第10話
鍛冶屋でついでに俺の剣の状態も見てもらったところ、
「これは…おい、これどこで手に入れたんだ」
と、なぜか鍛冶屋のおじさんに怒られている俺。
「えっとですね。女神からの授かりものというか、なんと言うかですね…」
指輪が小さくクスクスっと震えた気がした。
迂闊だったなと思っていた。みすぼらしく見えていても女神がくれた剣だ。
普通のものであるはずがない。
まさかこういう質問を受けるとは、想定してなかったなぁ…
俺は困り果てて、どう答えればいいのか真剣に悩んでると、
「あー、いや分かった。すまん答えなくていい」
首を横に振っておじさんがそう言った。
ふぅ…、見てくれは良くないけど、かなりいい剣だとは俺も思ってるんだよ。
だけど、どんな業物かなんて聞いてもないし、デルネベウム素人の俺には想像もできないんで何とも答えようがないんです。
「すみません。不正に入手したものではないんですが、そいつの出自についてはちょっと訳ありで、詳しいことは言えません」
「いや悪かった。俺の方こそ、つい我を忘れてしまった。ホントにすまんかった」
と鍛冶屋のおじさんからまた謝られた。
気を取り直すように笑顔に変わったおじさんは言う。
「それでこいつの状態だが、全く問題なしだ。そんなに使って無いだろ?」
てな感じで、我が愛剣についてはお墨付き頂きました。
例の女性用剣については、鍛冶屋のおじさんベルディッシュさんが責任もってピカピカに仕上げてくれると。
ちなみにメンテ代は、俺が払いましたよ。
フレイヤさんが、先にギルドに戻るねと店を出てから、
「その剣のメンテ代、払っときますね。おおよその金額教えて貰えますか?」
と言ったら、ベルディッシュさんが、いいのか? という目をしてたけど。
「俺が回収したんで、最後まで面倒見てやりたいんですよ」
ベルディッシュさんは金貨3枚でいいと。
なんとなくだけど、本当はもっとかかるんじゃないのかな。
その後、剣についてのアイディア(まあ早い話が刀のことなんだけどね)をベルディッシュさんに相談したりして二人であーだこーだ、店の剣をベルディッシュさんに言われて振ってみたりとかそんな感じで小一時間過ごし、フレイヤさんから必ず夕方にもう一度ギルドに来るようにと言われてたので俺はギルドに戻る。本日3回目。
ギルドで剣の引き渡しに関する書類。
「ギルドが仲介するからこそ、ましてや相手が貴族だからこの辺はちゃんとしておかないといけないのよ」
そう言ったフレイヤさんが原案として作成したその内容を一緒に精査した。
俺の名前は出してほしくないので、謝礼を受け取る必要があるのならば、冒険者ギルドスウェーガルニ支部として受け取る形ではどうだろうかと言ったら、フレイヤさんはニコニコ笑って、
「意向に沿うよう善処します」
とそう言った。
どっかでもう一度念押ししとかないとまずそう。
さて、気になることがもう一つ出てきた。フレイヤさんが言うには、こんな剣を持ったゴブリンがこの街の近くに現れるのは妙だと。俺が討伐したのが上位種でなかったことは、魔石を見てもらってフレイヤさんにも確認できた。だけど尚更に妙だと。
たまたま、下位種のゴブリンが俺を襲う直前にこの剣を拾ったというのは話が出来過ぎている。ゴブリンでもこんな綺麗な剣は、上位種が自分で持ちたがるか宝物扱いで仕舞いこんでるものなので、下位種が使い続けることはあり得ないらしい。
フレイヤさんはこう言った。
「最悪の予想をすると…。この程度の剣が珍しくない、そういう大規模な集団に属しているゴブリン」
「けど、そうするとそんな大規模な集団がこの街の近くに居るという事になっちゃいません?」
フレイヤさんは、ふうっと息を吐いた。
「ゴブリンもね。群れを分けることがあるのよ。規模が大きくなりすぎて、2匹目のキングが生まれてキング同士の力が拮抗してきた場合ね。そういう場合には互いの縄張りを荒らさないようにする」
「てことは、大規模集団の、最悪はその半分の規模のゴブリンが最上位種に率いられて新しい縄張りを求めて遠征してきたってことですか?」
「あくまでも、最悪の予想をするならばの話」
ギルドとしても、人をかけて調査をしてくれることになった。
◇◇◇
その夜遅く、フレイヤはギルドマスターの部屋の来客向けのソファでゆっくりとお茶を飲みながら、疲れを癒し一息つく時間を過ごしていた。
ぼぉっとした頭で考えてしまうのは、今日新人としてギルドに登録したばかりの青年、いや17歳だからまだ少年と言っていい年ごろか。いったいどういう人物なんだろう。美形ばかりのエルフをも魅了してしまいそうな見た目も性格も誠実さも申し分ない。おそらくは剣の実力も相当なものだろう。
ふとした時の所作の全てが彼の実力を物語っていると思った。並大抵の訓練ではあんなにはなれない。それを直感的に感じ取ってしまうのは、フレイヤが長く生きているエルフという種族だからこそ、多くの人を見てきたからこそだ。
彼に強い興味を抱いていること、フレイヤはそれを自覚した。
「こんな気持ちになるなんて…」
フレイヤは楽しいのだ。こんなにも自分をわくわくさせてくれる人物と知り合えたことが。
「明日も来てくれるかな」
フレイヤは今後、彼に関する仕事は自分が独占しようという企みを思いつく。
「専属担当という手があったかしら…」
ふふっ、と楽しげな笑いを浮かべたフレイヤは一日の疲れなど既に吹き飛んでしまっているようだった。
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