食を食べながら、二人で今後の活動予定を話し合う。


「立ち入ったこと聞いてしまうけどさ、エリーゼ」


 ん? と、口に食べ物がたくさん入っているので目で続きを促すエリーゼ。


「経済状況というか、財布の中身は余裕ある? 先に言っとくと、俺は割と余裕あるから、何よりもお金を稼ぐこと優先とか、そういうのは今は無くていい。もしエリーゼが余裕ないって話なら、ぱぱっと集中的に二人で稼いでしまおう」


 ごくんと口の中の物を飲み込んだエリーゼ。


「うん、ありがと。気を使ってくれてるんだね。私はそんなたくさん持ってるって訳じゃないけど、無駄遣いしなければ当分のんびりできる感じだよ。それより、シュンがやってる訓練に興味があるかな。強くなる秘訣、的な? まあ、いい依頼があれば稼ぎたいとは当然思ってるけど」


「なるほど…。じゃあ明日の朝から早速、俺と一緒に訓練な」

「え?」


「講習会の時に思ったけど、エリーゼは体力不足な感じがした。特に持久力、筋力も足りないかな。だからしっかり鍛えていこう」


「はい…。ガンバリマス…」



 翌日から、そんな感じでエリーゼとトレーニングを始めた。持久力つける為には継続していくしかないと思うので、しばらくは可能な限り毎日やってみよう。オーバーワークには気を付けて、でも少し追い込んでみないといけないね。


 朝訓練にランニングを取り入れたので、これまでより早起き。朝起きて、ストレッチ、ランニング、筋トレ、剣の基礎訓練。

 エリーゼは短剣や剣も一応は扱えるので、強く要望されて俺が指導することに。慣れてくれば軽く剣を合わせてもいいかも。木剣買っとこうかな。


 経済的には、それほど焦ってギルドで依頼受けなくてもいい感じではあるんだけど、いろんな依頼を数多くこなすというのは、ステータス上の数値的な意味ではなく、人としての経験値として貴重だと思う自分も居る訳です。


 という訳で、朝訓練に割とついてこれてたエリーゼを見直した俺は、エリーゼと共にギルドへ向かった。


 依頼の掲示板を見るけれど、さすがにもう朝とは言えない時刻。争奪戦は既に終了しているので、残っているのは明らかに便利屋さん的な仕事か採取系ぐらいしかない。常設依頼のこともずっと頭にはあるけど取り敢えずエリーゼと相談だな、と思って振り向いたらフレイヤさんがニコニコ顔で俺を見て待っていた。


「シュン君、おはよう。今日は一人じゃないのね」


 いや、フレイヤさん貴女。いろいろ解ってて言ってるでしょ、絶対。


「おはようございます、フレイヤさん。はい、エリーゼと一緒にやっていこうと思いまして…まあ、そういう感じです。それで、何かお勧めの依頼とかあったら教えて頂けると嬉しいかな…、と」


 いや、照れてどうすんだ。並行思考よフル稼働してクールさを取り戻すんだ。

 ちなみに、エリーゼは知らん顔して掲示板を見ている。


「はーい。そういうことなら、まずはパーティー登録よ。エリーゼ、カード出して。シュン君もよ。そして、パーティー名を決めて教えてね。今日じゃなくてもいいけど早めにね」


 最初はからかわれてる雰囲気だったんだけど、フレイヤさんはホントに嬉しそうなんだよね。エリーゼのこと気にしてたんだろうな。同じエルフとして、という思いもあるだろうし。


「パーティー名…パーティー名…」


 ん? エリーゼがトリップしとる。


「シュン! パーティー名何にする?!」

 エリーゼ、顔が近い。俺の理性を削るな。


「お、落ち着け。焦って決めて良いことなんて無い。うん、そのうちな」


 というようなバタバタはあったが、まずは常設依頼でも気軽にやってみれば。というフレイヤさんの軽い言葉で、やっぱりそこからだなと納得。


 ついでに薬草採取について、エリーゼに教えてもらうことにする。


 エリーゼは植物に関することや森の恵みについては、やはりエルフらしく豊富な知識を持っている。ソロでの活動はもっぱら採取系ばかりだったようで、それもあって薬草採取についても造詣が深い。


 採取に必要な器具の準備をエリーゼにアドバイスを受けながら済ませると、もう昼時になっていた。簡単に食べられるように屋台で二人分のサンドイッチを買ってから街を出る。


 今回の狙いは、薬草採取と常設の討伐対象のゴブリンやコボルト、ホーンラビットなど。エリーゼが良く薬草採取をしていた所から足を延ばして、魔物の生息域まで近づいてみようという計画。とは言えもう昼で、時間がそんなにある訳ではないので、今日は取り敢えず行ってみるという程度になりそう。


 常設の討伐対象として指定されている魔物は、相手が単体でEランクパーティー、集団だとDランクパーティーで対応することが推奨されている。結構、安全マージンを多めに取ってる線引きな気もするね。


 ちなみに、スライムは益獣の一面があるので魔石は買い取り対象だが特に討伐が推奨されている訳ではない。討伐対象として指定されるのは異常発生が確認されたときぐらいだそうだ。


 薬草採取の穴場だよと言うエリーゼに連れられてやってきた林の合間に在るような草原で、薬草の見分け方として、間違いやすい物と比較して説明してくれるエリーゼ先生。


 更に実際の採取の仕方と留意点など、幅広く教えてくれる。


 予想以上に結構楽しい。


 そうして採取を続けているうちに、一度に持ち込む分としては十分だというエリーゼの言葉で採取を終わりにして、計画の次の項目である魔物が居そうな場所を目指すことにする。


 探査(能動的積極的に気配察知スキルを広く使って気配を得る時は、こっちの言葉の方がしっくりくる)をしながら、山に近づく方へ歩き始めてしばらくするとヒットする反応。

 ちなみに、転移後に初めてゴブリンと遭遇した時に気配を教えてくれたような、常時発動している形の自動気配察知とでも呼ぶべきスキルの使い方だと、範囲がそんなに広くはない。良くて半径300メートル程度。今使ってる能動的な探査だともっと広い。


「エリーゼ、居るよ。ちょっと先だけど、えっとね…数が結構多いな…」

「どのくらいの距離? 数は?」


 俺は、ほぼ進行方向だった南西の方を指で示して、

「この方角。1キロぐらいかな。数は10? 魔物の種類は…、ごめん。判らないけど動物じゃないのは確実」


「そっちは、確か水場があるんじゃなかったかな。ちゃんと偵察すべきよね」

「おっしゃる通りです。いきなり飛び込むことはしません」


 エリーゼが笑う。間違いなく、すぐに突っ込んで行った講習会の時の狩りを思い出したんだよね。俺もそれを頭に思い浮かべていた。反省点として。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る