第15話
ギルドには演習場というものがあるらしい。ま、ただの広い空き地な訳なんだが。
初心者講習が終わった翌日、俺はウィルさんと約束し(約束させられ)ていたので、昼食後にはギルドに向かうことにしている。
今日も朝から宿の庭で、身体を動かしてレベルアップに伴う身体の感覚の確認作業をした。なんか最初ほどには苦労せずに馴染んでしまってる気がする。ステータスの上り幅は相変わらずなんだけどね。
屋台の買い食いで昼食を済ませた俺は、ギルドに入って飲食スペースの辺りを見渡す。あ、居た居た。既に気が付いてくれて手を振っているウィルさんのテーブルへ。
「なんか飲むか?」
ウィルさんのその声に断りを入れると、んじゃ早速。とウィルさんに連れられて演習場へ向かう。
途中、妙に周囲からの視線が気になる。またこの前みたいな奴が居ると嫌だなと思ってしまう。簡単にやられることはないと解っていても、害意や悪意を向けられることそのものが嫌だから。正直ほっといて欲しい。
今日はウィルさんと剣の訓練。Bランク冒険者のウィルさんの実力は昨日まで一緒に居た間にある程度は理解できているつもりだけど、対人戦という異なる状況は、それとはまた別のものだろう。それに、講習の時は弱い魔物しか居なかったからね。
木剣を手にしてウォーミングアップ。軽いなぁ…。これ以上のだと極端に大きい超大型剣タイプしかなさそうなので、諦める。
そして互いに準備ができたところで、まずは軽い打ち合いから、足は止めて打ち合う形。
少しずつ剣戟の速さを上げてくるウィルさんに合わせてこちらも上げていく。逸らし、時には力業で剣をぶつける、押して引いて、フェイントの応酬も始まる。
あ、この感じ。楽しいかも。
ウィルさんも楽しげな表情をしている。
かなり長い間そうやって二人で楽しんでいるうちに、ギャラリーが増えていることに気が付いた。
「ストーップ」
この声を発したのはあの日、ウィルさんと一緒に馬車に乗っていた女性。
ウィルさんと同時に手を止めて、その声の持ち主を見る。
相変わらず綺麗な人だな…。
タオルを持って近付いてきた彼女に「お久しぶりです」と挨拶をすると、ニコニコ微笑んで頭をクシャっとされる。
「ありがとう、ウィルの相手をしてくれて。はいタオル。飲み物はベンチのとこに持ってきてるから、来て」
演習場横のベンチに3人で座り、ウィルさんからその女性、セイシェリスさんのことを改めて紹介される。セイシェリスさんもBランク冒険者。
冒険者になった時から、この二人だけはずっと一緒に同じパーティーでやってきている関係だと。
「この髪の色見ても判ると思うけど、俺ら従兄妹同士なんだわ。ま、今じゃ腐れ縁」
と言ってウィルさんは笑う。
その小休憩の後、最初よりも長い時間、そして剣戟もどんどん速くなって、いい訓練になってる気がしてきた。とは言っても、当然俺は100%ではやってないんだけど、型にはまらない型のようなもの。それを意識して感覚的に剣を振るのが楽しくて仕方なかった。
ウィルさんは時折びっくりしたり、嬉しがったり忙しい。多分、俺も同じような状態なんだろう。
そして、ギルドに申請していた演習場使用時間が終わり、その日の訓練を終えた。
「剣バカコンビ、お疲れさま」
そう言って、ずっと俺達の訓練を見続けていたセイシェリスさんが笑った。
ギルドの飲食スペースに戻って飲み物を頼んでいると、フレイヤさんが小走りでカウンターの中を移動しながら小さく俺に手を振っている。忙しそうな感じがしたので、俺はちょこっと頭を下げるだけにしておく。
飲み物は約束通りウィルさんの奢り。このくらいじゃ約束を果たしたうちには入らないと言ってたけど。
「そっか、フレイヤも一緒だったって言ってたわね」
セイシェリスさんが、そう呟く。
ウィルさんが言うには、セイシェリスさんの目標はフレイヤさんだそうで、その話をされたセイシェリスさんは
「誰かれ構わずに、そんなこと暴露するな」
と、少し赤面してウィルさんの肩を叩く。
しばらく雑談して(もっぱら俺は聞き役だったけど)、俺は二人に挨拶をして宿に戻ることに。夕食までまだ時間はあるが、一人で考えたいことができていたから。
魔力操作Lv4
並列思考Lv1
フレイヤさんから魔力操作の訓練方法を教えられた俺は、その直後からずっと魔力操作訓練を続けている。眠っている間でも無自覚で続ける、それぐらいの気持ちで。
ウィルさんと剣を打ち合って楽しんでいた間もそれは同様で、但しギルドで害意や悪意みたいなものを感じてしまった俺は、意識的にそこからは気配察知も行っていた。無意識に感じとることができている気配察知を、講習時の狩りの時と同様に意識的に強く行っていたということ。
そして、ウィルさんとの訓練を終えた頃。急に頭がすっきり晴れやかになった気がした。スーッと頭の中が澄み切っていく感じ。あ、これ。脳内麻薬的な何かでハイになれる奴じゃないかと思ったほど。
直前には、魔力操作や察知でずっと頭を働かせ過ぎてるかな。模擬戦でもいろいろ考えながらだったから頭は使ってるし。頭がちょっと重い感じ…。酷使しすぎてるなと思っていたのが、あっという間に消えた。
そして確認したステータスにあったのが、並列思考Lv1。
おそらく意味はそのままだろう。楽に脳内でマルチ処理ができるのかな。また人間辞めていってる感が強まってる。どうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます