第14話
「シュン君は、近接戦闘とんでもないのね。お姉さんびっくり」
フレイヤさんは料理をしながらそう言った。
俺も手伝うと言ったんだけど、あらかじめ仕込んでマジックバッグに入れておいたシチューを温めるだけだと。
フレイヤさんが今回持ってきたマジックバッグは、経過時間を完全には止める効果がない物らしい。田舎ギルドが所有しているものだから廉価版だと言ってた。
時間停止のバッグか…。女神に埋め込まれた常識からの知識として存在は知ってるんだけど、いつか手に入れることできるかな。欲しいな…。
この小屋に着いて魔力の講習を受けた後、周囲を偵察してきたが特に気配を感じることは無かった。この分だと小屋からかなり離れないと意味がなく、そうして足を延ばしても日があるうちに安全が確保できる場所には戻れないと判断されて、この小屋で一泊することになった。
という訳で、絶賛食事タイムである。
「どうして、シュンはそんなに強いの。どんな訓練したらそうなれるの」
エリーゼさんが、いやエリーゼが食事の手を止めてそう尋ねてきた。
エリーゼは同い年だった。エルフは年齢が判らないよね。
フレイヤさんは、聞いてないけど多分かなりの年齢だと思う。もしかしたら俺の10倍ぐらいあるかも。
エリーゼさんと呼んでいたら、呼び捨てにしてほしいと。
えっ、と思って、俺17歳だからと言ったら
「私も。同い年」
だと。
フレイヤさんと並んでたら、少し年の離れた姉妹って感じなんだけどね。
「えっとね…。剣については、物心ついたら当たり前のように握ってたし、もうね。かなり鍛えられたよ。俺も好きだったし、楽しかったから良かったけど…」
俺は道場で剣を振ってた小さな頃を思い出して、ちょっとしんみりした気分。
「強さの理由って言ってもそれだけかな…。厳しく言われ続けていたせいで、ずっと、目と身体の速さと体幹を鍛えて維持することは続けてる。そして、いざとなったら手足や頭突きとか全部使ってでも噛みついてでも、その辺に落ちてる棒切れや石ころ使ってでも、とかは俺の流派のせいもあって意識してるけどね」
「その剣、シュンが使うからあんなに切れるの?」
エリーゼは俺の剣を指差してそう言った。
「いや。この剣は多分だけど、目立たないようにと言うか、わざとみすぼらしくしてるんだと思う。鞘とか束とか特にね。いい剣だよ。俺にはもったいないぐらい…。 ただこの剣は凄くいい物なんだけど、俺がずっとやって来た流派は、刀っていう…。この辺りには無さそうな形の剣を使う剣術なんだよね。だから刀が使いたいなというのはやっぱり思ってて、俺は刀持ったらもっと強くなれるかもって。この剣には悪いけど、正直そう思ってる。あ、話がそれちゃったか…」
先生のお二人さん、そこで清聴するのやめません?
ウィルさんが、
「シュンは、ニホンから来たって言ってたよな。カタナというのは…」
「はい、そうです。刀は日本の伝統的な剣です。ていうか刀は刀で剣じゃないんですよね、全く別の物だと言っていいかもです」
「シュン君、私は随分昔にカタナ鍛冶という職人さんの噂を聞いたことがあるよ」
フレイヤさんの爆弾発言キター
「マジですか!」
「マジです」
フレイヤさんも皆も笑う。
刀鍛冶についてはフレイヤさんが宿題にさせてと言ったので、構いません。お願いします。情報欲しいですと頭を下げた。
フレイヤさんが続けて言う。
「シュン君違ってたらごめんね。シュン君は、対人近接戦闘特化型だよね。魔物相手より人を相手にした戦闘訓練ばかりしてた?」
「よく解りますね。その通りです」
うんうん、とフレイヤさんが頷いて続ける。
「敵を見る視線かな…。駆け引きしようとしてるみたいな、視線の高さとか幅? そんな感じね」
「あ、それ自分でも解ります。長い間の癖というんでしょうか。やっぱ見る人が見れば解りますよね」
「すごいな。フレイヤ」
ウィルさんが茶化すように言った。
そして続けて言う。
「俺は、そこまで細かいことは解らなかったけど、剣を持った時のシュンの構え見て、こんなの相手したくねえとは思ったな」
皆が笑う。
俺はウィルさんに向かって頭を下げる。
「いえ、でも今日は勉強になりました。ウィルさんにいろいろ聞けて。俺って、一人で戦うことしか出来なくて、集団で戦う時のこととか本当に知りたかったんです」
「えー、でもお前。エリーゼに気を使いながら動いてただろ。あれを積み重ねていけばいいぞ。まあ、俺だったらこうするとか、そういう話しか今日もしてないからな。参考程度にしててくれ」
食事を済ませた後、お茶を飲みながら寝るまでの時間を過ごす。
見張りは二人ずつ交代でする。窓からで良いだろうというので割と楽かも。
俺とフレイヤさんが最初の番になったけど、まだ消灯しないで皆起きてる。
「そうだ、シュン君。街に帰ったらEランクに上げちゃうからね。エリーゼはもう少し訓練積もうね。魔法もしっかり訓練。あと依頼で絶対に無理しちゃだめよ。冒険は生きて帰るのが最大の目標です」
とフレイヤさんは言った。
エリーゼは唇を噛みしめて頷いていた。そして俺を見て、ふっと微笑んだ。
翌日は朝早くから、小屋周辺から次第に範囲を広げて魔物を探してみた。
足跡などを辿ったエリーゼに従い一つ尾根を越えると、その辺りがどうやらコボルトの現在のテリトリーだったようで、そこからは一気に気配察知も使って奥へ攻め続けて、昨日より随分多い数の討伐。その後、日も傾いてきたので帰り始めることに。
「どうしてもゴブリンが気になるわね。もしかしてこいつらって思ってしまう」
フレイヤさんは俺にそう言って苦笑いを浮かべる。
帰りの道中は特に問題なく、街道に戻ってからは迎えの馬車に乗ってるだけのノンビリしたものだった。
そしてギルドに帰り着いて、全員のカードを手にしたフレイヤさんが皆に向かって言う。
「処理してしまうからもう少し待っててね。討伐報酬も出すわ」
その報酬は俺にしてみればなかなかのものだった。俺はレベルも上がったし、魔物との戦闘を何度も出来たし、魔力操作の訓練方法を教えて貰えたりなど、実り多い経験ができたと思っているので大満足。
今回は、冒険者として初めての仕事だった。講習という形ではあったが、この2日間のことを俺は多分一生忘れない。そんな気がした。
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