第11話

 毎日風呂に入れるというのは幸せなこと。

 風呂好き元日本人としては、温泉とか近くにあるんだったら行ってみたいと思う。


 イリヤさんが新しい石鹸使ってみてください。なんて言って渡してくれた石鹸は懐かしいような、花の香り? 日本でだったら匂いきつすぎると敬遠してたかもしれないけれど、今ならお気に入りとして登録してしまうかも。


 この世界、デルネベウムにはシャンプーは無いのかな。一応、髪を洗うための石鹸としてイリヤさんが別にしてるのはあるんだよね。少し泡立ちが違ってて、髪に優しい感じなんだろうな程度にしか思ってないんだけど。

 でも共同で使わせてもらっている立場なので、贅沢は言いません。


 この世界に転移して2日しか経ってないが、人との会話が楽しい。偶然に偶然を重ねているのか出会った人がいい人ばかりで、これも女神の思惑どおりの流れなんだろうかと思ってしまうと少し癪なので、女神と結び付けては考えないことにした。



 今夜は鑑定について考えてみる。スキルとして取得できているのは確かなのできっと行使できる筈だと考えてる。俺が抱いているイメージは、対象の物を見たらそれがどういうものかが判ってしまうような便利機能。もしくは偽物か本物か、その物の価値が判るとか、そういう感じかな。


 という訳で、絶賛鑑定中であります。

 宿の部屋にあるもの、ベッドや机など。そして着ている衣服や脱いでるブーツ。

 心の中で(鑑定!)と唱える感じで物を見ると発動してくれてるみたい。


 あー、判る。解る。なんとなくだけど、女神がくれた物とそうじゃない物の違いが判別できるし理解できる。不思議な感覚。ステータスウィンドウが見え始めた時に近い。元々は無かった感覚器官が新しく生まれてきたような。


 でも、もう少しなんだよね。もっとしっかりと感じ取れる次の段階があるはずだと、俺の腹の底からそう訴えかけてくる何かもやもやした雰囲気。


 じれったい?

 そうだ。

 もっとスキルを使って、鍛えて次の段階へ至れと俺の身体が言っている。



 同じ物でも、繰り返すと少しずつはっきり見えてくる感じが強くなるので、結構長い時間鑑定し続けていてさすがに疲れた。3時間ぐらいやってた。


 階下に降りて、まだ営業していた飲食スペースで宿屋のマスターにエールを注文。

 つまみは断ってエールだけをちびちびやりながら、ぼおっとする。


 グラスに入ったエールを鑑定する。

 あー、解る。


 エールは、身体に悪そうなものは入ってないみたいだな。いや、むしろ気持ちをリラックスさせる効果? 血流促進? その情報は知識からのもの? 鑑定で見たから得られた情報なの? うーん、その辺がまだ曖昧だな…


 マスターに、ご馳走さまとおやすみなさいを言って部屋に戻る。滞在期間の延長は大歓迎された。1ヶ月分を先払いしたからね。


 お金はかなり持ってる。と言うか、1年ぐらいは楽に生活できるんじゃないかと。

 こういうところは過保護になってくれている女神。


 あ、ニコニコと微笑む女神の顔を想像してしまった…。消えろ消えろ。


 今、宿の支払いした時も思ったけど、俺の財布は本当に不思議。おそらくは女神謹製のマジックアイテム。魔道具と言うと人が作った物の感じなので敢えて英語呼びしてみたけど、要するにこの財布はかさばらない。

 そして、なんとなく感じていることとしては、俺だけがこの財布からお金の出し入れができるようになってる。更には、中身の増減があっても重さ変化しないんじゃないかな。デルネベウム知識から類似のものを例として挙げるならマジックバッグ。

 違いは、俺の財布はどうやらお金専用みたいだということ。



 部屋に戻り、もう少し鑑定の続きをやろうと部屋の中を見渡しながら、そう言えばと思い出す。


 首から外して手に取ったネックレスの鑑定もしてみる。着けてて自然すぎるので普段は存在忘れがち。と言うか、完全に存在忘れているほど。だからこれについては初の鑑定。


 女神由来だという事。心の安寧。平常心。復活。俺にとっては到底お金なんかには替えられないほどの価値。俺の存在を支えてくれる物。創造神からの加護? が付与されてる? そんな風に感じ取れた。


 これって、常に身に着けていた方がいいみたいだ。

 なんとなくだけど、外してたら女神に叱られそうな気がしてきたし。


 まあ、女神由来なのに創造神からの加護? のところは若干疑問だが、これまで行った鑑定よりは少し具体的で、量的には多く把握できた感じ。



 さてさて、そういう訳で。気を取り直して。

 ここまで来たら再鑑定しますよ。当然ですね。


 そう、女神の分身臭い指輪ですよ。今日、鑑定訓練始めた時に真っ先に見てぼんやりとしか見えなかったけど、ネックレスについては、今かなり感じ取れたからね。おそらく鑑定スキルが、使うほどに刻々と進化してきている。



 鑑定始めてすぐ、指輪が輝き始めた。

 指から外れないので左手が輝いてる状態だけど、次第にそれが強くなってくる。


 女神の寵愛の証

 神性絶対防御

 空間接続

 継続の種子

 女神の心の欠片


 おーい、これってなんですか~~


 特に、心の欠片って…。貴女はメンタルケア専門のAIですか。



 冷静に考えてみよう。


 寵愛の証、それは解る。何かしらの効果があるのかは不明だけど、ステータスで見れる称号欄にも載ってる言葉だからね。


 神性絶対防御って…。なにそれ? 神聖じゃないんだよね。俺が脳内で変換ミスしてるんだったら考えても無駄だし、まあそれほど違う意味ではないことにしておこう。てか、絶対防御って怖すぎるんですけど。だって、その効果はどういうものなのか試してみた方がいいと思っても、試したくはないじゃん。指輪外れないし。試すってことは自分の身体張ることになるよね。


 ふぅ…、女神のやってくれてること全てが膨大過ぎて、今の俺はオーバーフロー状態。このまま指輪について考え続けたら徹夜になりそう。


 なのでさらっと、一通り流すことにして、


 空間接続、これはね。多分あれですよ。女神が降臨する時とか、それに万が一の時は助けに来るみたいなこと言ってた、そういう場合に俺と女神を繋ぐ座標っぽい働きをしてるんじゃないかと。この考えは満点じゃないだろうけど、不正解でもないと思う。


 継続の種子、については考えても無駄だと思う。漠然とし過ぎなのでこれは保留だね。女神に尋ねても、今は答えが得られるとは思えない。


 心の欠片、これが分身っぽく感じている理由なんだろう。正直、こんなことの為に心は砕くなよと説教したいとこだけど、俺の為にしてくれてる事なのは間違いないので、嬉しいやら勿体ないやらで、少し複雑。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る